第35話 見護る意志
「随分と早かったな。やはり抜け殻では化け物の前に役に立たなかったか。一度だけ問おう。貴様は何者だ?」
「あんたに化け物と言われると少し傷つくな。と思える程度には人間だよ。だが振るえる力が人間のそれではないことは自覚してるよ。もっとも、それが何であるかは、自分でも良く分かっていないがね」
「無自覚の化け物か。ならば神の使徒として退治せねばなるまい。明らかにヒトではない者よ」
俺の目の前に立っているのは一体の化け物。多分だけど元は竜だっただろう最下層のボス。教団の王と融合でもしたんだろう、一体だ。
王って変だよな。教祖とか教皇じゃねぇの?ま、どっちでもいいけど。どうせ倒すことになるわけだしな。
それに王様とボスの2体相手より気は楽だし融合しててくれても構わないぜ。第二形態とかは面倒だからやめて欲しいがな。
「言わなくても分かると思うけど、完全に赤ね。真紅といっていいわ。今まで一番、濃くて強い、赤よ」
「だろうな。ラストは竜だと思ってたんだが、竜人とはね。遥香、着いてきてくれたのはいいが前衛はあくまで俺だ。それは譲れんぞ?」
「言われなくても分かってるわ。後衛、と言っても援護射撃には期待しないで欲しいわね。嫌がらせも出来なそうだわ」
「弱点は?見えるか?」
「色が濃すぎて分からないわね。でも安心して。雅人の青の輝きの強さは、全く負けていないわ」
ハッキリと物を言う遥香にそう言って貰えれば心強いことこの上なし、だな。さ、いつまでも駄弁ってても仕方なし。仕掛けるか。
「ふん、付け焼刃の剣術など」
まぁ確かに付け焼刃だけどな。一般人だぜ俺?元、だけど、なっ!
「ほうっ、面妖な。なんだその剣の軌跡は? まさかどこぞの剣術の、という訳でもあるまい。どう見ても一般人だっただろうしな。無論、元の世界での話だが」
「そう言うアンタはさぞかしご立派なお家柄だったんかな? お名前を頂戴しても?」
質量を変えながら通常ではあり得ない剣の軌道で攻めてみるが、当たる気がしないな。身体能力だけじゃ無理があるか。
「儂は政界ではごく普通の家になるな。だがそれなりに色々と嗜んではおったよ。名前はもはや必要あるまい?
いや、日本の王にふさわしい名前が必要か。そうだな、将門。平将門とでも名乗ろうか。元をたどれば平家だしな」
「それじゃ、首だけになってくれよ」
首目掛けて剣を横薙ぎに振る、と見せかけてポケットからパチンコ玉を掴めるだけ掴んで顔に投げつけやる、
勿論質量マシマシで。もはやダンジョン産以外でダメージは期待できないが物理的な圧にはなんだろ。
たまらず後退する将門に向けて本命の剣戟、今度のは少し間合いが違うぜ?
「くっ、小細工を」
「それが俺の戦い方なんでね。一貫してるつもりだが?」
「ふん、小細工を弄して足元がお留守か? 気付いていないとは、やはり人間ではないな貴様」
将門の首元にはわずかに傷が付いてるが、大したダメージじゃないようだな。すぐにふさがっていく。だがダメージは通った。
12階のボス相当の価値はあるようだな。抜け殻のドロップだったが役に立つじゃないか。
そして俺の右足にも切り傷か。尻尾の先で切り付けてきやがったようだな。あいつこそ人間だったくせに尻尾使いこなすとかどうなんよ。
自身の身体を構成している魔力を操作して俺も傷を塞いでいく。
魔力ってあれだな。なんにでもなる物質なんだろうな。意志の力で燃料やアルコール分を作り出すやつがいるわけで。
それは魔力を物質に変換しているようなもの。原理はこれから先の学者たちの研究に任せるとして、そうとしか考えられなった。
雫も治癒もだ。初めて雫の治癒を受けた時、結構血を流してたと思うが貧血の症状は一切なかった。血すら魔力で生成されたんだろう。
そして魔力そのものは善悪もない。ただそこに人の意志が乗れば青で、何かしらの超常の意志の元に振るえば赤、ってことなんだろう。
ダンジョンや、コイツのように。
「考え事とは余裕だな」
くっそ、普通に強いなコイツ。さっき言ってたが何かしらの戦闘経験があるんだろう。隙を見せない。
今迄はお互いに戦闘経験なんてあまりないであろう中で耐えて隙作ってという搦め手で何とかなってたが、コイツはちょっと違う。
「ほれ、そっちはいいのか?」
今度は遥香狙いか、だがな。
「見えてるわ。避けるだけなら、誰よりも得意なのよ私。それに、もう少しで……」
遥香はウチのパーティーで最も被弾率が低い。って言うか攻撃喰らったとこ見たことないんだぞ。信頼能力だって人外に足をふみれてるだろうし、足手纏いって訳じゃないんだ。
さっき剣をパスしてくれたのも遥香だしな。
「まぁいいだろう。やはり持久戦だな。それでも先に魔力が切れるのはどちらかな?私は5人分に加えて神獣様の力も振るえるぞ」
やはりってことはコイツも同じ結論か。この世界は攻撃が制限されている。お互いに守勢を貫いてると膠着しやすい。
魔力は、どうだろうか。こちらが、不利?だとするならば、どこかで仕掛けなければならないが、突破口はどこだ?
