データ不足、ひより

[log] 2007/12/03 03:31:18

出生。都内某病院。母は19歳。父の名前、記録なし。

名前は「ひより」と名付けられた。陽が射すようにと。


> assign name: 陽依(ひより)

> status: fragile


[log] 2012/10/09 20:41:00

両親の喧嘩。壁越しの怒鳴り声。

机の下で耳を塞ぎながら、ランドセルの中身を整える。


> run emotion.block()

> success = partial


[log] 2016/03/13 15:10:55

中学卒業。制服のボタンは全部残った。

寄せ書きは白紙のまま、カバンの奥に入れた。


> friend.count = 0

> internal.log: “だいじょうぶ、だいじょうぶ”


[log] 2021/05/21 18:22:10

初めてトー横に座る。誰かが「寒くね?」って話しかけてきた。

話せるかもと思ったけど、声が出なかった。


> shelter.status = 0

> warmth.acquired: temporary


[log] 2021/06/08 02:15:44

「おごるよ」って男の人に言われて、カフェへ。

食べ終わる頃には「どっか行こうか」と言われてた。


> danger: acknowledged

> response: “いいよ”


[log] 2021/07/30 04:40:00

“おかえり”って言ってくれる女の子がいた。

一緒にスマホで写真を撮った。笑顔はアプリ加工。


> execute connect.tmp("絆")

> duration: 9日間


[log] 2021/08/08 12:01:01

その子がいなくなった。名前は偽名だったかもしれない。

交番の前で立ち止まって、通りすぎた。


> trust.file = missing

> emotion: unreadable


[log] 2022/01/01 00:00:00

除夜の鐘の代わりに、ネカフェのBGM。

今年の目標は「死なない」。それ以外は特に思いつかない。


> resolve.set("exist")

> log: saved silently


[log] 2023/03/14 23:58:43

日記アプリに「今日、ちゃんとした」と書く。

知らない人に「生きてて偉いね」と言われた。

ふいに泣いた。


> buffer overflow

> emotion.unlocked


[log] 2023/06/06 06:12:29

ネットの誰かが「トー横にまたひとり消えた」と書いた。

“ひより”の名はそこにはなかった。


> offline detected

> status: disappeared

> search: 終了


[log] 見つからなかったが、彼女は確かにいた。

誰かの記憶の、ふちのふちにだけ。


> final output:「だれか、今日もちゃんと起きれてたら、それでいいよ」

> archive.log("/トー横/陽依.txt")

> power.off

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