変わりたくない

「このお花、人にならないかなぁ」

 物心着いてすぐくらいに見た夢。そこで知った、真実。

 

 



「なんだ、今更気づいたんだ。そんなのとっくに知ってたよ」

「……へ?」

 緊迫した様子の茜に話があると言われた。宇宙さんに言われたあの話かと思ったが、全然違う話だった。

「いやっ、だって現実的じゃないじゃん!俺、俺達もしかして花?なんて頭おかしいヤツかと思われると思って緊張したのに何その軽い雰囲気!」

 超能力があるという、とんでもない世界で何を言っているんだろう。

「夢見たんだよね?あいつが俺達を人にする」

「まぁ直接的じゃなかったけど。人になったらいいなぁ位。そっからもしかして……みたいな?」

 同じだ。じゃあその後のことは?……いや、あれについては夢で見たわけじゃない。俺の記憶だから、茜は知らないかもしれない。知らなくていい。

「それだけ?呼んだのって」

「……俺、今まで宇宙さんの言うことも、なんの疑いもなく「そうしなきゃ」って思ってた。多分、宇宙の能力なんだと思うけど、俺達……人じゃないじゃん。俺、人の命なんて、奪っていいのかな」

 茜は宇宙さんに忠実だ。目を見て話を聞いてしまったのだ。俺は初めからなんか好かなく、目を見て話したことがない。その後能力のことを聞き、身を救った訳だが。茜があの人に忠順な分、俺が反発してやる。守ってやる。

「それは茜次第でしょ。そもそもヴィラン側に憧れてた子じゃん。自分の意思を守るのがかっこいいって。好きにしたら?俺は俺の思う道を進むだけだから。茜が今のままいても、俺はあいつを守るよ」

 茜は「ちょっと考える」と言って戻って行った。

 前まで「人殺し?できるっしょ。銃?撃てるっしょ」とか言っていたくせに。考えが甘いんだ、あのバカ。人の命なんて俺達が花だろうがなかろうが、奪ってはいけないものなんだ。一人一人の尊いものなんだ。

「陽太。何をしているんだい?」

 後ろからふと声がした。宇宙さんだ。

「茜と会話していただけですよ。もう戻ります。では」

 目を合わせないように伏せる。その様子を気にした様子もなく、宇宙さんはそうかい、と言った。この人とあまり会話をしたくない。逃げるように部屋に戻ろうとする。

「そういえば――紫音から聞いたよ。あの子のことを守ってるんだって?」

「っ、」

「あぁ、別になにかしようって訳じゃないんだ。茜はいい子だからね。色んなことを報告してくれるんだよ。あの子、能力があったらものに命を吹き込む力が欲しいんだって?はは、これはすごい。偶然か、必然か」

 別にバレたところで問題は無い。宇宙さんは目を合わせさえしなければ大丈夫。

「でも……あの子のせいで、陽太は人生を棒に振るかい?何も知らないあの子を守るために、大切な友達と敵対して、自分のことを後回しにするかい?もしかしたら、僕に従ったほうがいいのかも」

 宇宙さんは……目を合わせさえしなければ……

「世界を……」

 聞きたくない。茜と対立なんかしたい訳じゃない。揺れたくない。夕暮だって大切な友達だから。

「夕暮世界を消せ」

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