1、依頼(2)
雄介は、その日の夜自宅に帰って瞑想に集中した。アロンからラボーヌ星の画像を送ってもらい、それを頼りに遥か1,200万光年の彼方にあるラボーヌ星を意識の中で探した。
「まずは、現在のラボーヌ星の様子を見なければいけないな」
雄介が意識を集中させ瞑想していると、色々な星が頭の中に現れてきた。
『ん、この星は海が多い星だな。この星では無いな。これかな。でも違うな。この星はガスに覆われている。これはどうかな。これも違うな。これは岩石だけの星だ』
しばらく瞑想を続けていた雄介の意識の中に、銀色に輝く星が見えてきた。
『これだ、この星だ。この星に違いない。アロンから送られてきた画像そっくりだ。やっと見つけたぞ』雄介の意識の中に現れたラボーヌ星の姿は、星全体が銀色に輝き、まるで金属でできた、メタルの星のようだった。
『この星には、緑が一切無いな。それに海は有るけど海も銀色だ。陸地には全て建物が建っているようだ。凄い星だな。もう少し近づいてみよう』雄介の意識は、街の中に入って行った。街の中は、ほとんどの建物が高層ビルで陸地が見えない程だ。建物どうしは上層部で横に繋がっていて、それぞれのビルを行き来できるようだった。雄介は建物の中を見てみた。
『人が居た。この星の人は、見た目は我々地球人と同じだ。しかし何故なんだ。みんな無表情で黙々と掃除をしているように見える。そしてみんな首に同じ黒い首輪をしている。誰かに拘束されているようだ。誰も何も話さない。みんなが黙っている。どうなっているんだ。何故なんだ』
雄介は、ラボーヌ星の人々の様子を見て不思議に思った。どの建物の中を見ても同じだった。人々は首に黒い金属性の首輪をつけている。そして、その首輪は何かと交信しているのかランプが点滅している。そして皆がモップやほうきなどを持って無言で掃除をしているのだ。
夕方になり突然皆が掃除を止めた。そして皆が掃除道具を片付け一列になって歩きだした。
『何処に行くんだろう。付いて行こう』雄介の意識は、無言で歩く人々の後を追った。すると人々は、大きな建物に集まって来る。その建物の中に入ると、一人ひとりが6畳ほどの部屋に入って行く。中に入ると入り口の金属のスライドドアが自動で閉まった。部屋の中の様子を見ると、部屋には窓は無くトイレと洗面台、そしてシャワーとベッドが一つあるだけだった。
『ここは独房だ』
同じような建物が所々にあり、そこにも多くの人が収監されている。中にはビジネスホテルに収監されている者や、ワンルームのマンションに収監されている者もいた。この星の全ての人間は、独房に収監されているようだった。
『何故だ。何故なんだ。この星の人は何故独房に収監されているんだ。誰がこんなことをしているんだ』雄介には理解できなかった。
『この星の総長が独裁者なのか。でもこんなことをしてもなにも楽しくないだろう。何故なんだ』
雄介は、他の建物の中も見て回った。高級マンションのような建物も沢山あった。以前は家族で生活していたようだが、今は誰も住んでいない。小型の宇宙船も沢山停めて有るが誰も使っていない。ショッピングセンターやレストランなどもあるが、人は誰も居ない。とても近代的な発展した星なのに、全ての人間は拘束されているのだ。
『いったいこの星はどうしたんだ。以前は、人々が楽しく生活していた形跡があるのに、今は誰も生活を楽しんでいない。全ての人間が独房生活じゃないか』雄介は、なんだか凄く怖くなってきた。
『よし、このことをアロンに報告しよう』
雄介は、意識を戻した。そして今見て来たラボーヌ星の様子を直ぐにアロンに報告した。
「アロン聞こえますか。ラボーヌ星の様子が分かったので報告します」雄介は、さっき意識で見たラボーヌ星の様子をアロンに話した。
「そうなんだ。そんなことになっているんだ。ラボーヌ星にいったい何があったんだろうか」アロンも不思議に思った。
「アロン。ラボーヌ星が以前、ギャラクシーユニオンに加盟していたころは、どんな様子だったんだい」
「以前のラボーヌ星は、とても近代的で技術的にもとても発展した星だった。ラボーヌ星の総長も、とても人望が厚く優秀な人だったが、どうしてしまったんだろう」アロンも雄介の報告を聞いて不思議でしょうがなかった。
「雄介。申し訳ないが、ラボーヌ星の総長にテレパシーでコンタクトして、何があったのか確認してくれないか」
「分かった。アロン頑張ってみるよ。それでラボーヌ星の総長の名前は何て言うの」
「総長の名前は、ルバノーラ総長だ」
