2,出発
雄介は次の日、会社に出社してラボーヌ星のこと、そしてルバノーラ総長やメインコンピューターを作ったダーバルのことを良太と由香里に話した。そして雄介自身がラボーヌ星を助ける為に、実際にラボーヌ星に行く予定だとも伝えた。
「雄介、大丈夫なのか」良太が心配している。
「そうよ、雄介君がギャラクシーユニオンの総理事長でも、そんな危険な任務をする必要があるの」由香里も強い口調で言った。
「二人とも僕を心配してくれてありがとう。でも、これはギャラクシーユニオンの総理事長の僕だからこそ、やらなければならない任務なんだ。分かってくれ」雄介が二人に頭を下げた。
「そうだよな。雄介がほっとく訳ないよな」
「そうね。じゃあ分かったわ。雄介君、ラボーヌ星を助ける任務に私達も一緒に連れて行って。良太君もいいでしょう」
「え、そうなの」良太の顔が引きつった。
「嫌なの、良太君。あなたそれでも男なの。雄介君が大変な任務を遂行しようとしているのに、私達がほっとけないでしょ」
「分かっているよ。そりゃそうだ。俺たちは三人で一つだからね」
「良太、由香里ありがとう。でも今回の任務はとても危険が伴うかも知れない。それに地球での仕事も有るから僕だけで行ってくるよ」
「そうか雄介、ありがとう」良太が喜んだ。
「何言っているの。地球での仕事なんてリモートでできるでしょう。地球に入って来た問い合わせを母船に飛ばすようにしておけば、母船からでも仕事は十分できるわ。何も問題ないでしょ」由香里が強気で言った。
「そうだよ。その通りだ、雄介。由香里の言うとおりだ」
「ちょっと、良太君。あなたは結局どっちなの。雄介君と行くのか、地球に残りたいのか、どっちなの」由香里が良太に問いただした。
「僕も雄介に付いて行きます」
「じゃあ決定ね。雄介君、今回のラボーヌ星を助ける任務は三人で遂行しましょう。いいわね」
「ありがとう。君達が一緒に来てくれれば心強いよ」雄介は、なんだかとても嬉しくなった。
そして次の日、アロンから雄介に連絡が入った。
「雄介、アロンです。母船の用意ができたよ」
「ありがとうアロン。助かるよ。それで母船はどこにあるの」
「母船は、モナム星のプッペ議長に頼んだんだ。モナム星は地球から比較的近いから、ラボーヌ星に向けて直ぐに出発できるだろ」
「そうなんだ。いつもプッペ議長にはお世話になるな。またお礼に豚まんを持って行くよ」
「そうだね。プッペ議長が喜ぶよ」
「じゃあ早速モナム星に向けて出発するよ。こちらからは良太と由香里の三人で行くよ」
「了解。雄介、くれぐれも気を付けてくれよ。何か問題があったら直ぐに連絡してくれ。それから雄介、言い忘れていたけど、母船にはモナム星のクルー数十人とプッペ議長も一緒に乗って行くそうだ」
「プッペ議長も一緒に。アロンそれはちょっと」雄介の脳裏に、プッペ議長が抱き着いて来た時の感触がよみがえった。
「プッペ議長は、どうしても雄介に同行したいんだって。それが条件で今回母船を出してくれるんだから仕方ないよ」
「分かったよ、アロン」雄介は、またプッペ議長に抱き付かれないか心配になったが、今回の任務を遂行する為には他に方法がないと観念した。それから間もなくして雄介達三人は、シップに乗ってモナム星に向かった。
「モナム星からもラボーヌ星には2か月程掛かるみたいだし、かなりの長旅になるね」
「でも楽しみだわ。また遠い宇宙に出て実際にこの目で色々な物が見られるんだから」由香里は、何だか楽しみにしているようだ。
「良太はどうなんだい」
「そうだね、実際に遠い宇宙に出て色々な物を見るのは楽しみだけど、少し不安もあるな」
「何が不安なの、良太君」由香里が良太に不思議そうに聞いた。
「何がって、3日程で行けるモナム星に行くのとはわけが違うだろ。1,200万光年も離れた所に行くんだよ。それに楽しい旅行に行くんじゃなくて、いま大変なことが起きているラボーヌ星を助けに行くんだよ。少しは不安にもなるさ」
