第28話 大切なのは、疑問を持ち続けることだ。神聖な好奇心を失ってはならない

俺たちは当然と言えば当然の選択肢を選んだ。旧体制側と共に教団と戦う選択肢だ。


だがそれぞれに悩むこともあった。完全に人との争いになること、魔物ではなく人を、殺傷すること。


それでも、全員がこの道を選んだのは教団の信者を実際に見たからだろう。


渋谷付近は教団の勢力圏の端であり前線と化している。そこでの争いを実際に目にしたのだが。


元自衛隊と一般人、であるはずのその戦闘は教団側が押していた。遠距離では元自衛隊であっても使用可能な武器は少ないようで投擲中心なのにに対して。


教団側は火の弾やら、かまいたちと思われる見えない刃など。完全にファンタジー世界の攻撃を見せていた。


火を操る意志や風を操る意志なのかどうかは分からないが意志の力であることは間違いないだろう。


そしてその何が怖いかというと。ここまで殺傷に特化した能力を身に着けている人間が多くいること。


ダンジョン攻略数では日本でもトップクラスであろう俺たちだって直接的な攻撃手段は少ない。俺の重力操作くらいだ。


坂田も転用はしていたが本質的には攻撃的な力じゃなかったし、村上や北条も違った。真田は聞いたところ防御的なものだった。


ここまで攻撃的な集団は今まで見たことがない。軍関係者だってその思想からか攻撃的な意志より守る意志が多いのに。


「あの人達は多分だけど洗脳されて、教団の敵を倒したい、といった意志を持たされてるんじゃないかと思うんだよね。ショッピングモールで扇動された側の人に、近い気がするんだ」


海斗が言うには周囲に影響を受けた人の特有の波長と言うか、漏れる意思みたいなのがあって、それを感じ取れると。


そうなると放置すれば彼らのように自分の意思を持たないとまでは言わないが、本来の意思とは無関係に周囲に対して攻撃的な存在が増えてしまう。


魔物やダンジョンが存在し、対策を必要とする世界である以上はある程度は戦える人間も必要だとは思う。


それでもあまりに比率が高いと社会の維持が難しくなると思う。というかその比率を抑えて成立するシステムを作らないと遅かれ早かれ人類は衰退するだろう。


教団が王となった世界のことはあまり想像したくない世界になりそうな気がする。中世の暗黒時代よりもひどい世界が待っていそうだ。


「最上特佐、市ヶ谷へ向かって欲しい。そこが江戸城西側の前線司令部になっている。教団は永田町が司令部。その間が最激戦区と言えるだろう。

 永田町を抑えることが出来れば非常に大きい。あそこは防衛用の施設も多くあった。一般には勿論知られていなかったがね。

 そしてそこを抑えられているからこそ我々は苦しい状況にあるとも言える。あそこからは内掘全体が管理しやすいからな」


「分かりました。一応我々の扱いは友軍。つまり自衛隊の指揮とは別系統になるという認識で良かったんですよね。

 勿論、戦闘になれば指揮に従いますよ。我々の素人判断で動くよりも指揮して貰った方がありがたいですし。ただその選択権はこちらにある、と」


江戸城周辺は都内にあって最も自然豊かな場所でもある。江戸城という大きなダンジョンがありながら、その周囲は自然が多い。


魔物もいれば教団の人間も出入りしている。そして旧体制もそこを抑えられないようにお互いに監視と戦闘を繰り広げている。


そして東側では膠着状態。敵の本部が内堀のすぐ近くだし永田町との連携もある。


西側は永田町と間の激戦区と江戸城を睨む市ヶ谷に司令部があると。ここに現在では実質軍のトップとなった人物がいるらしい。


そこへ特佐として趣き協力体制を構築。場合によって指揮下に入るかと思ったが陳情書は思った以上に効果を発揮してくれている。


上手くいけば教団との闘いは軍に任せて市ヶ谷から江戸城へとアタック出来ればいいのだが。それは実際に行ってからだな。


「お互いの前線司令部の距離感は現代戦では考えられないほどに近い。市ヶ谷と永田町なんてすぐソコとも言える距離。向こうに近づいたら十分に注意するように。奴らの狂気度合いは既にみているだろう?」


竹田の忠告は最もで、教団の人間はとにかっく好戦的と言うか異教徒相手ということか正しく狂気じみている。


それに奴らは敵が誰か分かるらしい。向こうにも遥香と海斗みたいな力を持っている者がいるのかもしれない。


自分達だけの専売特許でもなくなってきたらしいな。


しかし、日本で一番の人類共通の敵。江戸城ダンジョンの目の前で人間同士争ってるというのは、皮肉が効き過ぎだろ。


この先に待ち受ける試練を考えると足取りも重くなるが、市ヶ谷へ向かうとするか。




渋谷から市ヶ谷までは直線的には向かえない。敵側や激戦区を通ることになるからだ。そこでいったん北へ向かいそこから市ヶ谷へ向かう。


この辺の地理的状況だが、大きなスタジアムのような施設や神社等が主な避難所となっている。そして。


異変後の特徴としては避難所に人が集中しておりそれ以外の市街地に人は点在していないということ。


多くの人が集まる場所と、人がほとんど通らない場所に分かれていることになる。江戸時代ですらこうではなかっただろう。


「また少数の青。迂回しましょう。少し北側に行けば多数の青集団がいるから一回そっちを目指すわ。赤はもう接敵しちゃいましょう。それまで避けてたら全く進まないわ。戦闘区域って厄介ね」


