第9話 “私”のご主人様は私の夫⑥

 私の脳に埋め込まれた“アクセス機能“は一般の設備や家電にも有効で……脳内でパターンを解析してしまえば照明やシャッターの開け閉めはおろか、パソコンの操作すら可能になった。

 寝たままの私は勿論の事、家事をやってる“私”もお掃除しながら洗濯機と炊飯器と電子レンジを同時に動かす事ができる様になった(たまに複数を動かし過ぎてマンションのブレーカーを落としてしまうドジをやらかしてしまったが……)

 そうやって浮いた時間で“私”にしかできない事……絵を描いたり、康博さんの為に編み物やパッチワークを始めた。


 月日の経つのは本当に早くて……“私”の描いた絵が部屋のあちこちに飾られ康博さんの為のセーターやマフラーや手袋やクッションのストックが充分にできた頃、“契約の最後の冬”を迎えた。


 もうすぐ二十歳の私は……年相応とまでは言えないかもしれないけど……5年前と比べると見違えるほど女らしく、健康になった。


 これもすべて……康博さんが絶え間なく私に振り向けてくれた愛のお陰だ。


「これは単に瑤子個人の幸福だけではなく、瑤子の様に動く事のできない方々の希望となる」というお父様のお言葉に大きな勇気を貰えた。


 お父様の「5年の契約を終えても“瑤子”を傍に置いてもらえる様、にお願いするよ」との言葉に私は頭を振ったかぶりをふった


「その“プレゼント”ではダメなの! カレの人生はカレの物だから!! カレが自分自身の考えで、改めて私を選んでくれるのなら……その時、私は……私の願い事をお父様に言うわ!」


 二十歳の私の願い事は……今の私の切なる願い!!

 それは康博さんを抱き、抱かれる事!!


 一昨年、当時18歳だった私は見てしまった。


 その日は、いつも通り康博さんと寝て、カレが寝入ったのを見計らって私は“私”をスリープし、ベッドの中の私に戻った。


 真夜中になってどうしてもおトイレに行きたくなり、やむなく響子ママを起こそうと頭の中で“ナースコール”を押そうとして、誤って“私”を起動させてしまった。


 真っ暗なマンションの中、テレビの置いてあるリビングから妙な物音がするので、私はリビングに備え付けて置いたカメラにアクセスしたら……


 康博さんがテレビを観ながら


 私はおトイレの事などすっ飛んで、ベッドの中で泣きじゃくった。


 可哀想な康博さん!!


 何とかしてあげたいけど家事支援アンドロイドが“営み機能”に抵触する行為を行う事は重大な規約違反となる!!


 ひょっとしたら、康博さんは“私”の至らない部分を“外”で解消しているのでは?……

 考えたけで私の胸は張り裂け、生身のくせに“木偶人形”な私自身を恨めしく恨めしく思った。



 だから私は10代最後の夜に

 お布団の中で、カレが“私”にしてくれる予定ののお祝いプランの素敵なお話を聞きながら“私”を通じ熱いキスを交わした後、自らの意志で“私”の意志機能を停止させた。


 必ずこの“眠り姫”をカレのキスで起こしてくれると信じて……


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