茜紫音
「紫陽花も素敵でしたが、こっちもとても素敵な花ですね」
「ありがとうございます。ですが、この花少し色が濃くて…」
聞いたことのある会話。今まで見ていた夢。見ている花は、他のものよりも少し色が濃い。
「そうですか?素敵な色じゃないですか。この――――カーネーション」
「母の日によく贈る赤の花言葉は母への愛、母の愛、と明るいものなんですが、このような濃い赤の花言葉は」
欲望、心の哀しみ。だけどカーネーション全体の花言葉は
「無垢で深い愛、なんて明るいものになってます」
店員が笑顔で説明する。花屋の店員が花言葉を知っているのは当たり前のことかもしれない。
「なるほど……」
「ですが、最後は花言葉なんて気にせず直感で選ぶのもいいかと思いますよ。自分がいいな、素敵だな、って思ったものをお選びください」
じゃあ俺は?なんで俺はこんなに詳しいんだ。こんな、カーネーションにだけ。
「うん、決めた。どの花も素敵だけど、紫陽花とカーネーションを一本ずつ下さい」
「お買い上げありがとうございます」
夢だから?自分が天才になれる夢。でも、紫陽花の花言葉なんて知らなかった。
「そんなところに突っ立っていたら危ないよ」
花を買い、帰る途中の客に声をかけられる。今まで傍観していただけだから知らなかった。自分も存在しているタイプの夢なのか。そこで初めて客の顔を見た。
「……宇宙さん……」
「気をつけて帰るんだよ、紫音」
宇宙さんはそのまま帰っていった。夢にしてはやけにリアルな。現実かと錯覚するほどの。もしくは、自分が覚えていない位過去の話か。
…………過去?
「……んぁ」
目覚ましがなる前に目が覚めた。いつも起きるよりも十五分早い。しかし、驚くほど目が冴えている。二度寝などする気にならない。
夢の中の情報を頭の中でまとめる。俺が記憶していないほど過去の記憶。まだ仮定だが、俺がいること以外それで繋げてみる。以前見た記憶で少し引っかかった部分があった。
「この花が、人だったらいいなぁ」
変な客だな、と思った。メルヘンな人だな、とも。
背中に冷や汗がつたる。一つの考えが頭によぎる。まるで現実的ではない。有り得ない。でももし本当だったら?今まで生みの親の事なんて考えたことは無かった。なんで?もしかして存在しなかったのでは?
「気をつけて帰るんだよ、紫音」
宇宙さんの声がフラッシュバックする。
紫音。茜紫音。俺の名前。少し呼吸が浅くなる。紫花に話をしよう。もしかしたら、何か知ってるかも。
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