第33話 空想は知識より重要である

砲撃はもう物理的な意味では十分に効果を発揮しただろうし乱戦となってしまえば友軍がいるところに砲撃はできない。


海斗の意思伝達は乱戦にこそ必要。向こうは連携が取れずこちらは取れるという圧倒的優位を保てるからだ。雫も残る必要がある。


砲撃の観測手は。定点の砲撃中心となれば必要はない。初めての二人でのダンジョンアタック。しかも魔物だけじゃなく対人間にも備えながら。


もっとも、二人だけじゃなくて友軍の突入部隊はいるので敵が集団でも戦いようはあると思うが。


ただダンジョン内での人間との闘いは初めてで、演習すらしてなかった。ソコが懸念点ではある。特に教団はその辺やってそうな怖さがあるんだよな。だがこちらも連携がないわけじゃない。共同でダンジョンアタックをしてきた甲斐があったな。


明かりの確保はやってくれてるし、遥香は索敵に集中して道中の誘導は突入部隊が担当してくれている。そこは安心して任せている。それに共同のダンジョンアタックで得た様々なアイテム類でこっちの戦力も増大してる。どうにかなってくれよ。


「敵、かもしれないわ。それも、魔物じゃない方。もう、同じようなものかもしれないけど」


全軍一時停止。前方には恐らく、教団。



「止まれ! この先は我々が進む。君たちは引き返してもいいが、どうする?」


どうと言われても。答えは決まってるようなもんだよなぁ。こいつらを追いかけてここまで来たわけだし、答えは突入部隊も俺も同じだ。


返事は鉛弾でとばかりにクロスボウを打ち出す突入部隊員。流石に軍人だけあってこの場面でも冷静だ。そして打ち出されたボルトはその質量を増し敵集団に襲い掛か―るかと思われたが。


敵の前にはダンジョンの床がせりあがり壁が形成されている。土魔法的なアレか?それにしてはダンジョンの床も土扱いなのな。


まぁ土魔法って訳じゃないのだろうが何らかの意志の力であることは間違いない。


あれめっちゃ軽くしたらどうなるんだろうか?もろくなってくれたりしねぇかな。と、取り敢えずやってみるが壁は向こうの支配下の様で効果がない。


2射目。ココは様子見だ。1射目で少し気になったことがあるからな。するとボルトは壁に吸い込まれるようにして消えていく。


やはりか。1射目を防いだはずだが床にはボルトは存在していないしぶつかったはずなのに音もしない。


物理的な攻撃以外は俺含めて突入部隊は苦手なんだが……杖に頼るか。


まずは火。熱されていく壁は赤熱していき、こちらも近づけない様相だが向こうも動きが制限される。


そして冷気。熱して冷やすはこういう時の基本じゃないかな。そしてダンジョン産の剣でぶっ叩けば!


ガシャっと崩れる。ダンジョン産なら通るわけね。ただこれで状況が変わるかと言われるとな。


壁を出現させた教団のあいつも赤反応、それにダンジョンの床の利用。魔力には余裕がありそうだ。


実際に既に2つ目の壁が生成されている。繰り返した所で余り意味はなく。突貫しようにも狭くなった通路を無理に抜けようとすれば戦いにくいことこの上なく。


しかもご丁寧に周辺の床は凸凹に荒れているし。地上で実現できなかった野戦築城張りの陣地をダンジョン内に築かれてしまったという訳だ。


少なくとも数十人は突入していたはずだ、先に進んいる部隊のために、俺たちを足止めすることが目的jか?