「そうだね、良太の言う通りだ。僕達は遊びに行くわけではない。気を引き締めていかないといけないね。でもあまり深刻にならなくてもいいよ、良太」
「そうよ、良太君。深刻にならないで楽しく行きましょう。不安になっていてもしょうがないでしょ。何事にも楽しく前向きに取り組めば、結果は良い方に向いていくんだから。ね、雄介君そうでしょ」由香里が明るく言った。
「そうだね、由香里の言う通り。楽しい気分を使っていないと、楽しい結果を得ることができないね」雄介は、由香里が宇宙法則十カ条のことを言っているのが分かった。
「分かったよ。僕も気分を前向きに変えて楽しい気分で行くよ」良太も元気になってきた。
「三人で力を合わせてラボーヌ星を助ける為に頑張ろうー」雄介が手を高く上げた。
「イェーイ」三人が声を揃えてハイタッチした。
地球を出発して3日後、三人を乗せたシップはモナム星にやって来た。
「モナム星は、やっぱりエメラルド色に光っていて綺麗ね」由香里が久しぶりに見るモナム星に見とれている。
「また行ってみたいよな」良太もシップの窓から見えるモナム星に見入っている。
「今回は、急いでラボーヌ星に行かないといけないから、帰りに時間があれば寄ろう」
「そうよ、良太君。今回の任務はまずラボーヌ星を救うことなんだからね」
「プッペ議長に連絡してみよう。シップ、プッペ議長に連絡を入れてみてくれないか」
「了解です」
「もしもし天野総理事長、プッペです。お待ちしておりました」プッペ議長の声が聞こえた。
「天野です。プッペ議長お久しぶりです。今回はまたお世話になります。ところで議長、今はどちらにいらっしゃるのですか」
「今はホテルアウタースペースの近くに母船を停めてお待ちしております」
「そうですか。ありがとうございます。それではそちらに向かいます。では後ほど」
「シップ。母船に向かってくれ」
「了解しました」
シップがモナム星の反対側に回ると、ホテルアウタースペースが見えてきた。するとその後ろにホテルの10倍程の大きさの母船が停泊していた。母船は、丸い円盤状の形をしていて直径が10キロメートルはある。母船の所々には色々な光が点滅していて、宇宙空間の中にネオンが光っているように見えた。
「なんて凄い宇宙船なんだ」良太が驚いた。
「神戸の夜景を見ている感じだな」雄介もあまりに綺麗な母船の光に感動した。シップが、ゆっくりと母船に近づくと母船のハッチが開き、中に入って行った。プラットフォームにシップが着陸し三人がシップから降りると、そこにプッペ議長が出迎えに来ていた。
「皆さん。ようこそ我が宇宙船マザーシップへ」そう言ってプッペ議長は、しっぽを前に出して雄介達に近づいて来た。
「議長、議長。ちょっと待って。握手はもういいですから」慌てて雄介か握手しようとしたプッペ議長を止めた。
「そうですか。分かりました。久しぶりにお会いしたので、つい嬉しくて」
「そうそうプッペ議長。お土産に豚まんを持って来ましたから。後でお出ししますね」
「豚まんをまた頂けるんですか。天野総理事長ありがとうございます」そう言ってプッペ議長が雄介に両手を広げて近づいた。
「議長、止めて、止めて~」慌てて雄介がプッペ議長に言ったが遅かった。議長は雄介にハグして頬ずりした。
「ギャー、止めてー」雄介が叫んだのを見て良太と由香里は笑った。
「ごめんなさい天野総理事長。思わず嬉しくて抱き着いてしまいました」
「まあいいですけど、もうハグは止めて下さいね。それと天野総理事長と呼ぶのも止めて下さい。雄介と呼んで下さい。それにこの二人も良太と由香里と呼んでいいです」
「分かりました。では雄介様、良太さん、由香里さんと呼びますね」
雄介がプッペ議長に頬ずりされた頬をハンカチで拭いた。
