第14話 ユークレースの号令
虚ろな表情で、人間もどきが、紙束の山を持ってきた。
「過去10年間の眼に関する咏回路、並びに律回路所有者のデータよ。ここにあるようなデータは地獄蝶のあなた方ならいつでも閲覧できるはずよ」
真偽を確かめようと、ひすいさんの顔を見たが、書類に夢中になっていた。この状態のひすいさんには何を言っても適当な返事しかかえって来ないだろう。顔を上げると、ユークレース女史と目があった。
「この変態には質問をしても無駄だから、貴方に尋ねるわ。貴方、何者なの」
オレは答えに詰まる。
記憶はある。ありとあらゆる暴力を受け、四肢を捥がれ、腹の中に刃を貫かれたこともあった。まもなく意識が途切れる、その間際に芹澤ひすいと出会った。その後、彼女の手でいくつかの改造を施され、現在に至る。
「この人の助手で用心棒ですよ。人間もどきだの、亜鈴だの、そんなのどうでもいいじゃないですか」
「亜鈴というよりは、鈴鳴でしょう。既に回路が起動しているじゃない」
ふりかえると、抜刀状態の人間もどきに囲まれていた。人数は20人ほど。朝、殺されていた人間もどきかから考えると、手練れであり、高い攻撃性を有しているのではないか。
鯉口を斬る。オレが鞘から抜いた瞬間に、斬りかかるのだろう。
「あの地獄蝶がこちらへ出向いてくれるだなんて機会、滅多にないもの。生きた亜鈴を改造して、回路は人間もどき、瑰玉は天然、追加で律回路まで埋め込まれた珍しいモノまで連れてきているという。これで、カリナンへの道と、奏術の進歩が進むはずよ」
非常事態にも関わらず、ひすいさんは書類を読み込んでいる。一枚の用紙で手が止まった。土生津さんに頼まれた遺体の件だろうか。
「外れだったようだね。可能性があるとすればファイアがよく見られるこの石かな。おっと、随分と嫌われているな。ユーイチ、全部ぶち壊していいぞ。私も久々に運動とでも行こうかな。殺したところで、いくらでももとに戻せる」
「その技術がありながら、何故、それをカリナンに広めない。東京でそれが扱えるだけでもどれほどの人間が救われるだろうか。いくら瑰玉があるといえど、一度死んだ亜鈴や鈴鳴は二度と同じ様子になることは、ない。なのにお前は、地獄蝶はそれが可能だ。何故だ」
ユークレース女史が叫んだ。確かに、人間もどきでなければ、通常、死んだ人間はもとには戻らない。オレもほとんど死んでいた状態から、復元されて今に至っている。
「今回の眼の無い死体の瑰玉探しは、このブローチを渡されて、かつ魔眼に興味があったから引き受けた。何故、死人を生きたままの状態に戻す技術を教えないのかだって。それは、私がこの技術に興味が無いからだ。この技術は私と、相楽ユーイチ。この二人のため以外には一切使う気も無ければ広める気も無い。それがわかったのなら刀を納めることだ」
「総員、地獄蝶を捕えろ」
ガラス張りのロビーに捕縛の号令が響いた
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