第14話 超える意志

仮称、石象。コイツは今までの魔物とはわけが違う。明らかに俺たちの知っている生物の範囲を超えている。


フォルムこそ象そのものではあるが、全身が石で出来ているような、石像でもある。巨大の石の塊が動く姿に現実感は―ない。


「遥香と雫は階段上部へ、戻れるかの確認も頼む!その後はスリング投擲を試してくれっ。海斗はアレの準備を」


「もう試したわっ!さっきと同じで向こうが視えないわ、戻れない!何とかするには……倒せって、ことでしょっ!?」


「スリング行きますっ!」


雫の投じた石の塊が石象に当たるがカンッと高い音がして弾かれる。傷は……付いてないか、堅い!


「僕も行くよ!」


海斗が投げたのは鉄の塊。車の部品などを解体して手のひらサイズになったゴツゴツの鉄塊だが。これも弾かれるか……多少は傷が付いたようだがダメージになっているのかは分からん。


石象はゆっくりとこちらに近づいて来る。速度は速くないのか?


駆け出している感じはない。それが出来ないのか、していないのかの判断は早計だ。それに、階段を上ってこれるかも、不明。


留まるか、向かっていくか――少なくとも全員で留まる方が危険か。


「遥香と雫は階段上で待機。3階くらいの高さだが今なら最悪飛び降りることも出来るだろう?石象が昇ってくるまでは待機していてくれ。適宜スリングも頼む。ダメージは無くても気は逸らせるかもしれん。俺と海斗は地上で分散しよう。石は確か割れやすいはずだ。傷や亀裂が視えなくても攻撃を続ければ活路が見えるかもしれない。頼む」


意志の力の発現により大きく筋力を増した海斗が投じた鉄塊は、多少とは言え傷をつけている。出来れば同じ箇所に攻撃を続ければ、或いは。


俺と海斗は散開してまだ十分に開いている石象との距離を活かして投擲を続けるしかないか。と、ぞの時!


石象はやはり石で出来ている無駄にデカい鼻を頭上に掲げて地に打ち付ける!衝撃――地面が揺れているっ!?


小規模ながら地震のような揺れに体勢を崩され……石象め走りやがった。


石象は俺に向かって駆け出してくるが、その速度は黒狼より遅い。迫力はサイズもあって比べ物にならないが、これならっ!


俺は円を書くように斜めに走り出し石象が向かってくるコースから外れる。が、後ろを取るまでは無理か。


石象は速度を落としゆっくりとこちらに向きなおしている。


改めて見ればとにかくデカい。とんでもない質量のようだが実際の重さはそこまでではないのか?地面は凹んでいないしな。


さっきの鼻の打ち付けによる地震攻撃も地面は無傷。くそ、ダンジョンの床や壁の強度を試してなかった。失敗だ。


物語のダンジョンの壁は壊せないのが普通、と先入観を持ってしまっていた。この世界がそうである保証なんてないのに。


だが後悔しても遅い。それに石をぶつけても無傷。鉄の塊を高速でぶつけて多少傷が付く程度。そんな石象の攻撃を受け止める以上、床も堅いと仮定するしかない。


「ダメだ最上さん!コイツ、重い」


海斗ッ??


石象の攻撃が俺に向いていたことを利用して背後に近寄っていた海斗が後ろ足を持つがびくともしない様子だ。


危ないぞ!?すぐに離れてくれっ!


いまや400ccのバイクすら軽々と持ち上げる海斗だが野生動物の背後なんて危険しかないだろっ!


「この足なら後ろへの蹴りは無理だと思うけど。って、うわっ!」


組み付いていた足は後方に振られ、海斗は放り出される。蹴りの衝撃は――なかった、か?それにしても石象は生物とは思えない動きだ。投げ出された海斗は―


……着地決めてるな。ダメージは無いと意思を伝えてくる。大丈夫だったか。


俺も女性陣も普通の人間がアスリート並みになったわけだが。海斗は元がアスリート級だ、人間の枠を超えた?


「二人とも近づかないでね?特殊弾、試すわ」


遥香の宣言で放たれたその投擲は、石象のかなり手前で弾け弾幕となって石象を襲う。パチンコ玉を詰めてショットガンみたいに使えるかと思ったが上手くまとまらなかったな。破裂するタイミングの調整は難儀しそうだ。要改善だな。


それでもパチンコ玉なら金属、石よりはダメージ入ったか?と期待するが効いて無さそうだ。攻撃手段が……ない。


少なくとも遠距離は厳しそうか。反対に石象の攻撃は今のところ脅威ではない。いや威力は凄そうだけど。


それでも緩慢な動きである。そうそう当たらないだろう。ただこっちもいくら体力が向上しているとは言えずっとは戦えない。疲れればミスも増える。


そしてあのデカさと質量。ミスった時は、致命的になる。キッツいな。だが、退路がない。今は決死の覚悟もいるか。


俺はポケットから宝箱があった時用のそれを取り出し石象の動きを注視する。迫って来る石象を引き付けて、躱す!