プッペ議長が三人を連れて、宇宙船マザーシップの船内を案内して回った。
「マザーシップの船内は、この乗り物で移動します」議長がエレベーターのようななドアの前に三人を案内した。
「議長、これはモナム星の中を移動する物と同じですね」
「そうです。これはムーブと言って、これに乗ると船内どこでも一瞬にして移動することができます。さあどうぞ」プッペ議長がドアに近づくとムーブのドアが開いて、プッペ議長が乗り込んだ。
議長に続いて三人も乗り込むとドアがゆっくりと閉まり、議長が「農場」と言った。すると次の瞬間ドアがゆっくりと開き目の前に広々とした牧草地帯が広がった。空は晴れ渡り太陽の光が眩しく降り注いでいる。遠くには青々とした山並みも見える。小川も流れていて動物が牧草を食んでいるのも見える。その奥には野菜を栽培している畑も見えた。
「議長、ここも宇宙船の中なのですか」良太が議長に聞いた。
「そうですよ。空や山は画像ですが、家畜や野菜はこの農場で取れます」
「凄いですね。普通にここでピクニックができますね」由香里も驚いている。
「では、次に参りましょう。またムーブにどうぞ」
そして皆がムーブ乗り込むと議長が「体験ルーム」と言った。するとゆっくりドアが開き、目の前に真っ白な空間が現れた。
「ここは様々なバーチャル体験ができる所です。例えば“海”と言うと」議長がそう言った瞬間、目の前に砂浜が現れ、その先には遥か水平線まで見渡せる青々した海原が広がった。
「ワー」三人が思わず歓声を上げた。
「さあ皆さん。靴を脱いで海に入ってごらんなさい」
そして三人は靴を脱ぎ砂浜に打ち寄せる波に足をつけてみた。
「この砂浜も海の波も気持ちいい~」良太が砂浜を走ってはしゃいでいる。
「議長、これもバーチャルなんですか。私には本物の海にしか思えないです」由香里も浜辺を走って楽しんでいる。
「皆さん、この体験ルームでは海水浴はもちろん、様々な山への登山、雪山でのスキーやスカイダイビング等もできます。またゆっくり楽しんで下さい。では次に参りましょう」
再び皆がムーブに乗り込むと議長が「ミュージアム」と言った。するとゆっくりムーブのドアが開き、目の前に美術館のような空間が広がった。壁には、今まで三人が見たことが無いような絵や画像が飾られ、踊りを踊っているような彫刻もいくつかあった。
「ここも素敵な空間ですね」雄介は不思議な空間に興味を持った。
「ここも良いでしょう。ここでは全宇宙の美術や音楽、そして演劇等も楽しめますよ。この他にも様々なスポーツやゲーム、乗り物等も見たり体験できたりする場所もありますので色々楽しんで下さい」
「スポーツやゲームまでできるんですか」良太が驚いている。
「全てバーチャルですが本物のようですよ。是非色々楽しんで下さい」
「ところで議長、ラボーヌ星に到着するにはどれくらい掛かりますか」雄介が議長に尋ねた。
「そうですね。異次元空間移動でも地球時間で約2か月掛かります」
「そうですか。では早めに出発した方がいいですね」
「皆さんがこの船に到着されて直ぐに、このマザーシップの異次元空間最高速でラボーヌ星に今向かっております」
「そうですか。全然分かりませんでした。全く揺れたりもしませんね」
「雄介様、実を言いますとラボーヌ星の総長のルバノーラ総長には、以前私達のモナム星がギャラクシーユニオンに加入するときにお世話になったんです。今回アロン様からラボーヌ星のことを聞いて驚きまして、是非私もラボーヌ星を救う手助けがしたいと思ったのです」
「そうでしたか。私もプッペ議長に同行して頂けると、とても心強いです。よろしくお願い致します。ところで議長、どのようにしてラボーヌ星を救うか計画を立てないといけませんね」
「そうですね。ラボーヌ星に到着するまで、じっくり計画を練りましょう。それでは皆さんのお部屋にご案内致します。こちらにどうぞ」
