10,ワーマ星
雄介達が乗ったマザーシップは、遂にワーマ星の近くにやって来た。
ワーマ星からは、やはり強力なエネルギーが放出されているようで、マザーシップは一定の距離を置いてワーマ星の近くに停止した。
「やはりこれ以上は、このマザーシップでは近づけません。ここからは小型の宇宙船でワーマ星に行くことになります」プッペ議長が皆に説明した。
「了解です。ここまで来れば十分です。ではワーマ星のマザーさんにテレパシーでコンタクトしてみます」雄介は、自分の部屋で瞑想に集中しマザーにテレパシーを送った。
『マザーさん、ギャラクシーユニオンの天野です。私の声が聞こえますか。私達は今あなたの星の近くまでやって来ました。私の声が聞こえましたら返事をお願い致します』
『天野さん。マザーです。私の星に来て下さったのですね。ありがとうございます』
『マザーさん。あなたは命がもう長くはないとお話しでしたが、大丈夫ですか』
『ありがとうございます。まだ今の所は大丈夫です。この星の今後を見とどけなければ、私も死ぬ訳にはいきません』
『マザーさん、あなたの星のことや、今後についてお話がしたいのですが、私がそちらに伺えばよろしいのですか』
『はい、そうして下さい。私はこの星の一番大きな木の一番高い所に居ます。直ぐに分ると思いますよ。ではお持ちしております』そう言ってマザーとのテレパシーは終了した。雄介は、早速シップでワーマ星に向かうことにした。
「雄介一人で行くのか。僕と由香里も一緒に行くよ」良太が心配している。
「大丈夫だと思うよ。君達は総会の準備もあるだろうから色々相談しておいてくれ。マザーさんにワーマ星の何処かを総会の会場として使ってもいいか相談してみるよ」
「それは有難い。もし会場が設置できればパーティーも開催できる。もしダメならこの宇宙空間で、各星の宇宙船をリモートで繋いで開催しようと思っていたけど、マザーさんに相談してみてくれよ」
良太が色々考えているようで雄介は頼もしく思った。
「分かったよ。じゃあ行って来る」そして雄介は、一人シップに乗ってワーマ星を目指した。
「シップ、ワーマ星から出ているエネルギーの影響を、君は受けないの」
「私は、大丈夫です」
「そうなんだ。でも何故大きな宇宙船だとワーマ星に近づけないんだろう。ワーマ星からはどんなエネルギーが放出されているのか不思議だ。シップ、ワーマ星の一番大きな木が分るかい」
「雄介様、直ぐに分かりました。あれです」
雄介がシップの窓からワーマ星を見ると、ワーマ星の森の中にひときわ大きくそびえる木が分かった。その木は、周りの森の木々よりはるかに大きくそびえ、幹の太さも地球で言えばオーストラリア大陸程の太さが有るのではないかと思えた。
「凄い木だな。こんな木を見たことが無いよ。樹齢で言えば何千年になるんだろう。いや何百万年かな。しかし凄いな。シップあの木の一番高所に行ってくれないか」
「承知致しました」
そしてシップは、そのとてつもなく大きな木の天辺に近づいた。その木の天辺は、少し平らな所が有って周りは幹に囲まれていた。そこに女性が一人立っているのが見えた。
「あの人がマザーだ」雄介は、一目マザーを見ただけで、マザーが発する何かを感じた。
「あの人は凄い。あの人からは凄いオーラを感じる。なんて凄い人なんだ。シップ、あの人が居る所に着陸してくれ」
「了解です」
シップは、ゆっくり大きな木の天辺の平らな所に着陸した。そしてスッテプを下ろし雄介がシップを降りるとマザーが近寄って来た。雄介は、テレパシーではマザーと会話ができたが、直接会っての会話は翻訳機が必要だと思い、ポケットから翻訳機を取り出してジェスチャーで、それを耳に付けるようマザーに手渡した。マザーが翻訳機を耳に付けたので雄介は挨拶をした。
「マザーさんですね。私が天野雄介です。初めまして」
マザーは、少し日に焼けた地球のアジア系の人のように見えた。身長は150センチ程で小柄だ、髪は肩より少し長く白髪交じりだ。顔にしわも有って歳は80歳位に雄介には感じた。頭には鳥の羽で作った冠のような物を着けていて、服装は布を何枚も体に巻き付けているように思えた。しかし背筋はしっかりと伸びていて矍鑠としている。
「天野さん、よくいらして下さいました。私がマザーです。お会いできて嬉しく思います。ではゆっくりお話ししましょう。こちらにどうぞ」そう言ってマザーは、少し大きな幹と幹の間の通り道に入って行った。
