第1話-配属先
「到着だ、ついてこい」
輸送機がドックに着き、乗り込んだ時の隊員が呼びにきた。どうやら彼が先輩だったようだ。
アインと席を立ち、先輩について行く。途中、別の隊員と合流した。
その隊員は整備服、いわゆるツナギを着ている。
おそらく輸送機を操縦していたメカニックの人だろう。
「ゆうり~!」
上のほうから俺を呼ぶ声が聞こえた。
呼ばれた方へ振り返ってみるに、女性が「おーい」と言わんばかりに手を振っていた。
腰辺りまである明るい栗色の髪。制服を着ているが、遠目からでもわかるスラリとしたモデルの様な佇まい。
そんな女性は、今にもアハハと言わんばかりの笑顔を俺に向けていた。
……おかしい。あんな美人と知り合いだっただろうか?
住む場所も転々としていたが、そこで見た知り合いでもない。
とりあえず手を振り返す。向けられた好意は無下にできない。
美人を眺めていたら誰かに呼ばれたのか、部屋の方へ振り返りそのまま中に入っていった。入る直前も俺に手を振り、とても嬉しそうだった。
「おいおい、こんなところにあんな美人の彼女がいたのかよ。なかなかやるなお前」
アインが茶化しながら肘を当ててくる。
「いや、彼女じゃないよ。残念な事に見覚えがない」
「ホントか? あんなにお前に向かって笑顔振りまいてるのに?」
「ホントだよ。アインだって、あんな美人忘れるわけないだろ」
「確かに、それはそう」
アインもおどけながら肯定した。
今まで過ごしてきた中で、あそこまでの好意を向けてくれた異性なんていただろうか……?
顔合わせをするタイミングまでになんとか思い出そう。
――――
表札に[隊長室]と書かれた部屋の前までやってきた。
……結局、美人の名前等は思い出せなかった。
「失礼します」
先輩がドアを開け、続いて入室する。
中には3人。小隊長らしき制服姿、隊員用の戦闘スーツ姿、そして先程の美人が並んでいた。
一緒にきた2人はスーツ姿の隣に向かい、新人2人がその並びと向かい合わせで立つ形になった。
「本日からお世話になります、白雪です!よろしくお願いします!」
「同じく長谷です!お願いします!」
2人で敬礼を行い、対面も皆敬礼で応える。
「久しぶり!裕理!」
例の美人が急に目の前まで来る。握手までしてきた。
俺とそんなに変わらないほどの背の高さで、改めてスタイルの良さを感じる。近くで見ると更に美人だ。
……だめだ、本当に思い出せない。
「ごめんなさい……どちら様でしたか……?」
失礼を承知で質問をする。これだけ好意的な人に、こんな質問するのは絶対よくない。だがわからないことをうやむやにするのは、もっとよくない。
「ひどーい!覚えてないの!?昔あんなに一緒に遊んだのに!」
昔一緒に遊んだ、ということは小学生くらいの話だろうか。そのころ遊んでた相手といえば、活発な女の子だった記憶がある。
自身の名字のこともあり、同性からかなりイジられていた。というより、いじめられていたのだと思う。
「姫ちゃん」と男女問わず呼ばれ、その度に「違う!」と怒りをあらわにしていた。それが見ている分には面白かったのだろう。
そんな中で1人だけ、あだ名ではなく名前を呼んでくれる子がいた。
その子は1つ年上の女の子で、近くに住んでいたこともありよく遊んでくれた。
あだ名で呼ばないことが不思議だったので、何故みんなと同じように呼ばないのか質問を投げた。帰ってきた答えは、
「私と同じだもん!お花の名前みたいでとってもキレイなのに。みんなが呼ばないから私が呼んであげたいの!」
とのことだった。
なんとも上から目線ではあったが、自分の名前をキレイと言われ、子供ながら目を丸くした。
それを言われてからはあだ名に関してあまり気にならなくなり、いじられることもなくなっていた。自分の名前に自信を持ち、いじられようと無反応を貫いた結果だ。
