Ep40:春休みの冒険
学校は春休みに入り、校庭の桜が満開に咲き、春の陽気が星見市を包んでいた。
星見キッズは、修了式後の星見計画の終幕を経て、4人で新たなスタートを切っていた。ケンタがチームを辞めさせられた後、新学期で新しい5年生を入れる計画を立てていたが、今は春休みを楽しむことにした。
以前から計画していた動物園へのお出かけがついに実現する日がやってきた。
とある日曜日の朝、シュウたちは星見市動物園の入り口に集まっていた。
タクミが目を輝かせて言った。
「シュウ、動物園だ! やっと来れた! キリンやゾウ、見たいな!」
シュウがタクミの手を握り、頬に軽くキスをしながら微笑んだ。
「うん、タクミ…。僕も楽しみだよ。君と一緒なら最高だ」
カナエが地図を手に、計画を確認したが、顔に微妙な影が見えた。
「シュウ、まずはゾウ舎から回ろう。その後にキリンを見て、ランチにしよう」
リナが黙って頷きながら、シュウとタクミの様子を遠くから見つめていた。
そこへ、シュウの知り合いである波崎湊がやってきた。17歳の高校2年生で、全国に名を馳せる高校生探偵だ。某有名アニメの高校生探偵に憧れてこの道に進んだ湊は、鋭い観察力と論理的な推理で知られ、BL気質も持ち合わせていた。長身で眼鏡をかけた知的な雰囲気を持つ湊が、爽やかに挨拶した。
「シュウ、久しぶり! 星見キッズのみんな、よろしくね。波崎湊です。今日は付き添いで来たけど、事件があれば即対応するよ」
シュウが湊を紹介した。
「みんな、湊兄さんだよ。僕の知り合いで、高校生探偵なんだ。湊兄さん、星見キッズのみんなだ。タクミ、カナエ、リナ、よろしくね」
タクミが湊に興味津々で話しかけた。
「お兄さん、探偵ってすごい! シュウと何か事件解決したことある?」
湊が眼鏡を光らせ、意味深に微笑んだ。
「タクミくん、シュウとはね…。数々の難事件を解決してきたよ。でも、君とシュウのラブラブぶりには敵わないね。いいカップルだ」
シュウが慌てて割り込んだ。
「湊兄さん、変なこと言わないでよ! タクミ、気にしないでね…」
カナエが冷静に言ったが、声にわずかな苛立ちが混じっていた。
「お兄さん、付き添いありがとう。私たちだけで行くより安心だね。さあ、行こう」
星見キッズと湊は動物園の中へ入った。
ゾウ舎では、タクミがゾウの大きさに驚き、シュウの耳元で囁いた。
「シュウ、ゾウ、大きい! 君と一緒に見るともっとすごいよ…」
シュウがタクミの手を握り、囁き返した。
「タクミ、僕も君と一緒が一番だ…」
湊が二人の様子を見て、ニヤリと笑った。
「シュウ、タクミくん、甘いね。BL好きの僕にはたまらない光景だ…」
シュウが顔を赤らめ、湊を睨んだ。
「湊兄さん、からかうのやめてよ…」
カナエが地図を見ながら、話を進めたが、口調が硬かった。
「シュウ、次はキリンだよ。お兄さん、キリン好き?」
湊が眼鏡を直しながら答えた。
「キリン、優雅で好きだよ。カナエちゃん、しっかりしてるね」
リナがキリンの姿を見つめ、静かに呟いた。
「キリン…きれい…」
動物園を回る間、湊は星見キッズの様子を鋭く観察していた。シュウとタクミの親密なやりとりに目を細めつつ、周囲の安全も確認していた。
お昼になり、みんなで芝生にシートを広げて各自持ってきたお弁当を食べ始めた。タクミがシュウに手作りサンドイッチを差し出し、頬に軽く触れた。「シュウ、これ、僕が作ったんだ。愛を込めてね…」
「タクミ、ありがとう…。愛を感じるよ…」
湊がニヤリと笑った。
「シュウ、タクミくんの手作り愛情弁当…。BL好きの僕には至福の時間だね…」
シュウが恥ずかしそうに湊をたしなめた。
「湊兄さん、もうやめてって…! タクミ、ごめんね…」
タクミが無邪気に笑った。
「シュウ、大丈夫だよ。お兄さん、面白い!」
カナエがお弁当を広げながら湊に尋ねたが、声に苛立ちが滲んだ。
「お兄さん、探偵として、星見計画のことは知ってる? 私たち、最近解決したんだ」
湊が真剣な表情になり、答えた。
「うん、シュウから聞いてたよ。星見計画、子供たちを利用した許せない事件だ。君たちが解決したのはすごいよ。僕も何かあれば協力する」