三人は、プッペ議長に付いて再びムーブの中に入った。すると議長が「ビップルーム」と言った。ゆっくりドアが開くとそこは高級ホテルのラウンジを思わせる部屋が三人の前に現れた。その部屋の天井にはゴージャスなシャンデリアが光り、ゆったりとしたソファーがいくつかあった。
そして大きな窓も有り、その窓には限りない宇宙空間に無数の光り輝く星々が見え、その宇宙空間には透き通る程に青い地球が見えた。
「地球だ、地球が見える」思わず三人が叫んだ。
「議長、地球が見えます」良太が窓に駆け寄り驚いている。
「そうです。皆さんが喜ばれると思い宇宙一綺麗な星である、あなた達の地球の映像を映しています」
「これが映像ですか。まるで本物の地球じゃないですか」由香里も驚いている。
「プッペ議長。色々とお心遣いありがとうございます。全てが驚きと感激です」雄介が議長にお礼を言うと、良太と由香里も頭を下げた。
「いえいえ、とんでもないことです。皆さんに喜んで頂けましたら私も嬉しいです」三人の喜ぶ様子を見て、議長も嬉しくなった。
「皆さんのそれぞれのお部屋も、そちらのドアの向こうに用意してあります。お食事はここで召し上がって下さい。ここには常時メイドロボがおりますので、なんなりとお申し付けください。地球の料理も全てそろっております。
明日からラボーヌ星を救う為の計画を立てていきましょう。それではごゆっくりお過ごし下さい」プッペ議長は丁寧に頭を下げて再びムーブに乗って行った。
「雄介、それにしても宇宙の技術は凄いな。びっくりしたよ」
「そうね、宇宙技術に比べたら地球の技術力はまだまだね」
「僕も驚いているよ。地球も早くこの進んだ宇宙技術を学んで発展していかなくてはね」
「ところでそろそろお腹が空いたね。何か食べようよ」良太がお腹をさすっている。
「そうだね、メイドさんを呼ぼう。すみませんメイドさん」雄介がメイドを呼ぶと奥からメイドロボが現れた。そのメイドロボを見て雄介は驚いた。
「ユリヤ。ユリヤじゃないか」
「天野様お久しぶりです。でも私はユリヤと言う名ではありません。ホテルアウタースペースでお目に掛かった案内ロボのルデです」メイドロボは、笑顔で答えた。
「失礼しました。ルデさん。そうですかホテルアウタースペースの。またお会いできて嬉しいです。でも私はホテルアウタースペースで出会ったあなたが気に入って、あなたそっくりな家政婦ロボのユリヤと地球で暮らしているんです。それでさっきあなたを見て思わずユリヤと呼んでしまいました。ごめんなさい」
「そうでしたか天野様。私を気に入って下さってありがとうございます。とても嬉しく思います」ルデが満面の笑みで喜んでいる。
「ルデさん、あなたには嬉しいと言う感情が有るのですか」雄介が不思議に思って尋ねた。
「いいえ、ありません。私はロボットですから喜怒哀楽の感情は無いのです。ただ会話のパターン通りに会話をしています」ルデの言葉に雄介は何も言えなかった。
「雄介、何か食べ物をルデさんに頼もうよ」
「そうだね。ルデさん何か食べ物を三人前お願いします」
「承知致しました。何でも地球の食べ物はご用意できますが、何かご希望がありますか」
「それならカレーライスはどうかしら」
「いいね~。カレーが久しぶりに食べたいね」良太が嬉しそうな顔をした。
「そうしよう。ルデさんカレーライスを三人前お願いします」
「承知致しました。お味は本格インドカレー風と、レトルトカレー風、それに家庭料理風が有りますが、どれになさいますか」
三人は顔を見合わせて「家庭料理風で」と言った。すると直ぐにルデがカレーライスとサラダ、そして食後の飲み物を用意した。食事の後三人は、それぞれの部屋に入りぐっすりと眠った。
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