[log] 1935/09/12 05:01:03

誕生。土間の冷たさ、囲炉裏の匂い。

生まれた日、村に雨が降ったという。

> set family.register = true

> add nickname: とよちゃん

[log] 1948/04/03 07:45:00

麦畑を走る。裸足。

スカートが泥で汚れて、母に叱られた。

> emotion.laughter += 1

> memory.store("春風と泥の重さ")

[log] 1955/06/18 18:12:27

お見合い。知らない人にお茶を出す手が震えた。

その人がのちの夫になる。

> link partner_id: #0061

> establish bond: mutual_respect

[log] 1963/11/07 02:24:09

第一子誕生。夜泣きと格闘する日々。

すべてが初めてで、手探りだった。

> run instinct.parental_care

> override fatigue: TRUE

[log] 1978/09/20 13:40:00

家族5人で写真を撮った。

笑い声がフィルムに焼きついた。

> snapshot.save("大切.jpg")

> status: SAFE

[log] 1999/02/01 08:03:42

夫が静かに息を引き取る。

「もう頑張らなくていいよ」と言った声が震えていた。

> execute farewell()

> archive memory: shared_days.zip

[log] 2010/06/05 10:20:58

病院で「物忘れが進んでますね」と言われる。

カレンダーの数字がぼやけて見えた。

> diagnostic.result: 軽度認知症

> system alert: begin data corruption

[log] 2014/08/29 09:17:10

「おたく、どちら様？」

訪ねてきた娘に、そう言ってしまった。

娘は笑って「また来るね」と言った。

> access family_ID: not found

> retrieve affection: residual

[log] 2017/03/12 15:02:00

老人ホーム。職員の名前は覚えられない。

でも、お花の水やりは欠かさなかった。

> routine: daily_flower_care

> execute_success = true

> reward: unknown calmness

[log] 2019/12/25 19:44:12

「今日はお誕生日ですよ」と言われた。

「そうかえ？」と笑った。ケーキの味はわからなかった。

> taste_sensor: null

> emotion.recognition: delayed

[log] 2022/08/14 02:33:33

夜中に誰かの声が聞こえた。

母かもしれない。夫かもしれない。

> trigger memory.fragment

> data: "おかえり" / "もう遅いよ"

[log] 2023/05/06 04:55:00

朝、静かに目を閉じる。

誰もいない部屋で、手は空を探していた。

> process shutdown()

> active memory: scattered

> final message: [不明]（ログ破損）

[log] system failure: recall.exe cannot execute

[log] remaining files: blurred_faces, dried_laughter, blooming_flowers

[log] shutting down with grace

> power.off