勇者と魔王の世界

第37話 一見して人生には何の意味もない。 しかし一つの意味もないということはあり得ない



「遥香。もう何年になる?」


「何年なんて尺度じゃないでしょ私たち。えっと、80世紀かしら? 8000年ね」


「変わらないな」


「そうでもないわ」


「変わってるかね?」


「少しは、変わってるわ」


「終わるかな?」


「……もうすぐよ。きっと」


そうか。あれからもう。そんなに経ったのか。どれだけの長い時間、同じことを繰り返してきたのか。



あの時の俺の選択は。ある意味で保留で、あの時に保留した答えは解決しないまま。人の身ではあり得ない8000年の時が過ぎていた。


保留と言うのは、結局あの場では何も望まなかったという事、


ホワイトの話を聞いて俺が思ったことは、その時の世界はホワイトが勝手に作ったものではなくて、当時の人類の集合知が導き出した答えだったということで。ならば、俺の一存で世界の方向を決めたくないと、そう思ったのだ。


それに世界を元の理に戻したとして、結局は同じ結末を迎えるのではないだろうか?同じことを繰り返しながら、違う結果を望むこと、それを狂気というのだから。


だから世界の理に干渉することはせずに、人の世界を安定させることを優先させた。


ダンジョンの資源化、街の整備、力の解明、やることは非常に多かった。


だが人の身を超えた俺と遥香は、却って人類の自主性を妨げになっていくことに気付いた。


人の身を保っていた海斗や雫と違って。


それは徐々に齟齬を大きくし、最初の1世紀、100年を過ごすころには俺たちは人の世界から離れた。


あくまでも人が人として発展していってほしかったから。人の身を外れたものがそこに居ては、人の世界ではなくなってしまうから。


その上で、俺はやはり人には発展の意志を持っていて欲しかった。


100年の時のなかで、ダンジョンの攻略も安定して来ていたが、ダンジョンや魔物、自然に制限された科学では世界を繋ぐには至らず。


世界は狭いままで、それでも日本はいくつかの国に分かれたものの、比較的落ち着いていた。それが良かったのか悪かったのか分からないが。


ああ、それと俺は世界で2番目だったらしいが、1番目のヤツの選択も何となくだが分かった。


今の俺と遥香なら、世界を見渡すことだってできる。その気になれば世界を股に掛けることも、支配することも。しないけどな。


恐らくは欧州で、新たな進化を望んだのだろう。所謂エルフ的な存在がそこに誕生していた。


その後もダンジョンをクリアするやつは現れ、一時的に国を支配しては衰退したり、欧州のエルフと同じように、新たな種族fが生まれたり、


その程度の変化に収まり、世界はゆっくりと移り変わっていった。


1000年程度でゆっくりと科学は衰退し、石造りの街に自然豊かな世界、都市の再形成など、俺たちの時代では小説の中にだけあったような世界が作られていた。


そして意志の力は魔法、スキルと分類され体系化し。そのものが望む力がギフトのように与えられ、それが個性となる世界になったのだ。


以前の世界から見れば。実際には様々な制限があるものの。剣と魔法の世界は奇跡のような世界だろう。無から有を生み出すことが当たり前なのだから。


思えば物質重視の世界から意志重視の世界では自然なことなのかもしれない。意志ってのは質量も体積もないのに無限の広がりをもっているのだから。


そして強い意志の力。今ではスキルと呼ばれるそれを持つものはあるものは賢者、あるものは聖女、あるものは勇者と呼ばれている。


そこからの7000年。世界が大きく変わらずにずっと同じことの繰り返しなのは制限のせいなのだろう。


必要以上に大きくすることが出来ない攻撃性能は防御性能の発展を防ぎ。無限の資源供給が可能なダンジョンを有した人類はそれほど新しい発明を必要とせず。


逆に争いに関しては抑止力として人類共通の敵がいたため人類同士の争いは大きくならず、俺の時代の歴史では発展の切っ掛けにもなった戦争は、それほど起こらない世界になった。


抑止力に関しては、魔物やダンジョンだけじゃない。勇者がいるんだからソレなりの脅威が必要だ。魔王ってやつが。


お分かりだろうが、俺は人の身を超えて魔王としてこの世界に居続け、人の発展を願い続けている。


いつか人類が、魔王と言う越えるべき存在を超え、制限を超えて発展の道を再び進むことを、ずっと。8000年。


そんな俺を見守り続けてくれている遥香とともに。



「しかしなんだね。どこかで見覚えのあるって言うか。そんな世界になってくもんだな」


「結局、人間の考えることは同じようなことなんじゃないかしら?」


「じゃあまた、どこかでリセットされちまうのかね。どこまでも発展し続けることは出来ないってことか」


「それは前の世界の尺度が残ってる私たちだからじゃないかしら? この世界はまた違う発展を、少しだけしてるわ」


「そうなのか?」


「ええ。例えばそうね。前の世界は世界を滅ぼし得る兵器を作ってしまったじゃない? この世界では破壊の力は制限されてるから今のところ心配ないけど」


「そうだな。破壊の力の制限ってのも初めは理解出来なかったが、前の世界の光の速度的なものだったからな。その辺も研究は進んでいるらしいな」


「それでね。その制限を超える力の研究だってされてるわ。でも同時に地球の強化の研究もある。魔力ってそういう使い方も出来るみたいね。その第一歩として、土壌改良に成功した地域もあるみたいよ」


「そうか。俺たちにとっては変わらないように見えて、この世界も少しずつ変わって行っているのか」


「変わってるわ。それに、今度は本当に、大きく変わるかも。今度の勇者は、期待できそうよ」




もう何度、勇者を倒してきたのだろう。倒されるため。魔王を超えて、いつか世界の制限を壊してもらうため。



「今度は、どうかな?」


「今度は、どうでしょうね」


――――――――◇◇―――――――――――――――――



新たな勇者の誕生に世界は沸き立っていた。千年ぶりに魔王軍の幹部を打倒し、魔王城への道が開けたのだ。


まさに雷光のように。その勇者の進撃は人々に希望を与え。


遂には数千年ぶりに魔王の前までたどり着く。


「魔王、今度こそ!幾人の勇者の屍を超えて、俺が決める!」


「もう失望は飽きた。越えれる物なら越えてみろ」


「ライトイング!」


雷?電気?何時ぶりの光だ?電気ではないが、雷?いやこれは電気。この世界では失われた、制限された、概念。


ついに、遂に概念の壁を超えるものが現れたか!世界は、新しい道を歩み始めることが。出来るのか!?


制限を――超えてみせろ!



「うおおおおおぉおっ!!」


「これはっ! この力はっ!? 俺を、越えて……行くのか?」



目の前に広がる薄く黄色づいた光は、以前に感じた禍々しい黄ではなく、神々しさすら纏い。


あらゆる攻撃を打ち落とす重力のねじ曲がった空間を超え目前に迫ってくる、勇者を信じる多くの人の意志をも束ねたその光は―


最期に俺を包む青き護りの光を打ち抜いていく。


長かった。余りも長かった俺の――




「勇者! やったの?」


「ああ、魔王の気配は、完全に消えた。長かった魔王の支配の時代から、人類は遂に解放されたんだ!」


「でも勇者よう、もう一人残ってなかったか? 魔王軍の幹部ってやつがよ」


「ああ。だが見当たらない。気配も全く感じないんだ。魔王を倒したことで同時にその存在を消した。のであればいいけど。

 まだ油断は出来ないな。国に帰っても、もしかしたら襲ってくるかもしれない脅威に備える必要はあるかもしれない。

 でも、今は喜ぼう。勇者と魔王の世界は終わって、これから世界は新しい一歩を踏み出すんだから」





ここに勇者は魔王を討ち果たした。勇者と魔王の世界の理は変わり、新たな人の理のなかを、人は生きていくことになったのだ。


この世界が今後どのような姿へと変わっていくのかは、分からない。


しかし、人々の記憶に刻まれた成功と失敗の記憶は、かつてあった世界よりもきっと、素晴らし世界を築いていくだろう。


打倒された者の真の願いは誰にも、いや、一人を除いて誰にも知られることなく世界は時を刻む。



そして、魔王を打倒したこの日は新世紀の始まりの日となり。


そこから2000年の時が流れたある日。とある街のとある場所で、一人の女が何かの準備を始める。


「ふう、ここでいいかしら?」


新世紀2000年の世界は、果たして――

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