第49話 決戦Ⅳ
人の往来があったはずの駅舎付近は、静寂で満たされていた。これは、注意がタチバナミナトに向けられているせいなのか、それとも本当に人がいなくなっているのかはわからない。
「光を処理するための器官である目を瑰玉化すると、魔眼と呼ばれるらしいね。だったらボクには瑰玉が、魂が二つあるってことになるのかな。茅と名付けられていた人間には、生まれた時から世界を感じる魂が他よりも多かったんだね。だから、恋人に出会って変われた。落ち着いた子になったらしいよ。そのあと、交合して部位を交換してやがて一つの肉塊になることを目指した訳だ。ボクと一緒じゃないか。食べて一緒になる。どうして未来ちゃんは邪魔するのさ」
タチバナミナトは立ち上がり、構えた。息を吸い込み、その唇が動くのを見る。
それにかぶせるように、オレは叫ぶ。
【
【
空気が裂ける音が耳を刺す。皮膚が破けるような線状の痛みが走るが、タチバナミナトに向かって進む。脳天めがけ、刀身を振り下ろすと、青年だった躰は真っ二つになって、赤い池を作っていた。
「捕食するために手を凝らしたのか。今回は残念だったな。以前のように無差別に喰らえばよかったものを」
赤い飛沫を浴びるほど、近くで見ていたひすいさんが、タチバナミナトに呼びかける。
発声器官も分割されたせいで、泡を吐いているだけで、言葉にも、節にもなっていなかった。
「ひすいさん、これで、終わったんですか」
「構えを解くな」
ひすいさんに腕を掴まれ、彼女の背後に回された。
血だまりは、周囲の瓦礫や道路の舗装を飲み込み、元の人の形に戻っていく。
「前言撤回。今のは結構痛かったよ」
元の青白い顔の青年がそこに立っていた。
嘱目するスフェーン 武田杏 @anzu_Takeda_3939
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。嘱目するスフェーンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます