もしもの話
「――――花言葉、知ってますか?」
また同じ夢。しかし、いつもと少しだけ違う。
「少しだけ」
客は笑いながら続ける。
「移り気。浮気。無常。僕の中のイメージはだいぶネガティブで、暗めのものです」
初めて見る会話。そしていつもと見ている花と違う。
「そうですね。しかし、辛抱強さ。家族。和気あいあい、なんてポジティブな花言葉もあるんですよ」
夢の中でも感じる気温は夏の始まりを物語っている。おそらく6月。見ている花は――――紫陽花。
「夕暮にさー、能力あったらなんだったかなー」
「おま……デリカシーなさすぎ」
引き取られてすぐ、そんな会話をした。代々能力を持つ夕暮家に生まれた一人息子は、能力を持たなかった。
「あ……えっと……」
聞いてはいけないことか、と幼いながらに思った。軽い気持ちて聞いたことだが、夕暮にとっては触れてはいけないところだったのかもしれない。
「……っういえばさぁ!今日の夜ご飯カレーだってさ!さっき聞いた!」
明らかにほっとした顔の夕暮をみて少し安心する。やはり聞いてはいけなかったのかもしれない。少なくとも、まだ親密を深められていない今は。
……なんてこともあったな、と三人で通学路を歩きながら考える。もうあれから十数年経っている。親密も確実に深まっている。今なら聞けるのでは。別段深い意味は無いが、単なる興味として。
「今日古文の抜き打ちテストあるってさ」
「今まさに抜き打ちできなくなったけど」
中身のない会話をしている二人にぶっ込む。
「夕暮ぇ!……にさ、もし能力あったらなんだったかなぁ……なぁんて……」
つい力んで声量を間違えた。二人はびっくりして目を開いている。同時に話そうとして、僅差で紫花の方が先に声を出した。
「だいぶ前にも言っただろ。デリケートな話題なんだから考えろ、あほ」
一緒にいる時間が長くなるにつれて思う。こいつ俺にだけ厳しい。
「デリケートな部分に触れたい訳じゃないんだって。単なる興味。もしもの話。なんなら俺や紫花にも能力あったらどうかなって話にする?俺はねー、全知全能」
「茜が全知全能て。神様じゃないんだから。しかも話したい話したくないを決めるのは夕暮だろ」
毎回毎回紫花は俺の話を遮ってくる。夕暮にだけ甘いんだこいつは。夕暮にバレないように紫花を睨みつける。聞き出さなきゃダメなんだよ。分かったんだろ、ヒーロー気取りかバカ。
「紫花、大丈夫だよ。茜も悪気がある訳じゃないんだから」
相変わらず人のいい夕暮は紫花をフォローしつつ俺のフォローも入れる。
「って言っても、父さんの能力がすごいだけで、その上の人たちはどってことないよ。二秒だけ浮ける、とか雨が降るタイミングがわかる、とか。だからもしあったとしても、少し足が早くなる……とかかなぁ」
「おい夕暮」
「あーなるほどねぇ。でも俺、現実的な話じゃなくて夕暮はなんの能力欲しい?って感じのニュアンスで聞いてるわ」
考えたこともなかったのか、夕暮は少し考え込んでから口を開く。その間紫花は何か言いたげだったが、気付かないふりをした。
「……物、に……命を吹き込む……とか……」
「「………………」」
ぽかんとした二人に慌てて言い訳を続ける。
「あ、いや、ちょっときもいかな!?深い意味じゃないよ!なんか楽しそうじゃん!?ほら消しゴムとか定規とかに自我があったら戦えるとか!!」
「小学生かよ笑笑」
物に命を吹き込む……。思ったよりも実用的じゃないものだったから驚いた。おっけー。記憶した。
「…………」
やたらと驚いて声が出ていない紫花が気になるが、このペースで行くと遅刻してしまう。会話が盛り上がりどんどん歩くペースが遅くなっていた。
「ほーら茜、紫花!このままだと遅刻するから!走るよ!!」
一足先に夕暮が走り出した。どうせすぐ追い抜くが。
「お前が一番遅いだろうが!」
「……じゃ、茜、お先」
「裏切り者!!!」
いつの間にかいつも通りに戻っている紫花にまで置いていかれそうになり、俺も慌てて走る。
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