若い夫婦の“日々の手触り”がやさしく描かれた最良質の作品です。夕立の帰り道、彼が傘を差し出し「僕の後ろへ」と庇う場面に胸が温かくなります 。その前に彼女が吊るしたてるてる坊主も、ふたりの時間をほんのり彩る小さな祈りでした 。
宴の席で「夕焼け小焼け」をめぐるやりとりがあり、家ではその続きを「いっしょに歌いましょう」と重ね合う。外の賑わいと内の温もりが響き合う場面が素敵でした 。
さらに、彼が贈りものに“くちなし”を彫ろうと花を探すくだりは、愛をかたちにするまなざしそのもの 。花びらを写すことは、彼女との時間を写すことだと感じさせます。
派手な出来事はなくても、雨や歌や香りを通して互いを思いやる姿が積み重なり、読後にほのかな余韻が残る。今だからこそ大切にしたい、誠実で清らかな純情物語です。
今どき、小説でもなければお目にかかることの出来ない良いお話です。僕も久しぶりに一気読みいたしました。それだけ、読むものを惹き付ける魅力あふれるお話だと思いました。
<プロローグ〜新婚初日を読んでのレビューです>
物語は昭和五年の春、志村瑚子の視点から丁寧に描かれる。結婚が決まった瞬間から日常の些細な出来事まで、時間の経過を追いながら細かく感情を描写している。文章は淡々としており、過剰な修飾を避けることで、読者は自然と瑚子の心の動きに寄り添うことができる。
「……お互いのことを、もう少し知ってからでいいと思います」
結婚初夜という特別な瞬間に、静かで理知的な判断を示すこの一文は、感情を抑えた表現の中に人間味を感じさせ、読者に安心感を与える。
全体を通して、主人公の内面描写と旦那様の沈黙や行動のバランスが絶妙で、心理的な緊張感や初々しさが自然に伝わってくる点が魅力的だった。