雄介もマザーの後ろに付いて行った。その通り道の先は、少し下り坂になっていて、しばらく歩くと8畳程の部屋のような所に着いた。その部屋の壁は細い木の枝が何重にも重なり、壁のようになっている。天井は葉で覆われ、所々から木漏れ日が差し込んでとても心地よい明るさになっていた。部屋の中央には、大きな木を切って作った丸太でできたテーブルと両脇に木製の椅子が有った。
「天野さん。そちらにお掛け下さい」マザーが奥の椅子に掛けるよう雄介に促した。
「ありがとうございます。では失礼いたします」そう言って雄介は、丸太のテーブルの奥の椅子に腰を下ろした。その椅子はなんとも言えない座り心地の良い椅子だった。ひじ掛けも付いていてこの椅子なら何時間でも座って居られる気がした。
「天野様、何か飲み物はいかがですか」
「ありがとうございます。では頂きます」
するとマザーは、部屋の奥に別の部屋が有るようで、そちらに向かって声を掛けた。
「お茶をお持ちして下さい」
すると奥から若い女性が木製のコップにお茶を入れて持って来た。その女性の歳は15歳位に雄介には思えた。やはり少し日に焼けたアジア人のような感じで、雄介のことが珍しいのかチラチラと雄介を見ながら、雄介とマザーの前にコップを置いてまた奥に下がって行った。
「どうぞお召し上がり下さい」
「ありがとうございます。それでは頂きます」そういって雄介は、ゆっくりお茶をすすった。
「なんという風味だ。このお茶は凄く美味しいですね。初めてこんなに美味しいお茶を頂きました」雄介は、お茶の美味しさに感動した。
「このお茶は、この大きな木の葉から作ったお茶です。お気に召して頂けて良かったです」
「ところでマザーさん。あなたのオーラは凄いですね。あなたからは強いオーラのエネルギーを感じるのですが何故ですか」
「そうですか、天野さんには私のオーラが感じますか。それはこの星の中心に有る木のお蔭だと思います。その木からこの星に住む者はエネルギーを貰い元気に生活しております」
「そうなんですね。この星の木は凄いエネルギーを持っているのですね。ところでマザーさんがテレパシーでお話しでしたことですが、少し詳しく伺ってよろしいですか」
「はい、どうぞ」
「マザーさん、あなたは何故私の名前を知っていたのですか」
「私は天野さんがテレパシーを使えるようになられた時から、あなたの存在に気が付いていました」
「そんなに前から私を知っていたのですか」
「はい、私は常にこの星の木を通じて、宇宙全体に意識を向けて集中しているのです。ですからあなたがテレパシーを使って話されていた内容は全て分っています」
「そうなんですか。凄いですね。なぜそのようなことが可能なのですか」
「この星の、この木が発するエネルギーは、この宇宙全体に通じる潜在意識その物なのです。あなたが使っているテレパシーも潜在意識を介して相手と話をしていますね。その潜在意識の基がこの星のこの木なのです」
「ちょっと待って下さい。私が理解している潜在意識とは、この宇宙に存在している全ての知性を持った生物が、無意識の中で潜在意識と繋がっていて、その潜在意識を介することによって、その相手の心の中や過去、現在、未来までも見通すことができるものと思っていました。では全ての知性を持った生物の潜在意識は一旦この木を介すると言うのですか」雄介は、マザーの言葉に驚いている。
「潜在意識がこの木を介するのではなくて、この木その物が潜在意識の基だと言っても過言ではありません。この木の中で全ての知性を持った生き物の意識は繋がっているのです」
「それは凄すぎる。それは本当ですか。全宇宙の潜在意識がここに有るなんて。この木に全宇宙の全ての知性を持った者の潜在意識が繋がっているなんて信じられない」雄介は驚きを隠しきれない。そして更に雄介はマザーに尋ねた。
「マザーさん、その木に集まる潜在意識と宇宙波動エネルギーは同じ物なのですか」
「この星の木に集まる潜在意識と宇宙波動エネルギーは、別の物です。宇宙波動エネルギーは、この宇宙全体を司る偉大なるエネルギーです。宇宙波動エネルギーはこの宇宙の全体に存在しているのです」
「そうですか。マザーさん教えて下さい。あなたはこの木に対して何をしている人なのですか」
「わたしは、この木の中にある潜在意識を、私の魂を使って全宇宙に放出する役割をしているのです」
「ではあなたはこの宇宙にとって、なくてはならない存在ではないですか。あなたが居なくなったら全宇宙の潜在意識は繋がらなくなるのでしょう」