だとすると面倒だが、と思っていると後方から足音。数はそう多くないが、続くと困りそうだ。


どうせ敵の増援って言うか、少しずつ防衛の隙間から侵入してくるんだろ。こっちが不利だ。後方の敵は手強いやつもいないようで突入部隊があっさりと制圧するが、このままじゃじり貧だ。


敵もこっちが攻めあぐねているのを分かって隙を見て岩石を飛ばしてくる。杖の力か壁を作った奴の意志の力か。


盾で防ぐ、躱す。質量を変えて無効化する。こっちも向こうも決定打にかける中、時間だけが浪費されていく。焦るな。


相変わらずだが俺の戦いは防御が多いんだよな。最初の病院でも防御固めるとこから始めたし。いつも防具や敵の攻撃を防ぐことから始まっている気がするぜ。


でもな、戦いは防御から始まるって言う奴もいるくらいでな。そっちの方が大事なんだよきっと。そんでそっから隙を見て反転攻勢。これこそが王道のはずだ。攻撃から守勢に回ると脆いだろ?


観察の時間は終了。反転攻勢の時間といこう。


突入部隊の一員が他の隊員に隠れるようにして床に手を突き床そのものの形状に干渉していく。そっちがダンジョンの床を操作でいるんならコッチも出来て当然だろ?壁には干渉しない。するのはその周辺。


泥上になった床は壁を支える役目を失い、壁は簡単に倒れていく。向こうの驚く視線を無視して射線が通った瞬間を一斉射撃!


意志の力に頼らずとも軍隊の連携ってのは素晴らしいものがあるな、一朝一夕には出来ないことだろう。


そして大きな隙は最大のチャンス。周囲のヤツは射撃で倒せてもどうせ赤反応は残るんだろ?


結果を確認する暇を惜しんで近づきそして剣を振り下ろす。こん棒から剣に進化したとはいえ、結局は重量増して叩き潰すんだがな。



ガキンッ


「一瞬焦ったがこの身体はヤワではなかったようだ。貴様の攻撃もなにか特殊な力があるんだろうが、私の方が上だったな」


「岩の身体かよ。人間離れしてきてんなおい。ってまた壁かよっ!?」


「こちらは時間を稼げばよいのだ。同胞が最下層をクリアすればそれでこちらの勝ちだからな。色々と小細工をしてくれたが全てひっくり返せるんだ、貴様らは知らんだろうな、4度目の神の啓示。それに導かれた我々は選ばれた民、神の使徒であるのだ。貴様らが知らんことを知っていても何の不思議もあるまい?」


「神の使徒?どう見ても悪魔の使いだぜ」


「何とでも言え、世界の理は変わり、その世界での王に。我々の王がそれになるのだよ。選ばれた同胞のために、我々は役割を果たすのみ。ここで止まってろ」


全身を岩で包んだ人型の生物。そう形容する方が正しいだろう目の前の敵は。赤反応であることをはっきりと認識させる姿へと変貌していた。


まるで石象を思い返すようなそんな感覚。それでいて知性を保つと、そして相変わらず説法が好きだねこいつらは。


それか、敵対の意思をはっきりとさせることに意味があるのか?ならこっちもトラッシュトークといこう、


「俺も八百万の神を信仰させてもらっていてね。神の使徒と言うならオレも俺たちもおなじじゃないかな?

 寧ろ、神の名をかたる偽物の白い影を信仰しちゃってるお前らが使徒ってのはお笑いでしかないな」


「小細工で攻撃を防いだくらいでいい気になるな?何度も言うがこのまま時が進むなら私は歓迎だからな。いつまでも付き合うぞ?」


「いくわよ?」


準備が整ったらしい遥香の声が唐突に会話に割り込んでくる。来る。集中しろ。研ぎ澄ませっ!


