第2話 授業時間~アキラ・コンパイル先生
教室に入ると、すでに多くの生徒が席に着いていた。一人一人の前には、半透明のホログラフィック・ディスプレイが浮かんでいる。
教壇には、アキラ・コンパイル先生の姿があった。
アキラ先生は40代半ばの女性で、知的な雰囲気を漂わせている。シャープなラインの眼鏡が、彼女の鋭い観察眼を象徴するかのようだ。黒と紫の落ち着いた色合いのスーツを着こなし、胸元には「マスター・インターフェーサー」の称号を示す金のブローチが光る。
「みなさん、おはようございます」
アキラ先生の声は、落ち着いていながらも教室の隅々まで届く。
「今日は『プロトコル・ネゴシエーション』について学びます。異なる言語体系を持つ者同士が、どのように共通のプロトコルを確立し、相互理解を深めるか…」
彼女が手をかざすと、教室の空間が変化し、様々な言語国家の代表者たちが会議をしているシミュレーションが展開される。JavaシティとPython連邦の外交官たちが、共通プロジェクトについて話し合っている場面だ。
「JavaシティはJSA(Javaシティ標準API)を使うべきだと主張し、Python連邦はPLI(Python Language Interface)を推しています。両者の利点と欠点を考え、どのようにして共通プロトコルを確立すべきか、グループで討論してください」
マリカのグループには、彼女のほかに、Pythonヴィレッジから来たタオ君、C++帝国のヘッダーさん、そしてJavaシティの少し気難しいコンストラクターくんがいた。皆、自分の国の常識を前提に話し始める。
「JSAは堅牢性に優れているから、基幹システムにはやっぱりこれだよね」
コンストラクターが得意げに言う。
「でも、開発スピードが遅いし、プロトタイプ作りには向かないよ」
タオが反論する。
「どっちも一長一短あるわね…」司会役のヘッダーが困った表情で言う。
沈黙が流れた時、マリカが口を開いた。
「みんな、それぞれの良さがあるよね。だから、目的によって使い分けるのはどうかな?」
彼女は空中に図を描きながら説明し始める。
「基幹システムはJSAで構築し、ユーザーインターフェースとプロトタイピングにはPLIを活用する。そして、両者をつなぐために『ハイブリッドプロトコルアダプター』を開発するの!」
グループのメンバーは、マリカの提案に驚きの表情を浮かべた。
「それなら…確かに両方の良さを活かせるかも」
「でも、アダプターの開発コストは?」
マリカはさらに詳細な図を描き始めた。彼女の表情には、宿屋の娘という日常からは想像できないほどの自信と情熱があふれていた。
アキラ先生は各グループを巡回し、マリカのグループに来ると立ち止まった。
「なるほど、マリカさん。その『ハイブリッドプロトコルアダプター』というアイデア、とても興味深いわ。そのアダプターの設計図をもう少し詳しく見せてもらえるかしら?」
「はい!」
マリカの指が空中で踊るように動き、複雑な図が次々と展開される。アキラ先生は時折頷きながら、鋭い質問を投げかける。
「でも、このインターフェースの変換処理で、パフォーマンスの低下は生じないかしら?」
「はい、そこが課題です」マリカは正直に答える。「でも、最新の『量子バッファリング』技術を応用すれば、オーバーヘッドを最小限に抑えられると考えています」
アキラ先生は感心したように眼鏡を上げた。
「素晴らしい発想ね。実は私も同様のアプローチを研究していたの。次回の授業で、その『量子バッファリング』についても取り上げましょう」
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