第15話 神はすべてを数と重さと尺度から創造された


目が覚めた。


久し振りに、ゆっくりと眠った気がする。


……まだはっきりと覚醒している感じはないが、それでもこんなに心地よい目覚めはいつ以来だろうか?


思えば世界が変わる前だって、あんまりゆっくりと寝ることはなかった気がする。


それでもここ一週間のことを思えば、あんなに詰まらなくて不条理に感じていた世界もいいもんだったな、なんて思うのだが。


「おはよう雅人。随分とお疲れだったみたいね。でも、あのダンジョンのボスを倒せたのは、あなたの疲労と引き換えだったわけだし、それだけの力だったんでしょうね。で、説明はしてくれるのよね? それと、あなたが寝ている間のことも話しておきたいわ。二度寝は無しよ?」


ノスタルジックには浸れないらしい。もっとも、それに浸るにはまだ日が浅すぎるかもしれないがな。


それだけ濃密な一週間だったということだろうと、俺は思うぜ。





「あの後すぐに最上さんは意識を失っちゃったけど。あの後で分かったことがあるんだよね。僕たちはダンジョンをクリアはしてないって。石象を倒した場所にはさらに地下に潜る階段があったんだ。最初からあったかは分からないけど、倒すまでは下には行けなかったんじゃないかと思ってるんだ。

 どっちにしても最上さんに意識がない以上、まずは撤退ってことでここまで戻ってきたんだよ。それが昨日のこと」


今は午前10時だ。ってことは昨日のダンジョンアタックが昼くらいに終わったと考えて、丸一日近く寝てたってことか。そりゃゆっくり眠った気になるわ。


「ただ気になることもあるのよ。昨日から今日にかけて、今までとは街の様子が変わってるの。具体的に言うと人が増えたわ。今まで補足してなかった青い集団を見かけるのよ。雅人が話してた心理的な動きの変化とは明らかに違う感じで疑問だったんだけど、気付いたの。それに気づいたのは雫なんだけど。雫、説明して」


「はい。多分ですけど、あの象はダンジョンのボス的な位置づけだったんだと思うんです。ただ、一層目って言ったらいいんでしょうか? 区切りのボスみたいな?その影響で何かが解放された感じがするんです。

 それで、今まで移動出来なかった駅の向こう側の人がこっちに来たのかもしれないって。思えば私たちも、駅を超えて街の北側を見ようと思わなかったじゃないですか?それが心理的なものなのか魔力や物理的なものかはさておき、何かしらの壁があったような気がするんです。

 それに、私の力も。今なら指の欠損も治せそうな気がするんですよ? 試してないし直感ですけど。これは当たってる気がします。とにかく、昨日から何かしらの変化があったのは間違いないと、思うんです」


「力の変化に関しては私もそうよ。雫に言われて試してみたんだけど、目測が出来るようになってるの。10時の方向、距離893m。とかも今なら出来るわよ? 雫の力は試せないけどね。流石に検証で指を落とすのはイヤよ? 指が無くなっている人を探すのも、勿論イヤだし」


まあ今時はその界隈の人もそんなに指切らないんじゃないかな?表現はマイルドにしておこう。雫の直感は、多分当たってると思う。俺もより正確に自分の力を理解したわけだし。直感力みたいなのも上がったのかもしれない。


「僕の力は抽象的って言うか試しづらいから良く分からないけどね。距離とか伸びてるかもしれない。そう言えば最上さん。気になってたんだけどさ、石象を倒したあの力は、どういう理屈だったの? 理屈はないかもしれないんだけどさ」


「あぁ、あれか、あれはだな――」


あの時俺が願ったのはあの白いヤツ。仮称、ホワイトを超えたいと願ったんだ。


そりゃ一時的にはボスを超えたい、あの危機を超えたい、とは思った。でも願ったことは、それと違う。


そう言ったもん全部ひっくるめて、俺たちに無駄に高いところから試練を与えてくるホワイトを超えてやりたいと。


アイツの何だか分からないたくらみをぶっ潰してやりたいと願った。


そして、祈りが足りないというのなら神に祈ろうと思ったんだ。ホワイトが仮に神の末席だったとしても、越えたいと思う相手に祈りたくないって思いも含めて。


日本人なら自然と敬えるであろう八百万の神に祈ったわけだ。


それならアイツへの祈りは800万分の1で済む。それくらいなら八百万の神との間の手数料として払ってやってもいい。


まぁ八百万は沢山のって意味で800万って訳じゃないが、多い分には構わないぜ?


得られた力は絶大だったしな。神を超えたいと願う俺が手にした力は、越える力。そしてその一端として。


神が世界を創造する時に最初に決めた、数と重さと尺度。そのうちの重さに対する権能を得たんだと思っている。


ガバガバでご都合で、多分にバイアスが掛かってることは分かってるが、確かめる術もないしそう思い込むことにした。


時に思い込みってのは、大きな力を発揮するもんなんだぜ?悪いことばかりじゃない。なので今後はこの前提で魔物やボスへの対策を考えてくことになるな。


そして石象を倒した理屈についてだが。


俺に弾かれたパチンコ玉は天井にに当たって多少の加速をしながら石象にぶつかった。その時の衝撃は質量×速度。


速度に関しては落ちていく際の加速はそれほどでもないし初速だってそんなに早くないだろう。時速100km出てないと思う。


ただしその質量は。


小さなパチンコ玉にありったけの俺の力を込めたお陰か、数トン。いやあの衝撃だと10トン超えていたかもしれない。石象を壊せる威力を願った結果が、どの程度の重さだったのかは知る由もないが。


魔力の限界まで質量を増したパチンコ玉は石象を砕いた。俺としては結果さえ出れば満足なのだ。


ただこの力は今後しっかりとした検証が必要だろう。タイミングもそうだし、どこまで重く出来るのか?消費魔力は?