ヒュッ、と他のクロスボウより高い音が聞える。その音は音速で届く。瞬間身体を捻り後ろから迫るボルトが身体をすり抜けるかのような錯覚を与えソレは目の前の石男に迫る。


神経伝達、身体操作、すべてが人体の限界を超えて行われた一連の動作は。敵の驚愕の表情まではっきりと認識をしながら。


ダンジョン産の剣でぶっ叩いても平気だった石の表皮に僅かな傷をつけてたボルトを今度は認識する。


そして先ほどと同じ人の限界を超えた速度で剣を振り直す。ボルトに向けて。


「まてっ! これは? どういう!?」


待てと言われて待つはずもなく。振り抜かれた剣はボルトを深く打ち込むと同時に全身に衝撃を伝えていき。


石の鎧を砕きそのまま内部を切り裂いていく。


遥香の目は弱点、石にあるという目を見抜きそこを正確に撃ちぬいた。俺は打ち込まれたボルトを内部に打ち込みつつ鎧を破壊。そのままの勢いを持って剣でやつを引き裂いていった。


ボルトが打ち出されてからのコンマの世界でここまで動けるのは自分でも驚きだ。


いや、待て。確か神経の伝達速度は限界があって。それは電気的信号の伝達に神経の抵抗があって?


電気は概念がないのに?今俺たちを動かしているのはじゃあなんだ?それが、魔力?


赤反応の敵だけじゃなく、俺たち人類すべてが既に身体の構造を変えている?


だが、それは悪いこととは言い切れないはずだ。人類全員がそうなのであれば教団のような悪意に染まった奴だけでなく。


旧体制にも避難所にもいたはずの善人も同じなのだから。そこに善悪はない、はずだ、あとは認識の差か?


遥香、今の俺は何色だ?


「青よ。余計なことは考えずに出来ることをやる。じゃなかったの? 今やれることは先に進むことじゃないの? 無事に今日を終えられたら、その時に考えましょう」


話しかけたわけじゃなかったがよっぽどの表情だったのかもしれない。遥香から欲しかった答えを貰った。


不安はぬぐえないが、先に進もう。突入部隊もそうだ。自身の役割を果たすことが今の最優先事項なのだから。




「おいおい、それにしてもコレはないんじゃないのか? 俺だって色々覚悟はしてたぜ?それにしても、だろ」


「そうね、普通はこういう時、ボスに私たちがパーティーで挑むものなのよね? せめて海斗と雫を――」


「後方より敵集団の気配あり! 想定以上の数だ。各自、後方にも注意を!」



地下12階、恐らく次がボス部屋なんだろう。2,5ときて次は10か13かと思ってたんだが、恐らく13なんだろうな。


あの穴の下がきっとボス部屋。そしてその穴の手前で待ち構えていた敵集団はみな異形。5人の、いや5体の赤反応と10体以上の取り巻き。


その姿は想像上の悪魔のような。角やら羽やら牙やらが生えていたり。全身毛皮のやつもいれば3mほどの体長のやつまで。


そして後ろからは後続の教団の集団が迫ってきているらしい報告。ここにきて挟み撃ち、そして前方はボスラッシュの様相。


「ふむ、ここで後顧の憂いを絶ってから神獣様へのお目通りといこうと思ったが。その程度の戦力なら気にすることもなかったか? 貴様らは勘違いしとるよ。大切なのは地上の争いじゃない。この先へどちらが先に進むかなのだよ。最も、神の啓示を受けられていない貴様らには分かるはずもないか」


だから人間、いや。知性のある敵はイヤなんだよ。魔物やダンジョンのボスならこんなことまでしないんじゃないか?


それよりも、だ。この状況をどうするか。もはやどうするもへったくれもない状況だが、それでもこの状況を来ないことには俺たちは終わる。


終わらないためには、越えないといけない。俺だけじゃない、全員が。この状況を超える力を得なくてはいけない。


出来るだろうか。俺に。|越えさせること》が、出来るだろうか?


ずっと考えてた。俺の力。俺が状況を超えていくのではなく、周りの人間も含めて超えさせていく力、じゃないかと。


仲間と出会って。避難所でも、坂田の時も。渋谷に来てから、市ヶ谷に来てから。ずっと、俺の周りは俺がいない時よりも意志の力を増していた気がする。


信じろ、自分を、仲間を。


祈れ、八百万の神に、自身に。


届け――――


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