真実を教えて
「……うわぁ!ほんとに出来ちゃった!お友達になれる?」
キラキラと目を輝かせている少年。
「僕ねぇ、ゆうぐれせかい!そっちは?」
「世界?騒がし……ん!?」
夕暮が初めて能力を使った瞬間だったのだろう。家族も能力を知らなかった様子だ。俺と茜は外に連れ出される。
夕暮世界は物に命を吹き込むことが出来る。命を吹き込む時に「人にならないかな」なんて言ったから、俺達は絶賛人型だ。成長機能付きの。
「命を吹き込むかぁ……うーん、命を扱う能力は倫理的に問題があるんだよなぁ……ね、世界。目を見て」
「なあに?」
「世界の能力はだんだん弱くなって使えなくなる。能力が使えたことも忘れて、普通の人になるんだよ」
これが初めの記憶だった。
「…………」
ベッドに寝っ転がりながら考えをまとめようとするが、なかなか上手くいかない。茜から夕暮を守っていた。いや、茜はこれといった行動をあまりしていなかったから、守っているつもりだった。それで自分を犠牲にしているなんて思ってないし、思ったこともない。そもそもなんで宇宙さんは夕暮を殺させようとしているのか。初歩的な事だったが、一度も聞いたことは無かった。理由がないなら殺しは普通に犯罪だ。理由があっても犯罪だが。こんな理由付けを始めている自分に嫌気がさしてくる。
「……宇宙さん探しに行こ」
少し広めの家の中をうろついていると、宇宙さんの後ろ姿を見かけた。
「「宇宙さん」!」
反対側から俺の声に重ねてもう一人宇宙さんを呼んだ。
「茜!?」
「紫花!」
茜もちょうど同じタイミングで宇宙さんに話があったのだろうか。いや、あの時の俺の言葉がトリガーになって茜も色々考えたのだろう。
「……ふむ。二人共僕に話があると。場所を変えようか」
俺達は宇宙さんの部屋に入れられ、紅茶を出してもらった。
「で、話って?」
「俺!宇宙さんがなんで夕暮を殺そうとするのかを知りたいんです。なんで?夕暮世界という存在が邪魔だから?」
先に答えたのは茜だ。聞きたかったことは同じだった。
「陽太は?」
「俺も同じです。理由が分からないと何も出来ない。今まで聞いていなかった方がおかしいんですよ」
「ふむ……言いたいことはわかる。でも二人の気持ちは逆の方を向いているんじゃないかい?」
痛いところを着いてくる。俺も薄々思っていた。茜にそう考えるきっかけを作ったのは間違いなく俺だ。そして、そう言えば茜が夕暮を守側に来ると思っていた。そして、予想通り茜はそっち側に行ったのだろう。
「え?逆って……」
「紫音は世界を守る方に考えが寄り始めているね?でも陽太は逆だ。今は世界を殺す方に考えが寄っている。」
正直、五分五分だ。自分の中で寄っている自覚はあまりない。ただ、十ゼロだったものが五分五分まで来ているところが、俺の気持ちの変化を表していることにも気づいていた。
「紫花……?」
「夕暮を守るより消す方が俺もあいつも楽かなって思っただけだ。夕暮も、常に命を狙われるのも嫌だろう。んな事より話を逸らさないで下さい。理由を教えてください。なんで貴方は夕暮を消そうとする?」
夕暮宇宙は自分の希望を何がなんでも叶えようとする人だ。たとえ俺達が夕暮を守ろうとしても、違う手を使って消そうとするだろう。十年以上も時間を費やした茜がそちら側に寝返るとは思わなかっただろうが。
「簡単な話だよ、世界の能力は少し危険なんだ。今は能力を無くしているけど、能力があったら物に命を吹き込むものがいいと言ったらしいじゃないか。もし、記憶が戻っていたら?何かの拍子に能力が戻ってしまったら?命を扱う能力は御法度なんだ。仮に世界が死体に命を吹き込んでみよう。死者蘇生は禁忌だ。世界なら絶対にやらない、なんてことは無い。君たちがどんなにあの子を信じていても、僕達大人はもしものことを考えないといけない。殺す、なんて事は大袈裟かもしれない。だが、確実なんだ。僕が望んで世界を殺したいわけじゃない。だけど……何かあってからでは遅いんだ」
もしかしたら、宇宙さんは俺たち以上に夕暮を思っているのかもしれない。やり方は歪んでいるが、夕暮を思う気持ちは本物なのかも。……いや、この人は能力に関係なく話術がある。常に俯瞰した状態で話を聞かなければ。
「ちょっ……と待ってください!」
茜が困惑した様子で話を止める。
「夕暮に能力?命を扱う?夕暮に能力はないって言ってませんでしたか!?実際あいつ自身もないって言っていたし」
そうか、茜はあいつの能力を……夢で見ただけで本当のことは知らないのか。
「夢で見たんだろ?夕暮が花を見て人になったらいいなって。あれ夢じゃなくて現実だと考えていい。で、宇宙さんがその後夕暮から能力を奪ったんだ。これは俺が実際に見たから事実」
「いやいや!!何言ってんの……!?俺達を花にしたのは宇宙さんでしょ!?花屋で、店員さんと会話しながら!人になったらいいなって!」
ん???
「いや、何言って……」
俺と茜は同時に宇宙さんを見る。
「あ、ごめん。僕って夢まで操れるのかなって思ってちょっとだけ実験してたんだよね。悪気はないんだけど」
「「はぁ!?」」
「いや、元々紫音には君が花であることを伝えるつもりだったよ。でも普通に伝えたんじゃ信じてもらえないかもだし、世界の能力はもう少し隠しておこうかなって思ってたんだけど。ごめん忘れてた」
つまり宇宙さんは意図的に茜にあたかも自分が俺達を作りましたよっていう夢を見せたってことだ。
「……というか、お前も気づけ。この人の能力は「目が合った人を自分の思い通りに操る」だ。つまり対人間。動物とかでも行けるだろうけど……花は対象外」
あ、と茜は声を出す。やっぱりこいつはアホだ。
「さて、話は終わりかな?僕は仕事が溜まってるからもう戻ってもいいかな」
切り上げようとする宇宙さんに俺も続く。
「はい。決まりましたよ。覚悟」
「……はい」
キレの悪い返事をする茜を置いて部屋に戻る。
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