「この星では代々、私のような能力を持った者が私と同じ役割をして来ました。しかし現在この星の中には、私と同じ能力を持った者が居ないのです。私は長年私の後を継ぐ者が現れるのを待って居ました。しかしもうこの星の中には私と同じ能力を持った者は出てきません。しかも私の命もそんなに長くはありません。もし私が居なくなってしまったら大変なことがこの宇宙に起こります」
「それはそうです。潜在意識が無くなったらどんなことになるのか想像もつきませんが、大変な事態が起こることは目に見えています。マザーさん、もしかしてこの星は、この宇宙の中心なのですか」
「この宇宙に中心などありません。この宇宙に存在する全ての物がこの宇宙の中心で、全ての知性を持った生物の心がこの宇宙の中心なのです。その知性を持った生物のバランスを保って繋がっていた潜在意識が繋がらなくなって、バラバラになってしまったら、どんな事態がこの宇宙に起こるのか私にも分かりません」
雄介は、マザーの言葉にゾッとした。
「もし人々の潜在意識が繋がらなくなってしまったら、この世はどうなってしまうのでしょう。潜在意識が繋がらなくなってしまうと、人々の心と心が通はなくなる。優しい心も、愛の心も通わない、過去も現在も未来も無い、人々は無になってしまうのでしょうか」
「天野さん、ですからこの星のこの木は、必ず守る必要があるのです。そして私と同じ役割をする者も必要なのです。どうかこの星の中心の木と全宇宙の為にお力をお貸しください」マザーは深々と頭を下げた。
「分かりました。必ずこの星のこの木と、マザーさんが行っている役割を守っていかなければなりませんね。ところでもう少し疑問に思っていることを教えて下さい。この星に私達は大きな宇宙船でやって来たのですが、大きな宇宙船はこの星に近づくことができません。それは何故ですか」
「それは、それだけこの星がこの宇宙にとって重要な役割をしているかです。大きな物は全てこの星には近づけません、それは人工物でも自然物でも一緒です。大きな隕石などもこの星には落下しません。この星のこの木が発するエネルギーで、この星は守られています。この星に害を与えない小さな物はエネルギーの影響を受けずに入って来ることは可能です」
「そうなんですね。それとこの星に住む人は何人位いて、どのような生活をされているのですか。今までこの星は謎に包まれていて、私達の資料には詳しい情報が無いのです」
「この星に住むのは、私達の部族だけで、人口は10万人程の小さな部族です。私達はこの大きな木の中に住んでいます。この木の中は迷路のように通路が繋がっていて、それぞれの家族が住んでいる部屋も多くあります。食べ物もこの木が与えてくれます。この木の実が主食で、木の葉や皮も食べることができます。水も木の幹から湧いて出て来ます。私達部族は長年この木を守り、そして木と共に生きてきたのです」
「そうですか。しかしこの木は大きいですがこの星の陸地には全て木が生えているのですね」
「この星の木は、一本だけです。この大きな木が中心ですが、全ての木が根で繋がっています。ですからこの星に存在する木は一本だけなのです」
「そうなんですか。潜在意識と同じですね。全ての知性を持った生き者の潜在意識は繋がっていますが、この星の木が全て繋がっているのと同じなんですね。だいぶんこの星のことが分かってきました。ではマザーさん、あなたはご自分でもテレパシーが使えますね。その能力はどのようにして身に付けられたのですか」
「それは、この星には代々、私のような能力を持った者が選ばれて、そして訓練をしてこの能力を身に付けていくのです。この星の中心の木の基で意識を集中していれば自然と能力が身に付いてきます。しかし全ての人間が同じ能力を発揮できる訳ではありません。それなりに選ばれた者でないと、いくら訓練しても能力を発揮することはできないのです。それは天野さん、あなたも同じですね」
「そうですね。マザーさんは全てがお分かりですね。それでは、あなたはテレパシーが使えるのに、何故自分から私にコンタクトされなかったのですか。私が瞑想してこの星に意識を持って来たときに、初めて私に声を掛けて下さいましたね。もっと早くに私とテレパシーでコンタクトできたと思いますが」
「それは天野さん、自然の流れを待っていたのです。この世の中にはそれなりに流れがあります。自分の我を押し通しては、上手くいく物も上手くいかなくなることがあります。天野さん自ら私の星に意識を向けて下さったのが自然の流れだったのです。それより先でも後でも無い。あの時がこの星の順番だったのです」
