ボヤ

僕の一人暮らしの部屋は恐ろしく汚かった。


歩くたびにゴミを踏みつけては、何かが折れる音がした。

ゴミは地層のように積み重なっていたから、探し物をするときは考古学者さながら、レシートの切れ端か何かをヒントにしておおよその位置を割り出して探した。


もちろん僕の部屋に灰皿なんてなかった。

吸い終わったタバコは空き缶に無理やりねじ込んでは消していた。


そんな部屋で暮らしていた頃、目を覚ますと、眼の前が燃えていたことがある。


※※※


僕が焦げた匂いで目を覚ますと、ベット脇の空き缶からは数十センチ炎が上がっていた。

天井はもううっすら煙に包まれていた。


人間、そのような状況になると身の安全とか、そういうことは考えられないのだと思う。


最初に思ったのは、当然だけれど、消さなきゃ、だった。

他のものに引火したらもう終わりだと思った。


僕はすぐ側にウィスキーがあるのを見つけた。

寝付けに飲んでいたウィスキーだ。

が、これをかけようとした手を一瞬止めた。


ウィスキーにはアルコール分が入っている。

アルコールは燃える。

だから、もしかしたら、これをかけたらもっと燃えるのでは?

と僕はとっさに思った。


僕は急いで他の空き缶を探しすと、水道のところに行って水を汲んだ。

その空き缶にもゴミが入っていたから、1回あたりの水が入る容量は少なかったと思う。


煙を吸って喉の奥も目も痛かったけれど、そんなことを気にしてる場合ではない。

何度も何度も水をかけた。

少ない量しか入らない空き缶で必死に水をかけ続けた。


※※※


もちろん無事だったわけだけれど、時々今でも思い出す。

少しでも起きるタイミングが遅かったら、今とは大きく違う結果になっていたかも知れない。


今の僕はそんな綱渡りのようにして歩いてきた結果なんだと思う。

あの日あの時こうしていたら、と後悔することもあるけれど、それも含めて今の自分がいるのだと思うと、なんだかその時の自分も愛おしい。


でも、2度とあんな風に目を覚ましたくない。

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