「了解、コンタクトしてみるよ。何か分かったらまた報告するよ」
雄介は、アロンの話を聞いて益々不思議に思った。以前のラボーヌ星は、今のようでは無かったんだ。総長も有能な人物だったみたいだし、いったいラボーヌ星に何が起きたんだろう。雄介は、それからラボーヌ星のルバノーラ総長に、テレパシーでの交信を試みた。
『ルバノーラ総長。ルバノーラ総長、聞こえますか。私はギャラクシーユニオンの天野と言います。私の声が聞こえましたら心の中で良いので返事をして下さい』
『誰だ。誰かが私の名前を呼んでいる』
ルバノーラ総長の意識に雄介はコンタクトできた。
『ルバノーラ総長ですね。私は、ギャラクシーユニオンの天野と申します。アンドロメダ星のアロンの依頼で、ルバノーラ総長に私がテレパシーで交信しています』
『はい、聞こえます。ギャラクシーユニオンの天野さん。ルバノーラです。やっと助けに来てくれたのですね。長い間待っていました。ありがとう』ルバノーラ総長は、なんだかとても安心した様子だった。
『ルバノーラ総長。ラボーヌ星に何が起きたのですか。ラボーヌ星がギャラクシーユニオンを脱会されてから、音信不通になったと聞いていますが』
『ラボーヌ星がギャラクシーユニオンを脱会したですって、そんなはずは無い。ラボーヌ星がギャラクシーユニオンを脱会して何の得が有るのですか。それに総長の私が知らないうちにギャラクシーユニオンを脱会するはずがないではないですか』総長は雄介の言葉にとても驚いている。
『総長はラボーヌ星がギャラクシーユニオンを脱会したことをご存じ無いのですか。私はギャラクシーユニオン前総理事長のアロンから確かに聞きました』
『アロン様が前総理事長。それでは今は誰がギャラクシーユニオンの総理事長なのですか』
『現在は私、天野がアロンの後任として総理事長を務めております。それで今回私がテレパシーでルバノーラ総長にコンタクトして、ラボーヌ星に何が起きたのか確かめているのです』
『そうでしたか、天野さん。でも私が知らないうちにギャラクシーユニオンを脱会していたなんて驚きました。なぜこんなことになっているのでしょうか』
『ルバノーラ総長、総長にも分からないのですか。いったいラボーヌ星に何が有ったのですか』
『天野さん、もう数年前のことです。ある朝、私が目を覚ますと首に金属の黒い首輪が取り付けてありました。それは我が家に居た家政婦ロボットが付けたのです。その時私の家族は、妻と長男長女の四人で生活していたのですが、その朝家族全員の首に輪が取り付けられていました。
その首輪を外そうとしても外れず、それまで私達家族に従順だった家政婦ロボットも、誰かに操られているのか全く言うことを聞かなくなっていました。そしてロボットに抵抗しようとすると首輪に電流が流れるのです。
私は、それから独房に入れられ、時々ロボットに連れられて外を散歩したりするのですが、誰とも会話することもできず、ずっと独房生活です。食事などは、きちんと与えられてはいるので、私を殺そうしている訳ではないのですが、いったい誰が何の目的でこのようなことをしているのか、いまだに分かりません。
家族ともそれ以来全く会えない状態で、家族やラボーヌ星がどうなっているのかとても心配です。天野さん、どうかお願いです私達のラボーヌ星を助けて下さい』
『総長。今ラボーヌ星の人々は全員、首に輪が取り付けられて奴隷のように掃除をさせられて、独房生活を強いられています。いったい誰が何の目的でこのようなことをしているのでしょうか』
『やはりそうですか。全ての人がそのような目に遭っているのですか。なんと痛ましいことか』総長の辛い思いが雄介にも感じられた。
『ルバノーラ総長。何故こんなことになったのか心当たりは無いのですか。』
『心当たりと言えば、こんな事態になる前のラボーヌ星は、とても近代的に発展していて、全てがコンピューターで制御されていました。交通システムや電気、上下水道、通信、物流、学校や病院、そして星の行政機関や民間の会社など、全てがコンピューターで繋がれていたのです。
そして全ての家庭に家政婦ロボットを配置し、人々の生活も快適に過ごせるようにしていました。そこで世界中のコンピューターを管理するセンターを作り、そこのメインコンピューターに、世界中のコンピューターを繋いで管理させていたのです』
『そうですか。ではそのメインコンピューターに、何か不具合でも起きたのでしょうか』
