戦後の世界

第17話 戦後の世界プロローグ~現代の冒険者~


俺は、6階建ての市役所の6階。つまり最上階であるがそこの一室、人生で一度も来ないだろうと思っていた場所、市長室にいる。


ここ一週間、初めて市役所を訪れてから毎日、朝夕の2回ここを訪れている。


それは情報の摺り合わせと、その日の活動内容の相談や、報告のため。


俺たちは言ってみれば、現代版の冒険者ってやつになったんだ。



「おはよう最上君。昨日も助かったよ。もっとも君たちが来てくれてから今日まで、助からなかった日などないがね。それで、今日もどこかのダンジョンを攻略してくれるのかい? いや、休みの日かな。君たちは働きづめじゃないかね?」


「市長こそお休みになった時などないでしょう? 恐らくはあの日からずっと。自分が住んでいる街の市長がこんなに素晴らしい人だと知らなかった過去の自分を、叱りたいくらいにはあなたはいい人だ。それに、我々に休んでいる暇なんてないのは、お互いに重々承知していることじゃないですか」


「それもそうだがね。なんなら市庁舎に泊って行ってくれてもいいんだよ。ウチで出来る範囲でもてなすよ。最も、君らの拠点の方が居心地がいいんだろうけどね」


「休めってのはそう言う意味ですか。ですが拠点を空けたくないのも事実でして。今後も同じスタイルで行きましょう。

 今日はそうですね。沿線の東上を続けます。駅ごとにでしょうからね」


「ああ、休みじゃないなら実は今日はお願いがあってね。追いつかないんだ。探索範囲の広がりに対してこちらの探索が。なので良かったら今日は、探索の手伝いに回ってくれんかね。勿論、無理にとは言わんが」


うん、少し予想してた。あれから俺たちは毎日のようにダンジョンの探索を続けていた。あのダンジョンだけでなく、他のダンジョンも。


そして以前に立てた雫の予想は正しく、ダンジョンは世界を一定のブロックとブロックに分けている要石のような存在で。


町の境ごとに存在しているようだったのだ。そしてその数は案外多い。駅や大きな交差点などにダンジョンは存在している。


もっとも、どのダンジョンも基本は駅ダンジョンと同じように対して広くはないしすぐにボスと戦える。それも石象より弱いボスがほとんど。


というか今まで戦った魔物のなかで石象はダントツで強い存在だった。あの駅はこの街でも大きい駅だったからな。そのせいかもしれない。


そしてダンジョンクリアというかボス撃破後は、さらにボスが弱くなる。初回ボスほど強い仕組みらしい。


そのため、解放したエリアの探索までは役所の人間や警察に任せて、初回のボスを倒して移動範囲を広げることを中心に行っていたわけだが、限界がきたようだ。


そうだな。ここらでもう一度、腰を落ち着けるのも必要かもしれない。


「分かりました。では今日はそちらの方と一緒に周辺の探索にしましょう。それで、具体的には?」


「今日はとあるショッピングモールの探索、と言うか交渉かな。それに同行して貰いたい。ソコソコの集団なのだがあそこは物資が豊富だ。出来れば協力し合いたいのだが彼らは独自路線で、との主張でね。それで交渉役を送りたいんだが、そうすると今度は道中が不安になる」


うーんどうかな。そこの治安はどうせあれだろ?悪いんだろ。まさかまだ覚悟は必要ないと思うが、少し心配だな。確認しておくか


「要するにそのショッピングモールまでの護衛を行うイメージでいいですか? 俺たちは別に交渉のプロって訳じゃないですしね。こんな世界でも権威はまだ人々の意識に残ってますから。交渉はその警察の交渉役もお任せで良いんですよね」


「交渉は基本的にはこちらで行いますよ。そのために警察のなかでも比較的ベテランの、交渉ごとの専門も同行してくれるということでね。大人数で行くと向こうに悪い印象を持たれかねない。そうすると道中が不安。そこであなた方です、そこは、プロでしょう?」


「まだこの世界に魔物のプロはいないでしょ。ただ現時点ではかなり詳しい方だとは自負しています。だからこそ、ここに来てる」


そこまで話せば十分だろう。俺たちはあくまで対魔物要員ってことで動く。それ以上はまだ、時期尚早だ。俺はまだしも、アイツラらはまだ若すぎる。


「話はまとまったかしら。それじゃ、今日は護衛任務なのね。ますます冒険者っぽくなってきたわよね。転職の希望はなかったのだけれど」


「そう言うな遥香。俺たちが安心して次のステージに行くためにも今は色々と経験した方がいいってのもある。他者との連携も、貴重な機会じゃないか?」


市長室を後にして目的地へ向かう道中で改めて今日の依頼を確認し合う俺たちだが、転職希望なんて多分誰も出してないからな。


地球人全員がホワイトに強制退職させれらたようなもんだ。それでも給料もないのに公僕を貫くこの市役所の人達には頭が下がるぜ。


普段から市長がしっかりしていたのか、それとも意志の力か。市長が何らかの力を持っていることは魔力量的なものからも遥香が予測している。


聞けばある時期から避難民の統制が格段に良くなったようだ。人を統治するような力なんだろう。政治家はそう言うの発現しやすいのかもな。


東京とかはどうなんだろうな。国会議員なんかはそれぞれの選挙区にいることもあるんだろうが国会開催中だったはずだ。戦争の絡みもあって議員以外も重要人物は東京に集中していたはずだ。


