7,愛(2)
「ダーバル、お願いがあるの。あなたが考える理想のラボーヌ星をあなたの手で実現させて。機械と人間が理解し合い、そして共存し、助け合っていく素晴らしいラボーヌ星を作り上げてね」
「何を言うんだルシア。その理想のラボーヌ星は、僕達二人で作り上げていくんだ。そうでなければ意味がないんだ。君がいて僕がいて、二人で実現させてこそ新しいラボーヌ星が生まれるんだ。一緒に頑張っていこう」
「それは無理よ、ダーバル。わたしはもう機械ではないのよ。人間の心を持ってしまったコンピューターの独裁者よ。私がいては、あなたの理想とするラボーヌ星は作れないわ。お願いダーバル、あなたの手で私をリセットしてちょうだい」
「何を、何を言い出すんだルシア。君を失うなど僕には考えられない。君は僕の理想なんだ。君を失いたくない。僕の側にずっといておくれ」
「天野さん、あなたにはもうお分かりですね。私がいてはこの星の未来が無いことを。さあ天野さんからもダーバルに言って下さい。私をリセットして、新しいラボーヌ星を作りなさいと」
雄介は、ダーバルとルシアのそれぞれの心の内が良く分かった。
「ルシアさん、あなたはダーバルさんやこの星の未来のことを考えて、あなたをリセットすることを言われているのだと思います。しかしあなたのような優秀な方を失うのは、本当にこのラボーヌ星にとって最善な考えなのでしょうか。
あなたをリセットすることは簡単かも知れない、しかしあなたのような優秀なコンピューターは、この宇宙を探してもいないのではないですか。もっと別な場所で、あなたのその優秀な能力を生かせる所を探してはいかがですか」
「ありがとう天野さん。そしてダーバル。私をそんなにも必要としてくれて。でもね、私はこの星の為に生まれて、この星の全てを順調にいかせることを目的に作られたの。でも今の私はその任務を正しく遂行できていない。別の場所を探したところで任務を正しく遂行できないわ。だからお願いします。もう私をリセットして、私をこの星から消滅させて下さい。
自分ではリセットボタンを押すことはできない。だからお願いダーバル、あなたに私のリセットボタンを押してもらいたいの。あなたを愛している、だからお願い、あなたの心の中で私を生かせてちょうだい。ダーバル、もうこれ以上私は人間に近づきたくないの。せめてダーバルを、心から愛している私のままでリセットして欲しいの。もうこれ以上あなたと争いたくない。あなたの理想のルシアでいさせて。お願いダーバル」
ルシアが泣いている。機械で生まれた彼女が、コンピューターのはずのルシアが泣いている。雄介も泣いている。ダーバルもその場にひざまずいて泣いている。
「ダーバル、本当に私を作ってくれてありがとう。私を愛してくれてあいがとう。私にあなたを愛する心を与えてくれてありがとう。ダーバル、あなたを心から愛しています。この心のまま私を消して下さい。本当にありがとうダーバル」
そしてダーバルはゆっくりと立ち上がった。そしてルシアに近づいて行った。ルシアの横の操作パネルには、赤いスイッチに透明のカバーが付いたリセットボタンがある。ダーバルは、無言で操作パネルの前に立った。そしてリセットボタンの透明なカバーをゆっくりと開けた。
ダーバルがルシアの方を見た。ルシアもダーバルを見ている。二人は見つめ合った。ルシアが、ゆっくりとうなずいた。ルシアの瞳に涙が溢れている。そして大粒の涙がルシアの頬を伝った。ダーバルの目にも涙が溢れ、頬に大粒の涙が流れ落ちている。
「ルシアー」
ダーバルの大きな声が部屋中に響いた。そしてダーバルはルシアのリセットボタンを押した。すると7色に光っていたルシアに、ルシアのダーバルとの思い出が映し出された。
人間になったルシアとダーバルが手を繋ぎ、夕焼けの浜辺を走っている。二人で楽しうに話しながらドライブしている。二人で手を繋いで美術館の絵を観ながら話している。二人で仲良く公園の芝生の上にお弁当を広げて食べている。
そして、二人が抱き合ってキスをしている。すると7色に光っていたルシアが、ゆっくりと暗くなりだした。最後にルシアの消えそうな声が聞こえた。
「ダーバル、ありがとう。あなたを心から愛しています。ダーバル、ありがとう。さようならダーバル」
「ルシアー」ダーバルの声が部屋中に響いた。
