第13話 研究所の中3

「無加工だからこそ、賊になったと言いたいのか。全く。そんなもは東京警備局の四番隊が専門だろうに。何故我々の元に寄越したのだ。しかも、土産として」

 明らかにユークレース女史は苛ついている。狗飼研つまり、狗飼“研究所”である。ここに来る前に、オレたちはこの研究所所属であろう人間もどきを修理してきていた。それも含めて警戒してほしいと頼んだのだろう。

「私は、無料では何も取引しないと決めているのさ。それは相手にものを要求する時でも変わらない。今時、完全無加工、つまり何も矯正をされてない心理的傾向を所有している亜鈴などそうそういるものではないだろう。検体としても有用なはずだ。それを対価として、私はお宅のカルテを見せてほしいと頼んでいる。これはカリナン第一位の監査ではない。地獄蝶としての契約の話だ。其方は研究をしているのだろう。『より攻撃性を高めた心理傾向を持つ人間もどきの開発』を。これに関するカリナンの返答は今のところない。最も、私が監査を命じられたところで研究は止めたりしないけれど。まあ、ほどほどにしておいたほうがいいとおもうけれどな。今朝、酒川製薬の人間もどきヒューマイムと小競り合いになっていただろう。そういうのが頻発するようでは、其方の研究もまだまだ実用化には程遠いだろうな」

 ローテーブルにあった、コップを持ち、ひすいさんはオレに差し出す。毒見をしろ、ということだろう。

 一口飲んでみたが、毒が盛られている様子はなさそうだ。

 ユークレース女史は深いため息をついた。

「酒川製薬の件は不可抗力だ。仙台堀の辺りで輸送に関するトラブルがあったそうだ。幸いにもどちらにも殺傷が起こったという話は伺っていない」

 今度はオレが、驚く番だ。三人殺しておいて何もなかったは無いだろう。

「いや、酒川製薬の人間もどきヒューマイムが三体破壊された。見せしめになっていたところを、どうしてもという、ユーイチの頼みで私が直した。報告したのが誰だかは知らないが、瑰玉と、咏回路の見直しをしたほうがいいぞ。虚偽の発言はクセになる。記憶領域のカッティングと瑰玉の強度を上げる必要があるだろうな」

「・・・・・・。わかりました。魔眼に関するデータを持ってこさせましょう。媒体はどうしますか」

「紙でいただけないかな。かさばるほうが嬉しい」

 女史の隣にいた人間もどきに声を掛けると、奥の扉へ消えていった。書類を持ってこさせるのだろう。差し出されたコップをひすいさんに戻すと、彼女は、それを一息に呷った。喉が渇いていたらしい。

「こちらの検体は丁重に取り扱います。これからデータは手渡しますが、今後は直前の面談は受け付けません。1週間前までに連絡をするように」

 はいはい、と適当な相槌を打っていた。

 これで、この死体の正体に近づいたのだろうか。

 漠然とした不安を抱え、書類の到着を待った。

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