リナがお弁当を食べながら湊に質問したが、目がシュウとタクミに向いていた。
「お兄さん、探偵ってどうやってなるの? 私、いろんなこと知りたい…」
湊が優しく答えた。
「リナちゃん、探偵は観察力と推理力が大事だよ。好奇心は強みだ。僕もアニメの探偵に憧れて始めたんだ」
その時、近くで騒ぎが起きた。家族連れの女性が叫び声を上げた。
「誰か! お財布がなくなった! さっきまでここにあったのに…!」
シュウが立ち上がり、状況を確認し、湊に頼った。
「湊兄さん、事件だよ!」
湊が眼鏡を光らせ、探偵モードに切り替えた。
「シュウ、了解。まずは現場を分析する。星見キッズ、協力して証拠を集めてくれ」
湊は芝生に膝をつき、足跡や周囲の痕跡を丹念に観察した。
タクミが慌てて周囲を見回した。
「お兄さん、足跡あるよ! あそこに!」
湊が足跡をトレースし、推理を始めた。
「タクミくん、いい発見だ。この足跡、成人男性のものだ。靴底の摩耗具合から、最近履き古した靴を履く人物…。芝生の圧迫具合を見ると、軽快に動ける若い男だろう。犯人はこのエリアにまだいる」
カナエが冷静に周辺をチェックした。
「お兄さん、木の陰に怪しい影が見えた。男が何か隠してるみたい…」
湊が双眼鏡を取り出し、確認した。
「カナエちゃん、鋭いね。あの男、30代くらいで、ジャケットのポケットが膨らんでる。財布を隠してる可能性が高い。シュウ、君と一緒に追うよ」
シュウと湊が木の陰に近づき、男を囲んだ。湊が鋭く声をかけた。
「君、動かないで。波崎湊、探偵だ。盗んだ財布を返してもらおう」
男が驚き、逃げようとしたが、湊が男の動きを予測し、素早くジャケットのポケットに手を伸ばした。財布が現れ、湊が男を地面に押さえつけた。
「シュウ、縄か何かで縛って。証拠は確保した」
シュウが近くのロープを使い、男を拘束した。湊が家族連れに財布を返し、推理をまとめた。
「この男、動物園の混雑を利用してスリを働いていた。足跡とポケットの膨らみから、犯行直後だと判断した。完璧な推理だね、湊兄さん」
家族連れが感謝し、動物園のスタッフが男を連れて行った。
「湊兄さん、すごい…。さすが探偵だよ…」
その時、カナエが静かに口を開いた。
「シュウ…。私、チームを辞めたい。リナも同じ気持ちだよ」
リナが頷き、目を伏せた。
「うん…。シュウとタクミのイチャイチャ、ずっと見てるの辛い…」
タクミが驚いてシュウにしがみついた。
「シュウ、なんで…? 僕たち、仲良くしたいだけなのに…」
シュウが困惑しながら言った。
「カナエ、リナ…。ごめん、気づかなかった…。でも、チームを…」
カナエがきっぱりと言った。
「シュウ、君たち二人の世界が強すぎる。星見キッズはみんなのものだったはず。もう無理だよ」
リナが小さく呟いた。
「ごめん…。私、チーム出る…」
湊が状況を見守り、静かに言った。
「シュウ、別れは辛いけど、みんなの気持ちを尊重するのも大事だ。僕がフォローするよ」
ランチ後、ペンギン舎やライオン舎を回り、沈黙の中で時間を過ごした。
夕方になり、動物園を出る頃、シュウがみんなに言った。
「みんな、今日は楽しかった…。カナエ、リナ、ごめん。春休み、考えるよ」
タクミがシュウの手を握り、涙を堪えた。
「シュウ、僕、シュウと一緒なら大丈夫…。お兄さん、ありがとう…」
カナエが冷たく言った。
「シュウ、よく考えて。お兄さん、ありがとうね」
湊が眼鏡を光らせ、優しく言った。
「シュウ、タクミくんとの絆はいいけど、チームのバランスも考えな。いつでも呼んでくれ」
その夜、シュウは自宅でノートを見直していた。
動物園での事件と、カナエ、リナの脱退宣言が心に重く残っていた。
「湊兄さん…。探偵としての力、頼りになった。カナエ、リナ…。僕、チームを壊した…。春休み、どうしよう…」シュウは窓の外を見つめ、春休みの新たな課題に思いを馳せた。桜の花びらが舞う中、星見キッズの未来が不透明になっていた。
(Ep40 完)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます