第16話 神話の世界エピローグ~見守る意志~

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私は、私のことを好きだと思ってた。


私は、私が生きる世界のことを好きだと思ってた。


私は、今までわりとうまく人生を過ごしてきたと思う。普通に大学まで進学することも出来たし、卒業後は普通に就職できたし、仕事も普通にこなしてたと思う。


それで、社会人サークルにも入ったりして。普通からみれば、それなりに充実した人生に見えていたと思う。


自分でも、そう思ってた。だから、自分のことを好きだと思ってたし、そんな私が生きる世界を、好きだと思ってた。


思ってた。


全部、、だ。


今となっては、あの時と同じ気持ちでものを考えることなんて、出来ないのだから。


あの時、踏切の前。何気なくスマホを眺めてた時。


いきなり、得体のしれないナニカが視えた。


それで思わずスマホを落として、周りを見たら。そこにはスマホに視えたのと同じナニカがそこら中に映ってた。


何事かと思う私は声を掛けられた。スマホ落としたことは分かってるけど、それどころじゃなかったのよ?この人には何も見えていないんだろうかという疑問が先に頭に浮かんでいたけれど、けたたましいアラートが聞こえてきて。


今度は伏せろと声を掛けられた。その声の方を向いて初めて気づいたの。


地面に伏せていたその人が、仄かに光を放っていることに。


その光は、身体に覆われているようで。直感的に、胸のあたりが青く光っていると思って。


今まで感じたことのない神秘的な、美しいその光をより見やすいようにと、私も地面に伏せた。目線は、その人を追っていた。


その人は目線をあちこちに移している。そうか。この人にはガラスとかそういう何かが映ると思われる物にしかナニカが映っていないんだ、と理解した。


やがてアラームの音よりもハッキリと内容を伝えてくるナニカのささやきで、世界が変わったことを直感した。


なんでか分からないけど、理解が出来る不思議な感覚。直感的に理解するって言うのはこのことなんだなと思った。


そして思った。


この新しい世界を、見てみたいって。


もしかしたら私は、普通がイヤで。普通な世界を普通に生きる自分がイヤで。普通じゃない世界を、望んでいたのかもしれない。


ここまで普通じゃない世界のことを望んでいたのかは分からないけれど。少なくとも今は、好きじゃないけど。


これからどう思うのかは分からない。でも、確かなことは一つだけある。


あの時、もう一つ思ったこと。祈りにも似た、想い。


この光を、ずっといたい。


あの人が放っていた不思議な光に魅せられた私は、その人の手を取って走り出して、ともに行動することを選んだ。


そして行動を共にする中で、光だけじゃなくを見守っていたいと、今では思うようになった。


私は彼に惹かれているのだろうか?それは分からない。男性としてどう思うかなんて、そんな余裕のある世界じゃないのよ。


でも私の直感は告げている。


光が視えるようになってから見てきた誰よりも、強く美しい光を持つ最上雅人を。


これからも見守っていくことになるんだろう、と。


これから私たちは、これまでの一週間とは違い沢山の人と会うだろう。協力したり交渉したりしていくだろう。


ダンジョンにも潜るだろう。鈍く赤い光を放つ、魔物もたくさん見るだろう。


最上雅人は、そのなかでもずっと一番強い光を放ち続けるのだろうか?


その青い光は、どこまで壁を越えていくのだろう?


それは分からないけれど、私の意志は決まっている。


光を、世界を。最上雅人を、見守っていくんだと――――



――――――――◇◇―――――――――――――――――


市役所は、想像されていたよりもずっと静かだった。


多くの人は規律に従い行動することが出来ていた。


市役所の備蓄は、想像されていたよりもずっと残っていた。


多くの人が、前より少ない食料で耐えることが出来ていた。


行政の行動範囲は、想像されていたよりもずっと広がっていた。


多くはないが、以前にはなかった力を自覚した人々が現れ始めていたからだ。



そして、昨日までは探索が出来なかった地域も探索出来るようになり、学校などに点在していた避難者たちが合流して来ていた。


極限状況において避難民が増えたのにも拘わらず、想像以上の規律を保つ市役所の中の一室。市長室には、一人の男が佇んでいた。


一介の市長であるその男は昨日まで嘆いていた。苦悩していた。


今も苦悩はしているのだが、幾分か落ち着いた表情をしている。


「まさか私に、このような力があったとは……これで、少しは事態のひっ迫を引き延ばすことが出来るか? 市民たちも、何故か求める食料が減ってきているという。それに健康被害も出ていないし寧ろ何故か減少している。

 他所の避難民の回収、合流も急に進みだした。警察や市の職員から身体能力が向上しているという報告が上がってきているが……

 何もかも分からないことばかりだ。しかし、状況が悪くなっているわけではない。事態の究明と、市民の安全の確保。どちらも進めなければならないが、判断が付かない。私は、何処まで行っても一介の市長なんだぞ……」


市長は、直感的には理解している。理解しているが直感で行政は動かせない。ジレンマを抱え苦悩している。


それはそのうち多くの職員たちも気づくことだろう。その時にどういう判断をするのかはまだ分からない。


避難民たちも、問題を抱えながらも不思議と落ち着きを取り戻してきている。火種は、くすぶったままであるのだが。


この国は過去を見ても大きな外圧が無ければ事態が動かないことが多い。規模が大きくなれば大きくなるほど。だがこの状況である。


もしかしたら、自分たちの力で状況を変えていくことが出来るのかもしれない。力を持つ者も出始めているのだから。


それともやはり、何かしらの外からの力が必要なのだろうか?それも分からない。


分からないが、外にある大きな力と、内にある希望もしくは火種。それらの邂逅の時が近いのは確かだろう。



事態が大きく動くのは、もうすぐ――


――――――――◇◇―――――――――――――――――


「思ったより動きが遅いね、人間たち。かといってこれ以上姿を現しては神性が薄れる。まぁ焦ることもあるまい。1,000年。いや10,0000年でも構わないのだ。」


光の無い空間では何も見えない。そこは暗闇か、それとも虚空か。


誰に言ったとも分からないつぶやきは数瞬で終わり、そこには静寂のみが残されるのだった――

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