先ほどの抜け殻をあっさり潰したようにいけば楽だったが、流石はラスボス級ってとこか。
将門は剣と尻尾を巧みに使い分け攻撃をしてくる。しかも片手で剣を振るい常にこちらの攻撃にも備えている。
似たようなタイプはやりづらいって言うがホントにな。っと、遥香に攻撃が集中し始めた?
「貴様と違ってこやつならまだ人間の範疇。いくら避け続けるといっても当たれば、な。魔力もそうだが体力と集中力はどうだ?複数の視界を常に見続けるのは、負担じゃないのか?」
そう、なのか?今まで遥香がそこまで消耗したと感じたことはなかったが。しかしどちらにせよ攻撃を続けられるのもまずいとは思う。
ヘイト管理って訳にはいかないだろうし厄介な。それに、尻尾が厄介だ。アレの分、ヤツは俺攻撃を防ぎながら尻尾で遥香を狙い続けてやがる。
それに、まさか。ボスと融合したことで、尻尾は自動みたいに操作できるのか?分からんがその可能性も考慮だ。
「また考え事をしたな?」
まずい。遥香への攻撃が。いったん防御に――
「雅人、ダメっ! 近づいたら、危ない気がする!」
「やっと射線が重なったな」
っ!? ブレス!? 炎か何か知らんが光線状のまずい、躱せない!
ここで躱せば遥香に直撃する。俺なら、まだ耐えれる、はずっ!
魔力を循環させてブレスでダメージを負ったところを回復させていけばっ!まだ。
「八百万の神よ」
それを呟いたのは俺ではなく、遥香。そして届くはずのブレスは、届かない。
俺の目の前にあるそれは、青く輝く透明な、壁。
「安心して。私の力よ、雅人。もっとも、雅人のお陰とも言えるかしら? 私の意志は見守る意志。対象は、この世界の行く末と。雅人、あなたの未来よ。あなたを見続けるために、護る。私があなたを護るわ。だからあなたは、ただ、越えていきなさい。目の前の困難を」
オーケー遥香。これは助かる。慣れない近接での戦闘も、防御を考えないなら拘る必要はない。
それに持久戦となってもこっちは二人分。形勢逆転、かな。
「八百万の神よ」
ここは一気に畳みかける。限界を超えて、叩き潰す!
「ぬぅ、おぉ」
剣の重量はもう何トン、何十トンだ?どこまで耐えられる?
「舐めるなよ。神獣様の強靭さと。儂ら使徒の意志を束ねた魔力は、この程度の重量! 未だ人の身を保つ貴様に、これ以上はどうにもなるまい? 力が尽きればそれまでよ」
そうだな。このままなら、どうにもならないだろうな。あとは、身体の限界を、越えるだけだ。超えた限界は、護ってもらえばいい。
「うおおおおおっ!」
質量を、上げる、上げる、上げる。目の前の敵を叩き潰すまで。
(雅人を、護る、護る、護る。この人の未来を、見るために)
剣はやがて砕け散りそうになるほどに重く。青き光りをまとうことでその形をどうにか維持をするのみで。
「なっ、ツブれ、儂が。そんな、ここで見捨て、あ、あぁ……」
もう重量もなにも関係なく、光の奔流に飲み込まれた将門を送り、視線を移す。
最深部のもう一つ。下への降る階段。
教団のボスといえる存在であり。ダンジョンのボずである存在を同時に討ち果たし、本来なら祝杯でも挙げたい気分だが。俺には先がある。
これで取り敢えずは人の争いは終わり。次は――
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