佐伯 蓮(さえき・れん)その後のログ

[log] 2032/10/10 20:45:00

新宿。夜の繁華街。

14歳の少女が補導された。蓮は、保護者代わりとして手続きに立ち会った。


> protocol.begin("一時保護")

> voice_level: soft

> word_used:「だいじょうぶ、ここは安全だから」


[log] 2033/03/29 16:10:55

“退所後に行く場所がない子どもたち”を預かるシェルター立ち上げ。

名前は「トーのむこう」

誰もが最初に笑った。「だっさ」って。

それで、よかった。


> create_shelter("トーのむこう")

> funding: 最低ライン達成

> staff: 3名、うちボランティア2


[log] 2034/11/22 00:12:03

深夜、玄関前に1人で立っていた少女にブランケットを渡す。

無言で座ったまま、空を見ていた。

「待ってる人とか、いる?」

「いない」

「じゃあ、朝までここにいよう」


> protect(temporary)

> outcome: 一晩だけの救済、それでも確か


[log] 2036/05/03 09:07:10

「昔、ここにいた子が大学行ったらしいよ」

職員がこっそり報告してきた。

名前を聞いて、蓮は何も言わずうなずいた。


> internal_log: hope.persisting

> system whisper: ひより、聞こえてるか


[log] 2038/08/14 02:45:45

ネットで誰かが「トーのむこうに救われた」と書き込む。

真偽は不明。でも、誰かが誰かにそう思えたのなら、それでいい。


> legacy.seed += 1

> name.mention: ren_saeki (匿名)


[log] 2042/01/17 03:33:33

夜中、保護室のカメラ映像に、膝を抱えて眠る少女。

昔の"ひより"そっくりだった。

画面を見ながら、静かに目を閉じる。


> process: memory.replay("2021_夏")

> result: breath held, tears not


[log] 2046/06/04 08:50:00

定年。引退セレモニー。

スピーチで、蓮は言った。

「誰一人、完全には救えなかった。でも、それでいいと思っています」

「繋げば、変わるんです。たとえ一手ずつでも」


> applause.wav

> log.save("ren_final_talk.txt")


[log] 2050/09/01 06:10:10

若い職員が、「佐伯さんのやってたこと、無駄じゃなかったです」と言った。

蓮はただ笑った。

「だろ?」


> exit quietly

> memory.passdown: complete


[log] ひよりの写真はない。名前も、正確には知らない。

でも、**あの夏に"見えたもの"だけは、今もここにある。**


> final output:「いつか、誰かが君の続きを生きてくれる」


> archive: /future/saeki_ren_full.log

> power: on(継承中)

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