第4話 放課後~次世代への夢の継承
「実装演習」の授業も終わり、放課後のキャンパスは夕日に染まっていた。マリカは最後の課題を提出し、教室を出ようとしていた。
「マリカさん、少し時間はある?」
振り返ると、アキラ先生が立っていた。
「はい、もちろんです」
アキラ先生は教室のバルコニーへとマリカを案内した。
そこからは、コード・アカデミア全体と、遠くにそびえるJavaシティのタワーが見渡せる。
「今日の授業での君の提案、とても素晴らしかったわ」アキラ先生は静かに言った。
「その柔軟な発想力は、言語の壁を超える鍵になると思う」
「ありがとうございます」マリカは恐縮しながらも、嬉しそうに答えた。
「でも、まだまだ勉強不足で…」
「謙虚なのはいいことだけど」アキラ先生は優しく微笑んだ。
「自分の才能を過小評価しないことも大切よ。私は教師として多くの生徒を見てきたけど、君のような直観的なインターフェース設計の才能は稀だわ」
先生は眼鏡を外し、クリスタルのように透明な目で夕日を見つめた。
「かつて私も、言語の壁を越える『ユニバーサル・コンパイラー』を作ろうとしていたの。でも、時代がまだ早すぎた。技術も、人々の心も、準備ができていなかった」
「アキラ先生も同じ夢を…?」
「ええ。だから、君の描く『ユニバーサル・インターフェース』の話を聞いた時、私の若い頃を見ているようで嬉しかったわ」
アキラ先生はマリカの肩に手を置いた。
「COBOL王国とJavaシティの交流促進委員会からの推薦で入学してきた時から、君の可能性には期待していたの。今、その期待以上の成長を見せてくれている」
「私には、和み亭の仕事もあるし、まだまだ道のりは長いです…」
「その通りよ」アキラ先生は頷いた。
「でも、その二つの仕事は矛盾しないわ。むしろ、和み亭での経験が、君のインターフェース設計に血肉を与えている。実際の人々との交流がなければ、真のインターフェースは設計できないもの」
夕日が二人を金色に染める中、アキラ先生は小さな結晶のような装置をマリカに手渡した。
「これは『クオンタム・インターリンク』。私の研究室で開発した試作品よ。
量子バッファリングの原理を応用したものだから、君の研究の役に立つかもしれない」
「こんな大切なものを、私に?」
「ええ。次世代に託すのが研究者の役目だもの。それに…」
アキラ先生は少し遠くを見つめるように言った。
「最近、Javaシティで起きている異変は気になるわ。クラスタータワーのエネルギー流が乱れている。だから、この装置を安全な場所に預けておきたかったの」
「異変…ですか?」
「君は気づいていないかもしれないけれど、この世界のバランスが少しずつ崩れ始めているの。でも心配しないで。私たち教師陣も対策を練っているわ」
アキラ先生は再び眼鏡をかけ、いつもの知的な表情に戻った。
「さて、そろそろログアウトの時間ね。明日も素敵な提案を聞かせてほしいわ」
「はい!ありがとうございました、アキラ先生」
マリカは深く頭を下げ、心からの感謝を込めた。
「明日もよろしくお願いします!」
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