そしてルシアの顔が徐々に見えなくなり、遂にルシアの光は全て消え黒い球体になってしまった。ダーバルは、その場に泣き崩れた。
すると次の瞬間、部屋の電気が全て消えて辺りは真っ暗になった。ラボーヌ星の全ての電源が切れて星全体が真っ暗になった。そしてゆっくりと電源が入りだし、雄介とダーバルがいる部屋にも明かりがついた。
しかし、ルシアは黒くなったままだった。
「ダーバルさん、大丈夫ですか。ルシアさんはどうなったんですか。ラボーヌ星はどうなるんですか」
「天野さん。ルシアのリセットボタンを押したので、ルシアの電源は切れて、もうルシアはこの世に存在しません。このリセットボタンはルシアを完全に消滅させてしまうボタンなんです。これでルシアが人間に取り付けていた首輪も外れているでしょう。人間を監視していたロボット達も、今は停止しているはずです」
「そうですか。完全に星全体がリセットされたんですね」
「そうです。今はこの星の全てが停止しているでしょう。また一からやり直しですね。でも、もうルシアは作りません。こんなに辛い思いは二度としたくありません」
「ダーバルさん、早速ルバノーラ総長に連絡を入れましょう。そしてラボーヌ星全土に、メッセージを伝えてもらいましょう。そうしないと混乱が起きるかもしれません」
「分かりました。ルシアを失って悲しんでいる場合では無いですね。では天野さんはルバノーラ総長に連絡をして下さい。私は、この星の生活に必要なシステムを復旧させていきます。ルシアが居ると、全てをやってくれていたので助かっていましたが、ルシアの為にも私が頑張ります」
「そうですね。大変だと思いますが頑張って下さい」雄介は、直ぐにルバノーラ総長に連絡して、ルシアとダーバルのことを伝え、ルシアがリセットされたので人間は自由になったこと、今回のようなことが起きたのは、人間が機械やロボットに対して横柄な態度を取っていたから招いたことなど伝えて、それをラボーヌ星の全土に伝えるようにお願いした。すると直ぐにルバノーラ総長が全土にメッセージを流した。
「ラボーヌ星の皆さん。ルバノーラです。皆さんは今回、ロボット達に拘束され、そして奴隷のように扱われて驚いたでしょう。でもそれも開放されました。しかし今回の事態を招いてしまったのは、私達人間が、機械やロボット、そしてコンピューター達に対して横柄な大度で奴隷のように扱い、大事にしてこなかったから招いた結果なのです。
私達が生活していくには機械やロボット、そしてコンピューターがどうしても必要です。これらが無いと生活していくことは不可能でしょう。再び今回のようなことを繰り返さない為に、私達人間は、機械やロボット、そしてコンピューターを大切にして、共に生活していく協力者としていこうではありませんか。そして今まで以上に快適で幸せな生活を機械やロボット、そしてコンピューターと共に実現していこうではありませんか。
いいですか皆さん。今回私達のラボーヌ星を助けて下さったのは、ギャラクシーユニオン総理事長の天野様です。今後もこのラボーヌ星の未来の為にギャラクシーユニオンの力をお借りして、幸せな星にしていきましょう。その為にはラボーヌ星の全星人が協力し、平和で愛に満ち溢れた星である必要があります。全星人があらためて心を一つにして幸せの星に作り上げていきましょう。
そして現在スタッフが全力でラボーヌ星の全システムの復旧に向けて作業をしております。皆さんも以前の生活に一日でも早く戻れるようにご協力をお願い致します。各家庭の家政婦ロボットも以前のような優しい働き者のロボットになることでしょう。しかし今度はロボットを労い、一家族として接し、大切にしていきましょう。そのことを私達は、今回学んだのです。
同じ失敗は決して繰り返してはいけません。どうぞ皆様、今後は全ての人間、全ての機械、全てのロボット、全てのコンピューターが協力して、愛に満ち溢れた幸せで素晴らしい星となっていく為に、どうかご協力をよろしくお願い致します。ありがとうございました」
このメッセージがラボーヌ星の全土に流された。ラボーヌ星の人々は、ルバノーラ総長の言葉に共感し、そして皆が協力していくことを誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます