第2章 愛の法則 1依頼(1) 

 雄介は、広い宇宙空間の中をシップに乗って旅をしていた。目の前には数えきれない程の星々が、ダイヤモンドを散りばめたかのように輝いている。その美しさに雄介は、あらためて宇宙の雄大さを実感していた。


 ふと雄介が目をやった先に今まで見たことのない7色に色を変えて光る、とても不思議な星が目に入った。その星は赤色からオレンジ色、そして黄色や緑、青、藍、紫とゆっくり色を変えながら光っている。

 

 「シップ、あの7色に光る星は何て言う星なんだい」

 「あの星には、まだ名前がありません」

 そうなんだ。あの星は、あんなに綺麗に、そして珍しい光り方をしているのに、まだ名前が無いなんて不思議だ。


 でも、あの星を見ているとなんとも言えない感じがしてくる。何故なんだろう。なんとなく懐かしいような、切ないような、なんとも言えない感じだ。雄介は、宇宙空間の星々の中で綺麗な7色に光る星を、ぼーっと眺めていた。雄介はそれがとても心地よかった。


 「雄介さん、雄介さん、おはようございます。もう起きる時間ですよ」

 「え、なに、なに、なんだ、夢か」雄介は、7色に光る珍しい星の夢の余韻に浸りながら、眠気眼を擦り起きた。


 「ユリヤ、おはよう」

 「雄介さん、なにか良い夢でも見ていたんですか」

 「そうなんだ。なぜ分かったの?」

 「だって、起きるなり『なんだ、夢か』って言ったじゃないですか」


 雄介を起こしたのは、最近雄介の家にやって来た家政婦ロボットのユリヤだ。雄介は、ギャラクシーユニオン総会が行われたモナム星のホテルアウタースペースで出会った、案内ロボットの設計図をプッペ議長に送ってもらい、その設計図を基にロボットを作って家政婦ロボットとして一緒に暮らしているのだ。ユリヤは、どこから見ても人間の女の子そっくりで、容姿も雄介の好みその物だ。


 「ユリヤ、もう朝ご飯はできたの」

 「はい、ちゃんとできていますよ。今朝は雄介さんが大好きなホットサンドにしました」

 雄介は、ベッドから飛び起きて食卓に着いた。ホットサンドとサラダを食べながら雄介がユリヤに尋ねた。


 「ユリヤ、今日の僕の予定はどうなっている」

 「はい、今日は9時に会社に出社して、会社の皆様と一緒に火星に建設中の居住ステーションを見に行く予定です」

 「そうだったね。忘れていたよ。でもユリヤが僕の所に来てくれてからほんとに助かっているよ。家のことはきちんとやってくれるし、僕の仕事のこともよく分ってくれているから有り難いよ」


 「ありがとうございます。雄介さんのお役に立てて、私も嬉しいです」

 「ユリヤ、君には嬉しいって言う感情があるんだね」

 「いいえ、ありません」

 「でもさっき嬉しいって言ったよ」


 「会話のパターンで、そう答えるようにインプットされているだけで、私はロボットですから喜怒哀楽の感情はありません」

 「そうなんだ。でも僕はほんとに助かっている。ありがとう」

 「ありがとうございます。雄介さんのお役に立てて、私も嬉しいです」

 雄介は言葉に困った。


 地球がギャラクシーユニオンに加盟してから多くの宇宙技術を教わった地球は、ロボット工学も急速に発展して、今では各家庭に家政婦ロボットが普及し始めていた。雄介は、良太と由香里の三人で『アースポイント』と言う会社を設立し、地球とギャラクシーユニオンに加盟する星々との窓口をしている。


 雄介は最近、会社をムーンコロニーに移転し、それから雄介は、ムーンコロニーに有るマンションで一人暮らしを始めたのだ。ムーンコロニーに居ると、ギャラクシーユニオンに加盟している星のステーションもムーンコロニーの中に多くあるので、ギャラクシーユニオン総理事長に就任した雄介にとっては仕事がやりやすかった。それに、アンドロメダ星のステーションもあるので、アロンに連絡するのも便利だった。

 

 朝食を済ませた雄介は、紺色のスペーススーツに着替えて、マンションの屋上に止めてあるシップに乗り込んだ。

 「シップ、おはよう」

 「おはようございます。雄介様」

 「今日は、会社の皆と火星に行くんだったね」

 「そうです。良く覚えておられましたね」

 「そりゃそうさ。よし会社に二人を迎えに行こう」

 「了解致しました」


 するとシップはゆっくりと浮かび上がり、雄介の会社に向かった。会社に着くと良太と由香里がスペーススーツを着て、会社の屋上で待っていた。会社がムーンコロニーに移転した時から、二人も会社の近くのマンションに住んでいる。シップが会社の屋上に着陸すると、良太と由香里がシップに入ってきた。

 

 「おはよう。良太、由香里。じゃあ早速出発しよう。よしシップ火星に行ってくれ」

 「了解です」するとシップは、月の裏側にあるムーンコロニーの出入り口から宇宙空間に出た。


 「久しぶりに見る地球はやっぱり綺麗だな」良太が宇宙空間に浮かぶ、目が覚めるほど青い地球を見て言った。

 「本当ね。私達の地球は宇宙一綺麗な星ですもの」由香里も地球を見て感激している。

 「でもこうやって宇宙船に乗って、宇宙から地球が見られるようになるなんて、夢にも思わなかったよ」


 「そうね、良太君。数年前までは地球の技術力もまだまだで、月に住んだり宇宙船で別の惑星に行ったりするなんて、ほんと考えてもみなかったわ」

 「これも雄介が頑張って地球をギャラクシーユニオンに加入させてくれて、地球を滅亡の危機から救ってくれたからだね。ほんと雄介には頭が上がらないよ」


 しばらくすると三人を乗せたシップが火星の近くにやってきて、シップの窓の外に赤い火星が見えてきた。

 「雄介、こうやって実際に火星を見ると、本当に火星も綺麗な星だな」

 「そうだね、赤色と言うか紅色と言うか独特な色をしているな」雄介も火星を見ながらその美しさに見とれていた。


 「雄介君、良太君、本当に火星に私達の事務所を作る気なの」

 「雄介はどう思う。やっぱり火星に僕達の事務所を作るのは無理かな」良太が言い出した今回の計画は、三人の会社のアースポイントの事務所を火星に作る話だ。地球がギャラクシーユニオンに加盟してから、多くの宇宙技術を教わった地球は、昨年から世界共同の火星居住計画が立ち上がり、いま火星に居住用のステーションを建設中なのだ。


 良太の考えはこうだ。『地球だけではなく、これからは太陽系全体の管理をやっていかなければならない。そこで火星に居住ステーションが建設され出したのを機に、我が社も火星に一早く進出して太陽系全体の管理に貢献していこう』


 「雄介君はどう思うの。火星に居住ステーションができると言っても完成するのはまだ数年先でしょう。完全に完成してからもう一度検討してもいいんじゃない」

 「そうだな」雄介が腕組みして考えている。


 「そんなことないよ。いま火星に来れば、建設中の居住ステーションの様子もよく分って地球に報告できるし、アンドロメダ星のアロンさんにも報告して地球の発展を喜んでもらえるよ」

 「う~ん」雄介がしばらく考えて言った。


 「よし、こうしよう。良太は火星駐在員として一人で火星に来てくれ。そして火星の様子を地球やアロンに報告してくれ。僕と由香里はムーンコロニーの会社で、今まで通りの仕事をやっていく。どうだい」

 「一人で火星に来るのは寂しいな」良太が困った顔をした。


 「冗談だよ良太。僕達は三人で仕事をしている。三人の和が無くなったら我が社の発展はない。地球も同じだ。地球の中で和が無くなったら地球はまた滅びる運命をたどる。今回の火星居住ステーション建設は全世界が協力して行っている事業だ。これは何としてでも成功させて、地球全体が和を持って発展していかなければならない。そこで今回の良太の提案は僕もとってもいいと思ったんだ。でも僕達三人に和が無ければ話にならない。そうだろ」


 「雄介君の言う通りだわ」

 「そうだね、僕達の意見が割れていては話にならないね」良太もうなずいた。

 「それならこうしょう。火星に我が社の探査ロボットを送ろう。そのロボットに火星の様子を報告させて、我が社が率先して地球の皆さんに火星の居住ステーションの様子を伝えよう。そして居住ステーションの建設状況を判断して、我が社も火星に移転するか検討しよう。どうですかお二人さん」


 「賛成です」二人が声を合わせて言った。

 「よし地球に帰ろう」三人を乗せたシップは、火星を一周した後地球に帰って行った。


 三人が会社に帰って来ると、アンドロメダ星のアロンから着信が入っていた。

 「雄介君、アロンさんから着信が有るわ。連絡してみて」雄介はアロンに連絡を入れた。


 「アロンですか。雄介です。何か用ですか」

 「雄介総理事長。アロンです」雄介のパソコンにアロンの顔が映った。

 「アロン、総理事長は付けなくていいよ。ところで何かあったの」

 「実は雄介。ある星のことで相談が有るんだ」アロンはそう言って説明を始めた。


 「その星は、地球ではМ81と言われている銀河の中にある星で、地球からの距離は1,200万光年程ある。地球からはかなり遠い星なんだ。アンドロメダ星にある母船で異次元空間の最高速で行っても、約2か月掛かる。


