第1話-入隊初日

「気をつけてな、裕理ゆうり。」

「うん、わかってるよ父さん」

「本当に気を付けてね、あなたの無事を毎日祈っているよ」

「ありがとう母さん、それじゃあ行ってくるよ」

 

 特務隊の制服を着込んだ俺は、両親に挨拶をし家を出る。

 今日は俺の入隊日である。7年前の怪獣災害にあったあの日から、1つの目標としていた日でもある。

 

 7年前の恐怖は片時も忘れることはできなかったし、俺にとって、あのヒーローを忘れることはなかった。

 俺はあのヒーローのようになりたいと思っていた。

 特務隊のスーツを身に纏い、軽々と怪物を斬り伏せたあの姿に俺は憧れた。

 この手で怪物たちを倒すため特務隊に入り、あのヒーローと共に戦いたいと。

 

 正直両親は反対していただろう。自ら体験した危険な場所へ望んで向かうという、端から聞いたら自殺行為をおいそれと許す訳はないだろう。

 しかし俺がトレーニングに励んでいた時に両親から止めるような言葉もなく、好きなようにさせてくれていた。本当に感謝でしかない。

 

 住む場所も変わりながら気が付けば7年の月日が経ち、入隊試験を合格。俺はヒーローへの第一歩を踏み出したのだ。

 特務隊から試験時に渡されていたデバイスを確認し指定された場所へ移動する。家からはそう離れていないため歩いて向かい始める。


 歩きながら、俺はこの町で過ごした事を振り返っていた。この辺りに越してきて3年程だったか、小さい頃から育った訳では無いが、離れる事になるとやはり後ろ髪を引かれる。

 

 今歩いている道も、体力作りで毎日ランニングしていたコースだ。朝、このコースをぐるりと回り、その先の廃校でトレーニングを行ったら夕方に同じコースを回って帰宅する。

 トレーニングと言っても専用の設備があるわけではないので、筋トレの延長みたいなものだったが、少なくとも体力作りは成功している。

 

 疎開先でもあるこの山間の町は大きくなかったが、周りの人達と助け合いながら日々過ごしていた。近所の人間も怪物に住む場所を追われ、自分たちと同じ境遇だった。

 もうこんな思いをする人間を増やさないようにしなければと自分を奮いたたせる。俺が皆の希望になるように。


 俺は近くの廃校の校庭に着いた。ここが指定された場所のようだ。

 昔は子どもたちの学び舎としての役割を果たしていたのだろうこの学校も、時代の流れや怪物災害の影響で廃れてしまった。

 誰もいなくなったこの場所で、最近までトレーニングをしていたのも懐かしく感じる。

 

 改めて場所に間違いがないか確認しようとした時、急に影が落ちる。さらに上から猛烈な風を感じたと思ったら、上には輸送機が現れていた。


遠くから近づいてくるような音もなく頭上に出現したそれはゆっくりと目の前に着陸し、搭乗口から人が出てきた。

 少し駆け足気味で近づいてくるその人は、軽装備ではあるが特務隊のスーツを身に纏っている。

 

「君が白雪しらゆき裕理で間違いないか? デバイスを確認したい」

「はい、こちらに」

 そのままデバイスを隊員に渡すとそれをひとしきり確認した後、自身のデバイスで何かを打ち込んだのちに返された。

 

 隊員はそのままついて来いと言わんばかりに輸送機に向かって歩き出したので、俺もついていく。

 搭乗口が開き、隊員に続いて乗り込む。輸送機なのでコンテナに詰め込まれないかと身構えたが、そんなことはなかった。

 

 通されたのは旅客機のような座席が並んでいる部屋だった。旅客機と違う点としては、座席の数は10席ほどと少なく、その間隔がかなり広いこと。そしてその座席には先客がいた。

 

 俺と同い年くらいか年上の男女が5人、男4人に女1人という構成。特務隊のスーツではなく、制服を着ている。

 この5人も俺と同じように入隊試験を合格した人たちだろう。俺が彼らを見渡した時に、彼らの視線も俺に集まった。

 

 みな俺の顔を見るだけでなく、なんとなく吟味しているようなものを感じる。

「こいつは自分とどれくらい差があるのだろうか」


 なんて考えているような、そんな観察の視線。

 俺も彼らに似たような視線を向けていたのでお互い様である。

 先程の隊員に空いている席へ誘導され、そのまま着席する。

 少しして体を椅子に押し付けられる感覚があり、輸送機が移動を始めた。

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