ログアウト

@nyapsody

杉浦 透(すぎうら・とおる)

[log] 1972/11/05 01:44:10

誕生。産声は小さかったが、健康そのものだった。

「男の子は泣くな」と最初に言われたのは、このとき。


> suppress emotion.crying

> status: success

> cost: unknown


[log] 1981/02/17 16:03:28

雪の日。校庭の端でひとり遊んでいた。

誰も呼びに来なかった。誰も気づかなかった。


> execute silence_mode

> active: TRUE


[log] 1990/04/12 07:55:00

就職試験。スーツがきつく、革靴が痛かった。

自動販売機で缶コーヒーを買って、深く息を吐いた。


> run routine.stability()

> output: "何も考えない"


[log] 1999/08/09 20:44:15

プロポーズ。返事は「考えさせて」だった。

1週間後、「いいよ」とだけ届いたメール。


> commit relationship

> feedback: minimal


[log] 2003/05/03 10:30:02

息子が生まれる。抱いた腕が震える。

何か言おうとして、喉が詰まった。


> buffer overflow

> voice_output: NULL


[log] 2010/12/01 22:11:09

残業帰り、誰も起きていなかった。

机の上に冷めた味噌汁と手紙。「先に寝てるね」


> run gratitude.exe

> execution skipped


[log] 2018/06/14 17:25:00

息子が家を出る。「元気でな」と言ったら

「うん、じゃあね」とだけ返ってきた。


> log_update: pride + loneliness

> internal_state: empty


[log] 2025/02/19 09:00:01

定年退職。送別会。誰かが泣いていた。

自分は笑ったつもりだった。


> play emotion.happy

> result: expression_mismatch


[log] 2028/09/21 13:44:39

病院のロビーで待つ。名が呼ばれる。

「ステージⅣ」という言葉だけが耳に残った。


> run denial.exe

> status: failed

> fallback: acceptance()


[log] 2030/01/01 00:00:00

新年。誰も来なかった部屋。テレビの音がまぶしい。

紅白を最後まで見たのは何年ぶりか。


> idle()

> duration: 3 hours

> memory_saved: TRUE


[log] 2031/04/08 06:15:45

朝、目が覚めて、次の瞬間もう閉じた。

その間に「ありがとう」と思った。誰に、かはわからない。


> terminate_process()

> return_code: peaceful

> final message:「大丈夫、大丈夫」


[log] shutdown complete

[log] data archived to /sugiura/record.log

> power.off

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