第32話 誰かの為に生きてこそ、人生には価値がある

ハツヒノデ作戦当日の朝は忙しかった。主に遥香と海斗が。この二人が本作戦のキーであるのだ。


本日をもって教団本部及び幹部と思われる連中に決定的なダメージを与えて東京の趨勢を決めるのだ、必然、緊張感が高まる。


「久し振りだね最上君。いやそれほどでもないか。2週間も経っていないくらいかな。ただ今の生活は濃密過ぎてね。一日一日を長く感じておるのかもしれないね。

 それにまさか、自分が軍事作戦に協力することになるとは、思いもよらなかったよ。昨日から緊張で眠れていないくらいだ。君たちの精神力を見習いたいものだね」


「すみませんね市長。あなたの力を思い出して、どうしても協力をいただきたくて。竹田さんに進言したのは私です。巻き込んでしまったこと謝ります」


「いやそれは構わないよ。聞けば確かに私が適任かもしれないと思ったしね。それに、君への恨み言は真田さんが言いたがっているだろうね。私の替わりにあそこの責任者を押し付けられた形になったからね」


本作戦のもう一人のキーマンである北条、作戦内容を詰めていく段階で以前に出会ったこの男の力の必要性を訴えたところそれは採用され。


以前であれば即日でも合流できただろうがこの世界では数日かかってしまい、北条が付いたのは昨日のことであった、


それでも優秀なこの男と。同じく優秀な竹田の間でのすり合わせは作戦に支障をきたすことはないだろう。


「それでは私はここが所定位置になるからここで待機させて貰うよ。君は確かまた別のところだったかな」


「ええ、私と雫は別になりますね。本作戦はあなた方ネットワーク組が最重要です。寝不足のところ申し訳ありませんがよろしくお願いしますよ?」


「ああ、ここ一カ月で私も随分と強くなったからね。最も魔物と戦う方向ではないのだがね。そこは君たちに期待してるよ。―では、武運を祈る」


武運を祈る、か。そんなセリフを自分が受ける日が来るとは思ってなかったな。勿論、大半の日本人がそうだたろう。


自衛隊に対してこちらからそう言って送る気持ちならあったかもしれないが、自分自身が戦場にでるなんて欠片も思ってないはずだ。俺には、守るべき人ってのもいなかったし。


だが言われてみるとこの言葉は心強い。昔の人もこうして戦意を高めたのだろうか。


順調にいくなら俺の役割は他の仲間たちと同様に支援側だが、不測の事態は高確率で起こることが想定されている。


その場合、俺も前線に出る覚悟はしてるし、そうなった場合は雫の出番も望まないながら増えるだろう。


俺は作戦の配置である外の開けた場所に向かった。そこにはいつの時代かと錯覚を起こすような。投石機が並べてあった。


コレが今回の主武器である。製作が得意な面々が意志の力も活用して作り上げた。俺も適宜、組み立ての際に重量を軽くするなど協力したぜ。


照準は千代田区全域である。通常であれば難しいのかもしれないがソコは意志の力。それと物理と数学。魔法的な要素がこの世に溢れたとしても。蓄積された知識が無駄になるわけじゃない。これから先は分からないが、現状ではハイブリッドが一番の効果を発揮しているのだからそれを使う。実に合理的で人間的だろ。


電気、エンジンなどが使えなくなっただけで、科学や数学が完全に否定されたわけじゃないからな。


で、コレを使って砲撃を行うのだが、普通に石を放るだけじゃないぜ。それじゃミサイル攻撃すら想定されている首都中枢の主要な建物は破壊できない。


上っ面は破壊出来るかもしれないが、内部はシェルターみたいになってるらしいしな。そこで。軍関係者の多くが持つことになった意志の力で加速させる。そして俺が打ち出された石の質量を増す。


軍関係者は早くだったり速く、或いは迅く。そう願うことが多かったようで速度に絡む意志の力は多くみられた。北条を連れて来れたのもそれが理由だったりする。


そして初速が上がることで射程の確保と、着弾時の威力も上がる。通常の理を超えた重量をもつ投石は、立派な質量兵器となったわけだ。


勿論、個人の魔力には限界があるので何十、何百発も打てるもんじゃないが、その威力はまさに神の杖だ、


神の杖ってのは高高度から高速でタングステンを打ち込む兵器の構想だったか。


核弾頭には匹敵しないとか言われてるらしいが、この場合匹敵されても困る。こっちまで影響受けるってことになるからな。


諸々の計算は専門家に任せて俺は指定された重さに引き上げればいい。それぞれがそれぞれの役割を果たすことが重要であり。そうして重ね合わせた力こそが人類の力。社会を形成し、集団として力を発揮するのが人類の強みなんだ。


自分達よりも強靭で、巨大で、強力な野生生物などを打倒してきた、人類の力だ。


そして遥香の観測、それを海斗が北条につなぐ。北条はそれを砲撃手に伝える。この連携で遠距離武器は実用性を持った。


威力だけ出せても当たらなければってやつになっちまう。そして戦場全体を見渡し、伝達が可能となった今の市ヶ谷は。近代戦において最も重要な、情報戦で教団を圧倒しているはずだ。これがハツヒノデ作戦の全容である。


「敵が行動を開始したわ。徐々に外に出る部隊が増えてきてる。そろそろ初撃の時間だと思うわ。各自準備を」


砲撃のタイミングは情報伝達部隊である遥香たちと同室の竹田が決める。後は砲撃開始を待つだけだが、その時が近いのが全員に伝わる。


緊張感が漂う中、竹田の意思が全軍に伝わる。


「投石準備。目標永田町周辺。弾着は正確でなくて良い、周辺に石の雨を降らせろ。投石開始5秒前、4,3,2――」


「2,1,ファイア」


砲撃手が投石機のひもを切り巨大な石が投げ出される。そこに加速の意志が乗り――


質量を増した石やコンクリートブロック、鉄、車などが空へと射出されていく。


そしてしばらくの間を置いたその時、肉眼で見ることこそできないがここまで届いた轟音が辺りに鳴り響く!