 その星はラボーヌ星と言って、以前はギャラクシーユニオンにも加盟していたんだ。それが地球が連合に加入する前に、急に理由も明かさずに一方的に連合を脱会したんだ。その後しばらくの間は連絡を取っていたんだが、最近になって全く音信不通になっている。


 ラボーヌ星の歴史はかなり長くて、我がアンドロメダ星とほぼ同じ位だ。文明もかなり発達している星で、とても近代的な星なんだけど何が起きたのか分からい。今は外部との接触を閉ざしたままだから、実際に行くことはかなり危険かも知れない。そこで雄介の力を借りたいんだ」


 「分かったテレパシーだね」

 「そうだ。雄介のテレパシーで、ラボーヌ星の総長にコンタクトして、真相を明らかにしてもらいたい」

 「分かったよ。やってみるよ。僕がギャラクシーユニオンの総理事長に就任して、初めての大仕事みたいだね。頑張るよ」


 「頼んだよ、雄介。何か分かったら連絡をくれないか。待っているよ」

 「了解ですアロン。楽しみに待っていてくれ」雄介は、アロンとの通信を切った。


 「雄介、少し聞いていたけど、大変そうな依頼が入ったね。大丈夫か」良太が、アロンとの話を聞いて心配している。

 「ラボーヌ星と言う星がなんだか大変みたいだな。でもギャラクシーユニオンの総理事長としては、ほっておけないよ」雄介はそう言ったがなんだか不安でもあった。


 「雄介君、私達も協力するからラボーヌ星に何が起きたのか頑張って調べましょう。そうでしょ良太君」

 「由香里の言うとおりだ。雄介、やる前から不安になっていてもしかたがない。頑張ろう」

 「ありがとう。良太、由香里。三人で協力してこの任務を成功させよう」雄介も二人の言葉で、やる気になってきた。


 「ところで雄介。アロンが言っていた君のテレパシーは、そんなに凄い物なの」

 「そうよね。1,200万光年も離れた人にどうやってコンタクトするの」

「君達にはまだ、僕がゼミア星で会得した力のことを、詳しく説明していなかったね」

 雄介は二人に、ゼミア星で雄介が会得した特殊な能力について説明を始めた。


 「人の魂のレベルには、0から6までの段階があるのは分かっているね。僕はゼミア星で魂の特訓をアロンとソニヤから受けて、僕の魂レベルは最高レベルの6まで達したんだ」

 「凄いじゃないか雄介。それで魂レベルが6になったら何ができるんだい」

 

 「魂レベル6は、テレパシーを使って他人と心の中で会話ができるんだ。テレパシーには時間も距離も関係ない。この宇宙のどこに居ても瞬時にコンタクトできるんだ。それにもっと魂を磨けば魂からオーラのエネルギーが放出されて、そのオーラで人々を健康にできたり幸せな気分にしてあげられたりするんだ」


 「凄いじゃないか。君はそんな能力を身に付けているんだね。全然知らなかったよ。もっと早く教えてくれよ」

 「僕の能力は必要な時に使うもので、人に自慢したり見せびらかしたりする物ではないんだ」

 良太と由香里は雄介の言葉に感心した。


 「ところで雄介君、雄介君みたいに魂レベルが6に達する人は珍しいの」

 「現在魂レベルが6に達しているのは、このギャラクシーユニオンに加盟している星の中では、僕一人だけなんだ」雄介があっさり言った。


 「今なんて言ったの」由香里が聞き直した。

 「だから、魂レベル6に達しているのは、このギャラクシーユニオンの中で僕ただ一人だけなんだ。だから僕はギャラクシーユニオン総理事長に任命されたんだ」

 良太と由香里は顔を見合わせた。そして叫んだ。


 「なんだって。ギャラクシーユニオンの中で雄介だけなの」二人は驚いた。

 「雄介の能力は凄いんだね。たくさんギャラクシーユニオンに加入している星の中で、君だけが会得している能力なんだ」良太が改めて感心した。


 「現在ギャラクシーユニオンに加盟している星だけでも、500位はあるわよね。その中の全星人の中で、雄介君だけが使える能力なんて凄すぎるわ」由香里も雄介の能力に驚いている。

「そんなに驚くなよ。この能力を会得したときは、僕が一番驚いたんだから」

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