「そうですか良く分りました。凄いですね。マザーさんは全てを理解されていますね。私の能力では敵わない程の魂をお持ちです。大体分かって来ましたが、私より優れた能力をお持ちのマザーさんでもできないことが、私の能力でこの星の木やマザーさんを助けることは可能なのでしょうか」
「天野さん。それはあなた自身で宇宙波動エネルギーに聞いてみて下さい。そうすれば分るでしょう」
「そうですか、そこまでお分かりなんですね。では少し失礼して宇宙波動エネルギーに聞いてみます」雄介はその場で瞑想を初めた。そして宇宙波動エネルギーに尋ねた。
『宇宙波動エネルギーよ、お尋ねします。私がこの星、ワーマ星の中心の木や、ここに居るマザーさんを助けることができるのですか』すると雄介の左の耳の奥で『ポク、ポク』と音がした。
「マザーさん、できそうですね」
「それは良かったです」
「マザーさん、あなた程の能力をお持ちなら、もう全てを知っているのではないのですか」
「天野さん、あなたがこの星を救って下さる人だとは分っています。しかしどのようにしてこの星の中心の木と、私が行っている役割を助けて頂けるのか、それは分かりません。それはあなたにしか分からないのだと思いますよ」
「そうですか分かりました。では私は一旦宇宙船に帰って今後の対応を考えたいと思います」
「天野さん、この星を救うことができるのは、この宇宙の中でもあなただけなのです。どうかよろしくお願い致します」
「そうですか、よくわかりました。それと私共は、ギャラクシーユニオンと言って銀河の中で文明を持った星が集まって連合を作っている集まりの者なのです。その連合の力で今回あなたの星をお助けするのですが、お助けするにあたり、連合加盟の全星の承諾が必要となります。そこでギャラクシーユニオン会員の承諾を得る為に会合をこの星の外の宇宙空間で行うか、もしくは、この星の何処かで会合を行わせて頂きたいのですが、どうでしょうか」
「そうですね。天野さんがギャラクシーユニオンの総理事長をされていることは分っていました。それに連合の全加盟星の承諾が必要なことも知っております。会合をされるのでしたら陸地は木が生えていて無理ですので、海に何か浮かべて海の上で行うのは構いません。いかがですか」
「それはありがとうございます。ではそれも帰って相談して参ります。それでは今日はこれで失礼いたします」雄介はそう言って立ち上がったがマザーが声を掛けた。
「天野様、最後にこの木の中心をご覧になって帰って下さい。この木の中心には広い空間が有って、そこにこの宇宙の全潜在意識が集まっている所があるのです。是非ご覧になって下さい。そうすればこの星のこの木の重要性がご理解頂けます」
「分かりました。是非見せて下さい」
マザーは立ち上がって部屋の奥へと入って行った。雄介もマザーの後に付いて部屋の奥に入って行った。しばらく歩いて行くと急に大きく開けた場所に着いた。その空間は雄介には東京ドームよりも遥かに広く感じた。そして、その空間の中央には、木の幹なのか何本も太い幹が絡み合って床から天井まで100メートル程の高さで繋がっていた。
「何ですかこれは」思わす雄介は、マザーに聞いた。
「これがこの木の中心です」
マザーと雄介は、その空間の天井近くから入り壁に沿って下へ降りて行った。その空間の中央の何本も絡み合った幹は少し透き通った感じで、それぞれが綺麗な色で光っている。そして床の方から天井に向けて、その幹の中を何かが流れていて、下から上に上がっているのが見えた。
「この幹の中を下から上に流れているのが、全宇宙の知性を持った生き者の潜在意識のエネルギーなのです」
雄介は言葉が出ない。何て凄い物なんだ。これが潜在意識の中心なのか。それにしても凄すぎる。
「天野さん、是非ともこれを守って頂きたいのです。よろしくお願いいたします」マザーは再び雄介に頭を下げた。
「よく分かりました。これを見ると、どれだけこの星とこの木が、この宇宙に重要な物なのかが分かりました。私達にどのようなことができるのか考えまして、またご報告に上がります」雄介は、さっき下りて来た通路を上がって行った。そして木の天辺の広場に出た。雄介がシップに近づくとシップはステップを下ろした。
「それではマザーさん失礼いたします。今日はありがとうございました。またご報告に参りますのでしばらくお待ち下さい」
「分かりました。お待ちしております」
雄介はシップに乗ってマザーシップに帰って行った。
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