変わってないよ

「ネガティブなものもポジティブなものもあるなんて、面白いですね。もしも花が人になったら、どっちの花言葉が適応されるんでしょうね」

 客は興味深そうに紫陽花を見つめる。

「ふふ、ロマンチックですね。少しクールで気持ちの変わりやすい、家族想いの人になるのではないでしょうか」

 店員は笑いながらも真剣に考えている。

「確かに。気持ちの変わりやすい子でも、心の底は変わらないのでしょうね。家族想いの、芯の強い子で」

 客の瞳の奥が、少し光を失った気がした。

「紫陽花…うん、紫陽花。この花が、人だったらいいなぁ」


 


「最近、テレビでヒーローものを見てさ、ハマっちゃったんだよねぇ」

 放課後、いちばん日差しの当たる夕暮の席で三人で雑談をする。

「感性が小学生なんだろ。「正義のヒーロー!茜紫音しおん参上っ!」……つって」

「お前絶対バカにしてんだろ」

「か、かっこいいよ!茜!ヒーローとか!うん、ほんと、かっこいいよ、ヒーロー……」

「フォローが痛い」

 無理をさせてる。あまりにも無理をさせている。バカにしている紫花とフォローしてる夕暮を交互に見て少し不貞腐れる。フォローして欲しいんじゃないわ。

「どっちかっつーとヴィラン側が好きなんだよ。かっこよくね?世界を敵に回しても自分の中の正義を守るんだぜ」

 世界の誰もが自分を悪だと罵ってきて、別の正義が正しいと言わんばかりに自分を倒しに来る。それでも自分を信じ、相手と戦う。なんて強く自分の心を持っている人だ。

「厨二病」

「紫花!」

 それに、俺達にも似たような使命がある。宇宙さんから世界を消せ、なんて言われた時は困惑したが、彼が望むなら叶えて見せよう。三人で過ごす時間が楽しいから平和ボケ、なんてことはしていない。俺には常にこの使命が心にある。

「……どっか行ってるなこれ」

「隠れて驚かしてみる?」

 紫花はどうだろう。考えて行動をしているようには見えないし、なんならこの考えに否定的なのかもしれない。ちゃんと話したことは無いので、今度対一で話してみるのもいいかもしれない。

 その前に宇宙さんだ。あの人と話をしよう。あの話をされてからもう十年以上は経っている。そろそろでもいいんじゃないか?日程を決めよう。ゴールを明確にしたい。

「よーーし決めた!!!そろそろ帰ろー……ぜ?」

 いつの間にか紫花と夕暮がいない。置いてかれたと思って慌てて荷物を片付けようとすると、後ろから笑い声が聞こえてきた。

「急に虚空を見つめ出すからだ」

「置いてってないよー」

「焦ったじゃん!もー趣味が悪いんだから……」

 平和ボケをしているつもりは無いが、それなりに楽しんでいるのは事実だろうな、と我ながら思う。

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