名がない殺し屋は、愛を知る。
むぅ
第1話 始まり
その少年には親は居なかった。いや、居たかもしれないのだが、もう彼の記憶の中には無い。
物心がついた頃には、彼は路地裏にぽつんと佇んでおり、何をしたらよいか分からない状態だった。
たまに、そこを通りかかった人がご飯をくれたりしたのだが、5歳になる頃にはそのようなことは無くなっていた。
よって、彼は法を犯した。生き残るのに必死だった彼は、どのようなことでも一人で完遂した。万引きは勿論のこと、一番酷いときには飲食店のレジから金を奪ったりもした。
捕まらないほうがおかしい、綱渡りのような状況。その綱に、命綱を付けてくれた男が居た。
ボサボサの黒に近い青髪、目には生気がなく、無精髭を生やしている、なんとも怪しげな男。その男は、彼を見ると、ニヤリと笑った。使えると判断したのだろう。腰を落とし、目線を同じ高さにする。
「突然ゴメンな。俺の名前はルヤ。最近ここらで暴れているガキンチョが居るって聞いてなぁ…教会に突き出しても良いんだけど、どうするかい?」
彼は生憎、人の言葉を読み取る力がなかったため、その男が何を言っているかがイマイチよく分からなかったが、この人に逆らったら良くないことが起こる。そう本能的に察した。
彼がコクリと首を縦にふると、男はニッと笑い、彼を横に抱える。そして、何やらぶつぶつと言ったかと思えば、暗い闇が彼の視界を覆った。
次に目を覚ましたときには、ルヤという男が玉座に座っている男と会話をしているところだった。玉座に座っている男は、彼のことを一瞥した後、淡々とした口調でルヤに問いかける。
「こいつが、街で盗人をしていたガキだな?」
「はい。そうです。間違いありません」
「そうか…おい。ガキ、俺の言っていることは分かるのか?」
当然わからないので、首を傾げる程度の反応しか出来ない。
それを見て、男は頭を乱暴に掻きむしる。
「こりゃ、言葉が理解できないし、話せないな。よぉし、ルヤ。お前を教育係として任命する」
「はぁっ?!なんで面倒なことをやらせるんですか?!」
「お前は最近暇だろう?碌な任務も入っていないんだし。あと、残っている面子からしてもお前が一番学があるんだから。とっとと文句を言わずにやれ」
「酷いっすよ…」
ぶつくさ文句を垂れながらも、彼の方に近寄っていく。髭をジョリジョリと触りながら、何かを思いついたかのように話しかけてくる。
「そうだ。名前を聞いてなかったな。な・ま・え」
「………?」
『なまえ』という言葉を聞いたことがなかったため、またもや首を傾げる。それを見て諦めたのか、呆れたような声で続きを話してくる。
「じゃあ、お前の名前は7番。ななばん。な・な・ば・ん。分かったか?」
彼は初めて、名前というものを知った。
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