第1話-移動中、輸送機にて
移動を始めてからしばらく経つが、部屋の中は静寂が流れていた。隊員も含め皆、周りの様子を窺っている。
見知らぬ人間しかいないのも理由の1つではあるが、これから戦場に向かうのだ。その緊張が伝わってくる。かく言う俺も、その緊張を発している1人だ。
そんな中、前の扉が開き上官と思われる人間が入ってきた。そう判断したのも、その人物の服装がスーツではなく制服であったこと。その意匠が自分たちのそれとは異なり、肩や襟の辺りに目立つ黄色の紋様が入っている。
その人は部屋全体を見渡せる所に移動し、そのまま話し始めた。
「諸君、入隊を歓迎する。私は特務隊日本支部第1小隊隊長、ネルソンだ」
皆、上官の言葉を聞き漏らすまいと静聴する。
「緊張しているだろう、君たちはこれから戦地へ向かうことになる。下手を打てば命を落とすかもしれない」
元々あった静寂は、より深くなった。
「しかし君たちはそれも加味したうえでここにいる。人類のために戦ってくれることを、君たち自身が保証してくれたのだ」
さらにネルソン隊長は続ける。
「先にいた我々も同じ気持ちだ。あの怪物どもから人類を守るため、命を賭して戦っている。共に奴らの殲滅を成し遂げよう」
言い終えるとスーツを着ていた隊員たちが一斉に敬礼を行う。静寂を打ち破るその音に驚きつつ、俺もそれに倣い敬礼をする。ちらと目線を動かすと、他の新入隊員も同じように敬礼を行っている。
隊長が敬礼を返してから、他の人たちも敬礼を解く。
「まもなく基地に到着する。皆、健闘を祈る」
再びドアが開き、そのまま隊長は戻っていった。
室内に再び静寂が戻り、程なくして基地に到着した。
皆が立ち上がり移動を始めようとしていた時、場をまとめていた隊員が一言、
「白雪と
思わずキョトンとしてしまった。基地に着いたのにこのまま待てとはどうゆう事だろう。
「なんで俺ともう1人だけ待機なんですか?」
おそらく長谷と思われる人間が、質問を投げかけた。
「この輸送機を管理しているチームが君たち二人の配属先だ。なのでこのまま輸送機のドックまで乗っていてもらう」
輸送機を管理しているチーム、つまり補給部隊ということだろう。
ヒーローを目指すには最前線で戦うことが一番の近道と考えていたので、肩透かしを食らった。
前線で命を賭して戦う覚悟を持ってきたが、自分が戦うことは少なくなるのだろうか。
しかし補給部隊とは言え、前線で味方に支援を行う重要な役割を担う。理想とは遠くなってしまうが、最善を尽くせばいいだろう。
長谷はさらに質問をする。
「俺たちは前線に物資を運ぶだけの部隊ってことですか?」
「特務隊にそんな専門部隊はない。話は以上だ、あとの内容は配属先の隊長に聞いてくれ」
そこで質問は打ち切られ、隊員とほかの新入隊員は輸送機を降りてそれぞれの配属先に向かっていった。
「結局どんな部隊かわからずじまいかよ」
長谷が独り言ちつつ俺の隣に座り直した。
「気にしても仕方ないよ。嫌でもこの後わかることだし」
「それはそうなんだがよ」
理解はできても納得できない様子で唸っていた。
長谷も前線に出て戦うつもりでここに来たのだろう。俺と同じだ。
「俺は前線に出られなかったとしても、その場所で最善を尽くす。まずそれが出来なきゃ、何にも出来ないと思う」
偉そうに講釈を垂れてしまった。しかも初対面の、一緒に戦うであろう人間に。
「……そうだな、今やれる事をやらなきゃ。あんがとな」
長谷は気を悪くしていなかった、むしろ納得している。
「今のうちに自己紹介、オレは長谷
アインは握手を求めてきた。
「こちらこそ、白雪裕理です。俺もユーリでいいよ」
握手に応え、しばらく交友を深めた。
輸送機が再度動きだし、ドックへ向かう。
「結局、どんな部隊なんだろうな。オレ達の配属先」
アインは配属先が気になって仕方ないようで、話題に上げてきた。
これに関して、気になっているのは右に同じである。
補給部隊ではないという事は先程の隊員のセリフで分かるが、入隊者を輸送する仕事が回ってくるくらいだ。前線にあまり出なさそうな雰囲気はある。
「俺も気にはなるけど、さっき話した通り。やれる事を全力でやるだけさ」
「そうだったな、考えても仕方ないか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます