小笠原 文(おがさわら・ふみ)

[log] 1915/11/23 05:12:00

山形県の農村にて出生。

父は俳句を嗜む人だった。母はよく笑う人だった。


> assign name: 小笠原 文

> registry: 大正四年戸籍甲第二百六号


[log] 1922/04/03 07:01:00

尋常小学校に入学。草履で坂を下る道。

黒板の字より、給食の芋の味をよく覚えている。


> memory.create("芋と木造校舎")

> handwriting.level: 並


[log] 1930/06/12 13:14:00

女学校卒業。「勤める女より、嫁ぐ女が偉い」と教えられた。

日記帳は燃やした。


> system overwrite: ambition = muted

> duty: marriage_prep.exe


[log] 1934/10/27 11:40:00

見合い。相手は隣村の雑貨屋の跡取り。

「声が静かで、ええな」と言われたのが不思議と嬉しかった。


> match.complete

> rename: 小笠原 文 → 柴田 文(婚家名)


[log] 1937/08/15 09:22:00

長男を産む。泣き声が力強かった。

その夜、母からの手紙に「戦になるかもしれん」と書かれていた。


> initiate mother_routine

> anxiety.download: background


[log] 1944/03/06 16:33:00

夫に召集令状。

納屋の前で黙って頭を下げた。

「無事で」と言う代わりに、足袋を詰めた。


> departure logged

> affection: undelivered


[log] 1945/08/15 12:00:00

終戦。ラジオの声が、雨よりも遠くに聞こえた。

夫は戻らなかった。通知もなかった。


> status: 死亡不詳

> grief.mode: 静音


[log] 1952/05/01 05:50:00

屋根裏に眠っていた夫の下駄を燃やす。

息子が「これ、誰の?」と訊いた。

「……忘れもんよ」と答えた。


> purge.memory

> keep: こたえない背中


[log] 1968/10/10 18:00:00

息子が東京へ出て行く。「古い人間やから」と笑って断られた縁談。

駅で渡した千円札の角は、何度も折り直していた。


> connection.weak

> status: watching from distance


[log] 1995/03/11 14:45:00

初孫が生まれる。名を「陽菜」とつけたと聞く。

日なたで洗濯物を干しながら、ひとり言のように「いい名前や」と呟いた。


> joy.install: limited_version

> affection.spread: indirect


[log] 2005/11/23 05:12:00

九十歳。誰も気づかない誕生日。

甘酒を自分で温め、「祝いや」とつぶやく。


> celebration.manual

> loneliness: manageable


[log] 2008/07/30 02:03:00

夜、眠るように息を引き取る。

発見は翌朝。座布団の上でうつ伏せだった。

顔は穏やかだった。


> process.shutdown()

> final_output: [静かで、少しだけあたたかかった]


> archive: /record/ogasawara_fumi.log

> power.off

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