両親の仕事の都合で俺が引っ越すことになり、連絡もそれっきりだった。
名前は確か――
「もしかして……スミレちゃん?」
「そう!スミレだよ!やっと思い出してくれた!」
スミレは喜びを露わにしているが、俺は驚愕している。
小さいころのご近所さんと、戦地で会うとは予想もつかない。ましてや一際目を奪うような美人になっていたらなおさらだ。
……ずっとうれしそうな顔でずっとこちらを見続けてくれるが、心臓に悪い。
――――
「ごめんよ、
「……あっ!すみません、隊長!どうぞ!」
隊長と呼ばれた男性がスミレを制しながら前に立つ。その制服にはネルソン隊長と同じ意匠の、白い紋様が入っていた。
2人で敬礼を行い、隊長がそれを返す。
「初めまして白雪君、長谷君。僕がこの第9小隊隊長、
少しくたびれたような雰囲気はあるが、物腰柔らかそうな隊長だ。
敬礼を解くと隊長から握手を求めてきた。2人で順に握手をし、隊長から改めて紹介が始まる。
「スーツを着てるのが
ここまで一緒にきた隊員が十林さん、この部屋で待機していたのが染谷さんのようだ。紹介を受けて、二人がお辞儀をしていたの、それを返す。
「ツナギの子がメカニックのデム君」
整備服の隊員がその場で挨拶をする。
「デムっす!よろしくお願いするっす!」
よっ!と言わんばかりに腕を上げて挨拶をされた。こちらもお辞儀で返答。
「そして……いや紹介はさっき自分でやってたか、うちの紅一点、菫ちゃんだ」
「はーい!改めてスミレです!アイン君もよろしく!」
テンション高めで、ピースサインまでしながらスミレは挨拶をした。
「改めて2人とも、これからよろしくお願いね」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
改めて敬礼をして、姿勢を正す。
「そんな堅くならなくていいよ?気楽にいこう、気楽に」
隊長は手をパタパタとしながら言う。少し楽観的に感じてしまう。
輸送機内で「命を賭して戦おう」と、ネルソン隊長からの話があったからか、周防隊長は危機感というか使命感が足りないと感じてしまった。
「結局、僕達はどんな任務につく部隊なんですか?」
アインは単刀直入に質問を投げた。単刀直入過ぎないか?と思ったが、彼は良くも悪くも真っ直ぐなんだろう。
「すまないねぇ、僕ら窓際部隊って外で呼ばれたりしてるのよ。悲しいけど」
「……窓際? いったいどうゆう」
「重要な仕事を任されない、ってとこかな。遠方の警備とか、今回みたいな輸送とか」
……つまり雑用をこなすための部隊ってことだろうか。まさかそんな部隊が存在しているとは思いもしない。
思わずスミレの顔を見る。隊長の話は流石に嘘だろうと。しかしスミレの目は泳いでいた、それも川を登る鮭のような勢いで。
先輩方の様子も確認した。2人とも不服そうな態度で隊長を見ている。
デムさんは隊長の言葉には興味がなさそうで、逆にこちらの様子を窺っているようだ。
これらの様子で察するに、隊長の話は本当らしい。
「もちろん警備中にもU.D.Cと会敵するから、重要じゃないって言っても危険だからね?そこは間違えないように」
前線には基本出ないかもしれないが、怪物とは戦闘する事はあるみたいだ。
とりあえずは今の仕事を頑張ろう。
「まぁ今日は一通りの業務の話をして――」
話を遮るように隊長室に警報が鳴り響く。対面の皆が険しい顔になる。
「……うちにお呼びがかかるとは、珍しい」
隊長はぼやきつつ俺たちに向けて、
「ごめんね2人とも、初日だけど出撃だ。もっかい輸送機にお願い」
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