第2話 初任務

 彼はルヤから色々なことを学んだ。


 六歳までに平均的な学習能力と、会話を身に着けた。普通ならありえない速度。もちろん、ルヤが手取り足取り手伝った、というのもあるのだが。


 そして、ルヤは面白半分で剣を教えた。どうせ扱えないだろうと踏んだのが間違いだったのかもしれない。二キログラムはある細剣レイピアを手渡して、少し目を離したところ、藁人形をズタズタに切り裂いていた。


 その時、ルヤは瞬時に考えた。こいつに感情を教えてはならない。と。


 そして、二年掛けて人間の急所や、剣についてのいろはを教えてもらった。そう。何を隠そう、七番が引き取られた場所はこの世界で最も強い殺し屋と言われている『黒鉄の茨くろがねのいばら』だった。


 そんなこんながありつつも、彼は八歳のときに初めての任務を行った。


 世界で一番硬い魔鋼まこうで出来た、針を巨大化したかのような姿の剣を携え、単独で貴族の城に乗り込んだ。


 兜の隙間から剣を差し込み、門番の衛兵を二人殺害。


 襲撃が来たら叫べ。そう衛兵たちは言われていたのだが、彼が暗闇に紛れて直前まで視認しづらかったのと、痛みを感じない高速の突き。そうして、二人の衛兵は死んだことを認識できないまま、安らかに地面に倒れたのだった。


 そして、城に乗り込んでからも早かった。音を立てずに歩き、適宜てきぎ隠れ、メイドたちの巡回をかいくぐった。


 彼は、無駄な殺生を好まなかった。最初の衛兵は、そこしか行く場所が無かったから仕方なく殺したのだが、出来るだけ痛みを感じないところを刺した。


 そもそも、殺しを頼まれたのは亭主のみなので、その人だけを殺せば良い。


 そうしている内に、とうとう教えられた部屋の前まで来た。

 息を殺して扉を開ける。だが、彼にとって想定外のことが起こった。


 起きていた。目標ターゲットが起きていたのだ。


 情報によればこの時間はもう寝ているはず。少しばかり混乱し、体が固まる。だが、口止めしないといけない。という衝動にも似たなにかに駆られ全力で走った。


 だが、その動きは一つの言葉によって止められる。


「君は、私を殺しに来たというのは分かる。それは受け入れよう。もうこの先長くないしな。では、?」

「メビウス様です…」

「そうか…やはり、私のことを考えて…ハッハッハ、君みたいな子どもが来てくれて助かったよ。廊下が血で溢れかえるような戦闘狂じゃなくて良かったよ」


 老人は軽快に笑いながら、ゆっくりと目を瞑る。


 彼はこれを死を受け止めたと判断し、出来るだけ痛みを感じさせないように、慎重に額を刺す。


 それだけでその老人は眠ったかのようにベッドに横たわり、そのまま動かなくなる。


 彼は足がつかないように窓から飛び降り、そのまま帰る。


 彼の目からは、何故か一筋の涙が流れていた。

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