「赤の集団が無いのは救いでもあるが。黄色は勿論だが青でも敵ってのは索敵上はデメリットだな。勿論、黄色になってる奴が多いよりはいいんだが」


市街地において人の気配があるということは。教団側の人間か自衛隊や警官などの旧体制側の巡回部隊ということになる。


教団の人間も偵察やら何やらで外堀~山の手線沿線くらいは出没している現状、巡回部隊は魔物より人に気を付けないといけないという悲しさだ。


そして俺たちは人の気配や魔物の気配は遥香の目で判別が出来る。人間の判別もある程度できるのも心強い。


巡回はある程度の集団であり、教団側の人間は少数だからだ。その規模によって見分けるしかないのだ。


なにせ教団の人間は全員が黄色って訳じゃないのだから。黄色と青の違いはなんだろう。シンプルに人類への敵意とかそんなとこと思ってたが、違うのか?渋谷を襲ってた青も容赦なく攻撃をしていた。


そこには明確に敵意を感じたのだが。それに黄色から青に戻るケースが少なすぎるのも気になる。敵意が無くなれば青、という訳でもないのかもしれない。


少数の集団を避けながら都内を移動、ダンジョンは大体攻略されており移動自体はスヌーズだ。


教団も旧体制側もダンジョンをクリアしていくだけの戦力はあるわけだ。そりゃ火の魔法みたいなものを使える集団とそいつらとやりあってる集団だからなぁ。ダンジョンの2階くらいはクリアできるわけで。


それに5階もクリアしてると思うのだ。特に教団側。奴らの中に皮の防具してる奴がいたが恐らくダンジョン産。そう言えば渋谷ではダンジョン産の装備っぽいものは見なかった。


もっとも、俺たちだって警察装備継続してるわけだし自衛隊時代の装備は十分に優秀なのだろう。市ヶ谷についたら貸して貰えないか相談してみよう。久し振りの装備更新になるかもしれない。


武器は、人間相手ならダンジョン産のこん棒もナイフみたいなものでもあまり変わらないと思うし合理的なんだろうと思う。


「前方、赤の反応だけど青も少数ね。戦っているのかしら?」


「それか非戦闘員か。軍サイドは少数での巡回はしていないということだったからそのどちらかだとは思う。もっとも、竹田の話した情報が正しくすべてだったら、だけどな。書面だけの信用だからな、現状では」


「もし非戦闘員であれば助けた方がいいんじゃないでしょうか? 魔物一体に時間が掛かってるなら寧ろ非戦闘員の可能性が高そうですし」


「それもそうか。旧体制側の人間なら助けた方がいいかもな。さっき言った信用も得られそうだし、そもそも俺たちは大多数の人間は助かって欲しいわけだし」


接敵までは時間はかからないだろうし、魔物も一体だけなら時間だってそう取られないだろう。都内であっても市街に出る魔物は黒狼だの赤猪だのみたやつばかりだし。


「ストップ! 違う。魔物じゃないわ。人間だけ、少数よ。赤い、人間?」


は!?人間?赤は魔物やダンジョンの色だったはず。そりゃマニュアルなんて無いから必ずそうだって訳じゃないが。これまでずっとそうだった。


「迂回か。赤い人間がいることが分かっただけでも収穫だ。それに今後は赤+少数の青はリスクとして行動することも出来る。激戦区で初めて知るよりはるかにいい。無理に戦闘せずに市ヶ谷を目指そう」


「待って。前方の進行方向に向かって青の集団がいるわ。それもそれなりの数。巡回部隊かも。このままだと先頭になるかもしれないわ。赤の集団がどういう行動を取るかも見れるかもしれないわよ」


「それと友軍有での初戦闘の経験になるかもしれない、か。なら様子を見るか?」


「ここで避けて巡回部隊に被害が出るのもあんまりよくないとは思うよね。これからのことも考えるとさ」


「最悪は撤退からの早期治療も考えておいてください。それが可能ならですが」


出来れば先に巡回部隊と遭遇しておきたいが位置関係的に厳しいか。


思いがけない形でだが初めての本格的な対人戦へと向かうことになったわけだが。色々と心の準備をしながら挟み撃ちの形を取るように移動し。


その時を待つことになるのだった――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る