ゴォオオオン! ガシャーン!! 地面や建物にランダムに打ち付けられる質量たちは音だけでその与えている被害が伝わってくる。


「敵集団は混乱しているが建物内に籠っているものもいると思われる。砲撃を続けろ。東京駅方面からも集団が動き始めた。

 向こうも何かしらの伝達手段を持っている可能性もある。散らばって動き始めているぞ。第2射と別に散弾も準備開始だ」


散弾。以前にショットガンもどきを作ろうとした時は上手く行かなったが。軍に加えて大学等の研究者や数学者による計算で俺たちのなんちゃってとは違う文字通りの石の雨を降らせ得る散弾もある。


すべてがうまく行くわけではないようだがそれでも十分に効果を発揮するとの試算のそれ。散弾も竹田の号令と共に打ち出されていく。


「敵の小集団の動きが活発になってきたぞ。拠点への定点の砲撃は第1陣が継続せよ。次弾装填次第で順次発射だ。第2陣と散弾は適宜目標地点の変更を伝える。照準変更を迅速に行え」


ここからは逃げたり避けようと動き回る集団を遥香が補足し続け海斗は直接砲撃手に伝達していくことになる。


そして一部は敵拠点への砲撃を続けて敵幹部を釣り出す。いくらシェルターがあっても、こうも続けば何かしらの手を打たねばなるまいよ。


敵の圧力が下がれば包囲し、その包囲を狭め、籠城戦さながらの戦法だって視野に入ってくるわけで。今日で敵にダメージを与え、なによりも決定的に戦意をそぐ。


青の集団は恐らく徐々に投降してくるだろう見込みもある。だが。


「敵の集団が散開しつつ江戸城を目指している様子あり。ダンジョンを壁にするのか? その手もあったか! 出来る限り防げ! 砲撃範囲を超えてこちら側に侵入してきた部隊を別途叩く。特殊部隊、展開始め」


ある程度以上近づかれた場合は近接部隊が直接戦う手はずだ。乱戦になって来ると少し心配だが、こっちは回復しながら戦えるというアドバンテージがあるぜ?


「衛生兵は状態を気にせずに生きて救護所まで届けることを最優先にしろ。そこから先は優秀な友軍による治療が受けられる。お前らも見てきただろう? 奇跡の力を。勝利は我らの手のなかにある。国を、仲間を。家族を救うため、奮戦せよ!」


共同のダンジョンアタックで雫の治癒を実際に見た兵士がほとんどだからな。コレは心強いはずだ。信仰によって死兵となる恐れのある教団の戦力だが。此方だって多少の傷なら恐れないで戦えるんだ。そこまでアドバンテージはないはずだぜ。


そもそも、異変後の世界は攻防のバランスが少し悪い。いやある意味助かってはいるのだが、ダンジョン産の武器防具や魔物の戦闘力にしても。


高い防御性能に対して攻撃力が足りないケースが多いんだ。俺自身が、唯一の例外といってもいいほどに。


そのことへの考察はまだ足りていないが、一撃死というケースは少ない。そうなれば雫を擁するこっちは非常に有利なはずだ。


「敵が一斉に拠点を飛び出した? おかしいわ。動きが明らかに変よ。急に、動きがスムーズに? 紫も、増えた?」


遥香の動揺が伝わる。色までは竹田に伝えていない。本作戦上は意味が薄いと思われたので。赤は幹部候補として伝えているが、紫は別。


黄色と青はもう同じとして伝えている。伝達量の増加は魔力消費に直結するためだが、それでも俺たちには伝わる。


「ん?これは。まずい、奴ら多少の犠牲を厭わずに一気に突破を図るつもりだ。砲撃は継続しろ、特殊部隊は遅滞戦闘を。数に押されることも考えられる。いつでも拠点近くまでの撤退路を確保しておけ。」


投石の連続射撃はさながら三段撃ちも再現だったが。にらみ合いの膠着状態では野戦築城までは不可だった。長篠の再現とはいかなかったか。一気に突破を図られると殲滅は難しい。


向こうも思いっきりの良すぎる決戦を挑んできたのか?だが攻め込んでくるならこっちは防衛線に移るだけだ。キルレートは圧倒的に有利な戦いになるはず、だが。


「敵紫が一斉に江戸城に向かってるわ。一部取りつかれて……赤反応!? 突然? 江戸城内部に敵集団が入っていくわ!」


「なにぃっ!? 敵の目的はこちらへの攻撃ではないのか? まさかダンジョン内で籠城でもするつもりか? いや、可能なのか?

 もし可能ならそれで攻略されて問題があるかもしれん。司令部へ伝達。作戦は変更、突入部隊、準備だ」


敵がもしこの状況で軍との戦闘よりもダンジョン攻略を優先した場合、突入部隊がダンジョン内部で戦闘を行う手はずだった。そして俺も突入部隊として参加となる。


地上での戦闘はこちらが有利に進んでいるが、万が一ダンジョンを一気に攻略された場合。王権神授ってのがどうなるのか予想が付かない。


ならば阻止が最優先。地上での戦闘とダンジョン内での戦闘、戦場は二つになる。


砲撃は加速のみとなるが仕方がない。俺は急ぎ突入部隊へと合流するため移動を開始する。


決戦の行方はまだ、分からないまま――

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