49. 苦難があっても

 ドーラと出会ってから半年。

 私の周りでは色々なことが起こった。


 まず、元義両親の国家反逆罪が認められ、公開処刑が決まった。


 他にも分かったことがあって、私のお母様もお父様も、あの二人によって殺されていたらしい。

 どんな手を使ったのかは教えられなかったけれど、やり場のない怒りが消えることは無かった。


 治癒魔法を利用して苦しめる方法を思いついているけれど、今の立場でそんなことは出来そうにない。

 だから、せめてあの世でも苦しむようにと、神様にお願いしている。




 当然だけれど、ザーベッシュ家が実質的に取り潰しになった。


 実質的にというのは、まだザーベッシュ家自体は残っているから。

 あの家では色々あったけれど、生まれ育った家が影もなく消えるのは嫌だと漏らしたら、お父様の弟にあたる叔父様が爵位継ぐことになったのよね。


 正確に言うと、ザーベッシュ家は取り潰しになり、空いたザーベッシュ伯爵の座に伯父様が就いた。

 だからザーベッシュ邸は残っていて、今では従兄弟達とお茶をする場所になっている。

 私が寝起きしていた物置小屋は跡形もなく消えているから、屋敷に入っても嫌な記憶は蘇らなかった。


 ジュリアはというと、私に暴力を振るった罪で五年間の農園での強制労働が決まった。

 聖女候補の資格は剥奪され、強制労働の後は修道院に送られるから、私が自ら赴かない限り顔を合わせる日は来ないと思う。




 一方の私はというと、正式に聖女として認められることになった。

 与えられた役目は、怪我や病を治すことと魔物を退けることだ。


 魔物の方は私達が背中に乗れるほどまで成長したドーラが食事と称して狩り尽くしているし、怪我や病は私がまとめて作ったお水で癒されているから、週に一度の水を補充する日以外は自由に過ごせている。


 そのお陰で、社交界に出ない日はイアン様とお出かけしたり、家でのんびりと過ごすことも出来る。

 今日はイアン様とお茶をする約束の日で、朝から侍女に囲まれ身支度をしているところだ。


「アイリスお嬢様、こんな感じでいかがでしょうか?」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」


 今日は社交界に出ないから、装飾品は最低限だ。

 でも、小さな三つ編みが飾りになっているから寂しい感じはしなかった。


 ドレスも今日は動きやすいものを選んでいるから、立ち上がっても肩が軽く感じる。

 いつもは慎重に降りている階段も、今日は足を自由に動かせるから怖くない。


 そうして玄関でイアン様の迎えを待っていると、馬車の車輪の音が聞こえてきた。

 

「――お待たせ、アイリス。今日も綺麗だよ」

「ありがとうございます。イアン様も格好良いです」


 迎えに来てくれたイアン様と言葉を交わし、彼の手を借りて馬車に乗る。

 彼と出会ったばかりの頃はこの段差を超えるだけでも精一杯だったけれど、今は少し背が伸びたお陰で、頑張れば一人でも乗れる。


 もう一つ良いこともあって、二人で並んで歩いていても身長差が縮んだから、イアン様に屈んでもらわなくても話しやすくなったのよね。

 まだ同じ歳の令嬢の中では低い方だから、もっと背が欲しいけれど、幸いにも清涼は止まっていないみたいだから、結婚する頃にはイアン様の肩くらいの背丈になっていると嬉しい。


「それでは、出発いたします」


 御者台から声をかけられ、馬車が動き出す。

 王宮まではあっという間だけれど、私はいつものようにイアン様に身体を預ける。


 そして王宮に着いてからは、手を繋いで庭園へと足を向けた。

 普段は部屋の中でお茶をするのだけど、今日は珍しく庭園でゆっくり過ごせるらしい。


 その分警備が厳重になるそうだけれど、空からドーラも警戒してくれているから、何かが起きることは無いと思う。

 半年前はこんなに平和になるなんて想像出来なかったけれど、今はどこでも安心して過ごせるくらいだ。


 ドーラのお陰もあると思うけれど、イアン様が色々なことに動いていることを知っているから、彼にも感謝している。

 でも……


「アイリス、愛しているよ」


 ……ふと聞こえてきた言葉のせいで、鼓動がうるさくなる。


「私も同じ気持ちです」


 だから、お返しにとイアン様の頬に唇を触れさせる。

 すると彼は一気に顔を赤くして、恥ずかしそうに視線を背けた。


 視線は合わないけれど、この時間さえも心地よい。


 きっと、これからも苦難は待っていると思う。

 でも、一度苦難を乗り越えたのだから、次の苦難も乗り越えられる。


 そんな風に思えた。




𝐹𝑖𝑛.

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義妹の引き立て役はもう終わりにします 水空 葵 @Mizusora

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