『分かりません。しかしそのセンターの管理を任せていた責任者は、とても優秀な人間でメインコンピューターを作った人間です。私も絶大なる信頼を置いていたのですが、彼に何かあったのかも知れません。今は彼もどうしているのか全く分からない状態です』
『分かりました。では、私がそのメインコンピューターを作った、センターの責任者の方にコンタクトしてみます。そうすると何が分るかもしれません。ルバノーラ総長、その責任者の方の名前を教えてください』
『はい、その者の名前はダーバルと言います』
『分かりました。では早速ダーバルさんにテレパシーでコンタクトしてみます。ルバノーラ総長、もうしばらく頑張って下さい。必ず私達ギャラクシーユニオンがラボーヌ星を救いに参ります』
『ありがとうございます。天野さん。今の私には何もできません。このラボーヌ星の総長として悔しくてたまりません。何卒このラボーヌ星をお救い下さい。よろしくお願い致します』
雄介には、ルバノーラ総長の苦しい胸の内がよく分った。
雄介は、ルバノーラ総長とのテレパシーを終了して、早速ダーバルとのテレパシーでの交信を試みた。
『ダーバルさん。ダーバルさん聞こえますか。ラボーヌ星のダーバルさん、私の声が聞こえたら心の中で良いので返事をして下さい』
『た・す・け・て』
『ダーバルさんですか。ギャラクシーユニオンの天野と言います。いまテレパシーであなたにコンタクトしています。ダーバルさん、あなたにいったい何が有ったのですか』
『た・す・け・て・く・れ』
『ダーバルさん、どうしたんですか。あなたは、かなり衰弱していますね』雄介は、ダーバルの異常に気付き、ダーバルの様子を意識で見て見た。するとダーバルは、とても狭い空間で体全体がワイヤーやチュウブのような物で繋がれていて、貼り付けのような状態にされていた。
『何故こんなことに』雄介は驚きが隠せなかった。
『た・す・け・て・く・れ』ダーバルが心の声を振り絞っている。
『ダーバルさん分かりました。無理をしないで下さい。私が何とか致しますので、もうしばらく頑張って下さい。決して諦めないで頑張って下さい。私が必ず助けに行きます』雄介は、思わずそう言った。
『あ・り・が・と・う』
ダーバルの頬に涙が流れているのが雄介に見えた。雄介は、ダーバルとのテレパシーを終了して今見たことを直ぐにアロンに報告した。
「アロン、大変だ。ラボーヌ星のルバノーラ総長もロボットに拘束されている」雄介は、ルバノーラ総長が話したことや、ラボーヌ星のメインコンピューターを作ったダーバルのことを報告した。
「ラボーヌ星がそんなことになっているとは」アロンも驚きが隠せない。
「雄介、ラボーヌ星は、とてもコンピューター技術が発展した星だったが、かえってそれがアダとなりメインコンピューターが暴走してしまって、人間を奴隷のように扱っているのかも知れないな。どうする雄介」
「そうだね。アロンの言う通りかも知れないな。ラボーヌ星がギャラクシーユニオンを脱会したのもメインコンピューが勝手に、ルバノーラ総長の名前を騙って脱会したんだろう。そうだとしたらラボーヌ星はまだギャラクシーユニオンに加盟していることになるから、なんとしてでも助けないといけないね」
「でもどうやって助けるつもりだい雄介」
「メインコンピューターにテレパシーを使っても、相手は機械だから魂にコンタクトできない。実際に行ってメインコンピューターを停止させないといけないかも知れないな」
「雄介、それはかなり危険じゃないのか」
「そうだよね。ロボットを送り込んだとしても、ロボットは直ぐに向こうのコンピューターにコントロールされるだろうし、人間が行っても体を拘束されてしまったら何もできない。それにギャラクシーユニオンからラボーヌ星に連絡を入れても音信不通だし困ったな」雄介の言葉にアロンも悩んだ。
「しかしアロン。ここで色々考えて居ても仕方ないから、実際にラボーヌ星に行ってみようと思うんだ」
「大丈夫なのか雄介」
「アロン心配してくれてありがとう。でもラボーヌ星を助けるにはそれしかない気がするんだ」
「分かったよ雄介。我がアンドロメダ星も全面的に協力するよ」
「ありがとう。アロン頼むよ、まだ地球だけの技術力ではラボーヌ星に行くこともできない。アロンの力が必要だよ」
「分っているよ雄介。任せてくれ。それなら早速母船を用意しないと小型宇宙船ではラボーヌ星まで行くのは無理だ」
「よろしく頼みます。アロン」
「分かった。母船の用意ができたら連絡を入れるよ」
雄介は、アロンとの交信を終了した。
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