ここみたいに一人二人が統治能力を発揮できる場所ならいいがそんな奴ばっかだと却ってまとまらねぇだろ。


いずれ行く場所だ。不安になるが、今は考えても仕方がない。取り敢えずは今日の同行メンバーとの顔合わせだな。



「今日はよろしく頼む。私は今回の探索隊の隊長を務める真田という。あなたたちのことは噂で聞いてるが頼りにしてるぞ。隊員は俺含めて3人だが、向こうでの交渉役は探索には不慣れなんだ。足を引っ張ったらすまんと、先に謝っておく」


「お気遣いなく。こちらも自分たち以外の連携は不慣れですので。道中は私たちも探索済みですが先導しても?」


「寧ろよろしく頼む。あなた方の情報をもとに少しずつ探索範囲を広げているとはいえ、そこは頼らせて欲しい」


物腰の柔らかい中年の男である真田と軽く情報交換をして現地へ向かう準備を始める。俺たちのことも多少は知っている様子だ。


上層部と言うか、仕事を続けている側。市役所職員や警察、消防、それと病院関係者は避難民とは少し違う生活を送っている。


まず現在の役所及びその付近の公園等を利用した避難所にいる人間の総数は3000人ほど。そのうちの9割は一般避難民だ。


この人たちは基本、配給を受けながらごく簡単な作業を行っている。その辺の掃除とかその程度だが。


そして残りの一割は仕事を持つ人達。前述の警察と消防は周辺探索を中心に、病院関係者は避難所内の医療その他を受け持っている。


悲しいかな高齢社会の日本だ。それに避難をする者は高齢者も多かった。なので病院関係者はその人数の少なさも相まって忙しそうだ。


高度な医療が必要な人たちはすでにいない。病院のインフラが失われた瞬間の現場の悲痛な状況は、あまり考えたくないな。


あとは避難所生活におけるストレス対策なんかも病院関係者が担っている。この状況が続けば彼らの精神の方が心配になって来る。


そして職員たちも。彼らの雑事は多いし、何よりごみ処理が大変だ。特に汚物。しかしこれは俺たちの来訪とともに改善の方向に向かっている。


ダンジョンという非常に高性能な廃棄所が紹介されたおかげだな。あそこは一定期間でそこにあるものを吸収する。


石やパチンコ玉、他にも色々とサイズや重量などを変えて実験したが、全て一定期間できれいさっぱり吸収されていたんだ。


生きている人間が同じ場所に留まった場合のことは試していない。試せる訳もない。野営とかはできないと思った方がいいだろうな。


そんな感じである程度の規律を保ってこの役所の避難所は動いている。その中で俺たちが外部委託的な感じで活動している。


最前線の探索及びダンジョン攻略だな。実際は俺たち自身も分からないことだらけだ。情報収集しながらそれを提供してるって感じなんだが。


気軽に動けない避難所の仕事持ちたちにとっては非常にありがたい存在となっていた。それとダンジョンのアイテムも。


石象が落としたランプはホワイトが仄めかしていたコップ以上の性能を持つ、云わば魔法的な井戸だった。


一日あたり1タン、つまりデカい樽と同じだけの水を生み出す。毎日千リットルだ。3000人を賄うには一つでは無理だが、大きな助けにはなる。


それにダンジョンのボスは場所によって違うが数時間に一回復活する。これはコップやその他諸々を落とした。コップは一回限りだが1000リットルの水を産む。


ホワイトの言っていた樽が、デカい方の基準で助かったぜ。樽って言っても色々あるからな。


そんなわけで主に水を求めてダンジョンのボスを倒す日々。食料として魔物肉を提供するために魔物を狩る日々。後は今日みたいに避難所の依頼を聞いたり。


まさに現代の冒険者だろ?そのうち避難所民からの陳情を取りまとめて、何らかの報酬と引き換えに余裕のある避難民に斡旋する部署も作っていく方針らしい。


コッチは現代版の冒険者ギルドだな。ただ食料なり水の優先配給が報酬になるうちはいいが、経済が回らなければ大した規模にはならないだろう。


その辺は俺たちだけじゃどうにもならないところでもあるし、今は色んな街が俺たちみたいに少しずつ復興の道を辿ってくれていることを祈るしかない。


「見えてきたわ。でも気を付けて。若干だけど、黄色が混じってる。どうする?  同行者にこの情報、伝えるたほうがいいかしら?」


護衛任務は半分成功、つまり目的地までは何の問題もなく着いたわけだが。そこで遥香が不穏な情報を伝えてくる。


俺たちが魔物を倒す力を持っていることは彼らも知っている。恐らくは彼らも意志の力を持っているのだろう。選抜メンバーだし。


しかし、俺たちが彼らの力の詳細を知らないように、彼らも俺たちの力の詳細は知らない。


黄色ったって分からないのは勿論だが、敵意を持つ人間がいることは伝えた方がいいのだろうか。


悩みつつ遥香の視界を海斗に共有して貰うと、俺にもショッピングモール内の様子が視えてくる。


あー、アレは伝えるまでもないわ。だって一部の人間たちの姿、まるで世紀末なんだもんな。


肩を落としつつこれから訪れるであろう厄介ごとに思いを馳せて、いやいやながらその足を進めるのだった――

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