他にも乗算か加算か、元々重い物の方がいいのか関係ないのか。調べたいことが山ほどある。


まずは使うたびにぶっ倒れないようにすることだろうしな。


それは皆も同じだろうけど。ダンジョンの最初のボスを倒したことで変化があったのなら再び検証と戦略の練り直しが必要になる。


それに、目的意識も。


「みんなに聞きたいことがある。俺の意志については今説明した通りだ。目の前の困難を乗り越えることは勿論だが……最終的にはホワイトに好き勝手されてる世界をどうにかしたい。

 ホワイトはダンジョンの奥にいるんだろ?だったらそこまで会いに行ってやる。そしてアイツがぐちゃぐちゃに改変した世界を修正する。元に戻すのか、どう修正するのかはそれまでに考えるが、俺個人の目標は、そこにある。それで、皆の目標は、どうだ?」


「まずは安定して生き延びることができる環境を作りたいと思ってるわ。それが差し当っての目標なんだけど、それって手段だとも思うのよ。

 この世界に順応するなり受け入れるなり。その上でこの世界で安全に暮らしていくことを目標とするのか。この世界を元に戻すなり修正するなり。その上で悪魔討伐を目指していくことを目標とするのか。そういうことでしょ? 私は…………後者を選ぶわ。雅人と同じね」


「私も、それで言ったら遥香さんの言う後者を選びたいです。元の世界は色々と問題もあったと思うんです。世界は平和じゃなく、戦争だって無くならない世界だった。

それでもいきなり皆の同意なんて関係なく世界が激変しちゃうのは違うと思うんです。それは、神様にだって許されないことだと思うんです。

 でも、それでも。まずはこの世界を出来るだけ安全なものにしていく道を選びたいです。難しいことなのかもしれないけど。私たちだけじゃなくて他の人達のことも、考えたいんです」


「僕は保留かな。最上さん達の言うことも分かるけど、この世界を受け入れる道もあるかもしれないって思うから、まだ決められない。僕は自分の意思が弱いから、すぐには決められないんだ。だから、時間を掛けて考える。今は保留を選びたいんだ。

 でも取り敢えずのことは雫さんに賛成。どっちにしたって他の人達と協力していくことは必要でしょ?」


遥香は賛成、雫も大筋は賛成で海斗は保留。別に今すぐ決めるってことでもないし、これから変わることだってあることだし今はそれで全然かまわない。


ただ、自分がどう思ってるか共有したかっただけだしな。というか自分でも突飛なことだと思うから拒絶が怖かったってのが本音だ。俺の仲間たちは、本当にいいやつだと思う。俺は恵まれているとも。


それに海斗。意思が弱いって言ってるが違うぞ。はっきりと保留を選んだじゃないか。流されるやつってのはここで保留は選べない。


ま。わざわざ言う必要はないと思うけどな。海斗ならそのうち自分で気づくだろうし、答えも見つけると信じてるぜ。


ひとまず安心したところで次の問題だな。要するにこの後どう動くか、ってことだが


「みんなの意見も分かって良かった。最終的な目標は別に今すぐ決める必要はないが、自分の想いを共有することはこれからも頼みたいと思う。俺もそうしていくつもりだ。それに、俺も雫や海斗の意見には賛成なんだ。遥香もそうだよな?」


「ええ、まず取り組むべきは今まで避けてた大きな集団との接触よね。私たちのグループでダンジョンもある程度は攻略していけることも分かったわけだし。

 細々と暮らしていく道は見えてきたわけじゃない?なら次は、元々の予定通りに進めるべきだと思うわ。も準備出来たわけだしね」


そう、これから先へ進むには小集団ではリスクも大きくなりすぎる。なにより大きな集団にはそれ特有の問題も出始めているはずだ。


俺たち数人で全部解決できるわけじゃないが、俺たちにはここまで検証してきたデータや新たに得た力にアイテムもある。


次のステージに進むタイミングだろうな。


「やることは多いがこの一週間を乗り越えた俺たちだ、きっとどうにか出来る。これから問題も起きるだろうがきっと越えていける。

 だからこれからの成功を祈るのと、初のダンジョンアタック成功を祝って。たまにはパーっとやろうぜ?」


全員の顔がパッと明るくなる。こんな世界だからな。節約したり喰いたくないもん喰ったりだったわけで。


今くらいいいだろ?楽しみが無ければ人間は生きていけないと思うんだよ。


それに酒飲んでも最悪は雫さんにご活躍頂けるわけで。遥香さんには怒られるだろうけど。それも含めて、楽しくやろうぜ?



これからも困難は多いだろうし今だって楽な訳じゃない。それでも全部乗り越えて行ってやる。最高の仲間たちと一緒に。


それが俺の、なんだ――

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