第2話 勉強はただの筋トレ

「んっんっんー🎵」

先生の鼻歌、それにしては音がデカすぎるのだが、不思議なメロディを鼻ずさみながら、凛子のノートにデカデカとバツをつける。

「残念だったね凛子さん!!連続不正解!ある意味おめでたい!ハイターッチ!」

なんでこの人はこんなにハイなんだろう。

凛子はイライラしながら、彼の掌を握り拳でぐりぐりしておいた。

正解できなかった問題が、解答例を見ると案外呆気ないとわかって、凛子の視界は潤んだ。

泣いちゃダメ。思わずノートをギュッと握りしめる。

「もお、いけずだぞ⭐︎ 凛子さん、人間に生まれたからにはね、」

主語がでかすぎるだろうと感じながら、凛子はぎっ、と先生を睨む。ニカッ!と眩い笑顔が太陽にきらりと、涙でぼやけた視界に反射する。


「人間に生まれたからにはーー

やはり、何かを乗り越えないといけないんだって僕は思うんだ。最近の凛子さんは勉強をするのが当たり前のことになってるんだ。前より遥かに成長している証拠だよ。けれど凛子さんには、凛子さんなりの目標や夢があった方がもっと楽しくやれると思うんだ」


先生、いやーーー筋肉だるまは、南中した太陽に黄金に照らされていた。

凛子は、そういえば、自分がどうして勉強を嫌いになっていたのか、思い出せなかった。

あと、このテンションのおかしい筋肉を誰か止めてくれと思いつつ、窓のそばに立つ黄金色の先生から目を離せない。


「思い出してごらんよ、凛子さんはすでにたくさん乗り越えてきたんだ!だけど、まだモヤモヤがたくさんあるはずだよ…考えてみて。君ならできるんだ」

そういえば、さっき連続不正解って言われた時、どうしてあんなに悔しかったんだろう。

ていうか、間違えることが、いつのまにこんなに悔しくなったんだろう。


「きっと、凛子さんは、勉強のことを、書道か何かだと思ってたんだろう?

間違えるたびに怒られて、否定されて、正解じゃないって、塗りつぶされちゃうんだ。

だけど、違うよ。

勉強はただの筋トレなんだ。誰にでもできるし、才能なんて関係ない。その行為に美しさなんて必要ないんだ。

バカも天才もいない、

筋肉だけがあるんだーーそれが勉強なんだよ。

先生の筋肉の輝きを見て!ほらこれが先生自慢の」

「わかりました」

「ええっ!?」

「先生がキザの筋肉バカって改めてよくわかりました。あと、私はそれよりずっとバカでした。私がもうちょい可愛くなかったら、危うく東大に行かなきゃいけないくらいバカでした」

「えーそれ何ひろし?」


私はズカズカと歩いて、先生の手からテキストを取り上げ、問題を解き直す。

先生は私が問題を解いている間、後ろでスクワットをしている。フンフンうるさいけど、先生は必ず25分やったら私の採点をする。おかしなポモドーロ法だ。

フンフン!フン!フンフン!

フンフンフンフンフンフン!!

フンフン…フンフン!

フンフン!フン!フンフン!

フンフンフンフンフンフン!!

フンフン…フンフン!

フンフン!フン!フンフン!

フンフンフンフンフンフン!!

フンフン…フンフン!

フンフン!フン!フンフン!

フンフンフンフンフンフン!!

フンフン…フンフン!

フンフン…フンフン!

フンフン!フン!フンフン!

フンフンフンフンフンフン!!

フンフン…フンフン

「先生、できたけど」

「ええっまだ16分しか経ってないよ!凛子さん」

「でも終わらせたんだってば」

「いや、嘘だろ!

凛子さん、本気なのかい!?

君、天才だよ!!!先月までは数字を見ると吐き気が止まらなかった君が!!

なんて素晴らしいんだ、凛子さん!!!!!!!!!!!!君は、天才だぁぁっ!!!!」

天才はいないとかさっき言ってた気がするけど、この人はあんまりそういうの気にしないんだろうか。そういえばバカと天才って紙一重なんだっけと先生は思い出させてくれた。

なぜなら先生は半泣きで喜びの腕立て伏せを始めた。

ていうか、なんか私より喜んでるし。

「早く採点してください」

ぶっきらぼうに言うと、先生はすくっと立って私の肩に手を置いた。なぜかさっきより泣いている。鼻水もびしょびしょで、なんかキモい。

「凛子さん!

成長ぶりが満点なのにまだ上を目指すのかい!?君、君ってやっぱり将来は総理大臣とかになまた方がいいんじゃないか…?」

「言い過ぎでしょ。…まあ、悪くないね。私、なってあげてもいいかな」

「おお、凛子さん!夢はでっかくチョモランマ!!僕の筋肉にも負けないくらい立派な夢だねえ!必ず叶えようね!」

うんうん、と頷きながら先生はまた泣きながら採点を始める。

「うん…うんうん、惜しいっ!!一問間違いだ!でもこんなにすぐにできるようになるなんて、やっぱり凛子さんは…なんか加護がある系の数学の女神的なアレに好かれてるんだろうね!最高!」

そんな曖昧なアレじゃなくて、きちんとした数学の女神がよかったけど、まあいいやと思えた。こういう五月蝿い日曜日も、凛子は結構好きなのだ。

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脳筋カテキョとツンデレjk @marnu

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