躱されて方向を変えようとする石象に近づき取り出した道具をその足に当てて……金槌で叩く!


ノミと金槌。宝箱がもし見つかって、こじ開けるタイプだった時に使えるかな?と思って持ってきたが、これなら!


石工の時間だ。


少しは削れたみたいだし、繰り返せば割れるかもしれない。微かな可能性だが今はこれに賭けるしかない。


そう思い、繰り返す。当たればそれで終わりかねない鼻のぶん回しや、緩慢ながら、当たればただでは済まないだろう突進を掻い潜り。


やがて生まれた亀裂は大きくなり、足を覆う石が大きな音を立てて崩れる!!


やった!効いた!!これならば――って、マ・ジ・か……


無機質な石が崩れた中に見えたのは光沢を放つ無機質な足。金属?鉄、鋼?分からんが石よりヤバそうなのは、分かる。


それに絶望を感じる暇もなく危機は連続する。砕けた自らの足だった石クズを、その長い鼻でゴルフのスイングのように弾いただと!?


まずい!!その方向は!!!


石が打ちだされたその先には、うずくまる海斗の姿が見える。海斗っ!!


駆け寄る雫。待て、まて、マテ!なんだ、この状況は!?


手に持っていた金槌をやけに重く感じる。力が抜けちまってるのか?このまま、コイツに殺されるという恐怖?


「ボケっとしない!少しでもソイツの気を逸らしてっ!ダメージはあるけど、海斗はまだ大丈夫!」


遥香の声が聞こえる。そうだ!出来ることを、出来る……ことを。何が、出来る?


兎に角、今は治療の時間を稼ぐ、か。そうだ。こんなところで。


取り敢えずその鼻っ面を一回ぶったたく。厄介な鼻だ、怨嗟を込めて叩く。そして石象の注意を引き付けるが……


どうする?凌ぐことは、まだ可能だろう。


さっきの攻撃には驚いたがコイツの近接攻撃なら、避け続けられる。だがその先が、浮かばない。攻撃を通さなければ、状況は悪化していくだけだ。どうすれば、この状況を超えられる?


考えろっ。考えろっ!必ず、越えられるはずだ!それが、俺の。意思のはずだ!!


異変の後に、何を強く願った?


雫は、きっと瀕死になった俺を治したいと想った。そして、治癒の意思を得た。


海斗は、俺たちに置いていかれないようにと、繋がっていたいと想った。そして繋がる意志を得た。


遥香が何を見たかったのかは分からないが、俺は。あの時。困難を超えたいと想ったじゃないか!


そして、越えて来た。ここまでは。ぶっ壊れた世界のなかで、限られた物資で、状況を超える手段を考えてこれただろ!今回も、考えろっ!!


なにも浮かばない自身のアタマに苛立ちと焦り―違うっ、焦るな。


ここで終わりじゃねぇだろ?こんなところで!

なにが、何が足りない?明らかに発揮してきたはずの俺の力は、曖昧過ぎる。

ナニカが足りない気がしている。直感がそう言っているが、明確な意志か?


ココを!超えさせてくれっ!!「祈って!」


遥香?


「雫が初めてあなたを治療した時と同じように。私が、異変を感じたあの時と同じように。強く祈って!」


祈る?なにに?白いのに?神に?あれは――神じゃない。


でも、神になら、祈ってもいい。そうだ、俺が祈るのは――


「八百万の神よ!我に困難を超える力を与えたまえっ!そして願わくば―」


日本人が祈るのはコッチだろ。そして、直感した――――


そうか、越えるってのは。ソレを超えたかったのか、俺は。そしてこの状況を、超えるには!!


俺は先ほど遥香が投じ床に転がっていたパチンコ玉を天井へ向けて弾く。


「八百万の神よ」再び神々に祈る。


天井に当たり跳ね返ったパチンコ玉は物理法則に従い落下を始めている。そしてそれは石象の頭部に落ち―



ガシャーーーン!!!!!と。パチンコ玉の衝突とは思えない音を立てて。


頭部が粉々に砕かれた石象の胴体だけが、ゆっくりと倒れていく。



ヤバい!頭部が無くなったとは言えあの図体が倒れたら結構な衝撃じゃ……?


しかし残された胴体は地に倒れる前に不思議とその存在感を失うように透明になっていき、目の前から掻き消える。


カラーンという音が響く。それはまるでランプのような物体が落ちた音だったが、今はそれよりも―


振り返ると海斗の元で治療の力を使ったのだろう雫と目が合い、大丈夫のサイン。良かった!海斗は無事だったか。


かつてない強敵とダンジョンの罠。命の危機。仲間の危機。


実際には30分にも満たないその時間は、かつてない緊張からか永遠とも思えて。


その永遠から解放された俺は初めて黒狼と戦った時と同じように、その場にへたり込む。それは他の仲間たちも同じで。


暫く全員その場を動けなかったが、気持ちも一緒だった。



勝った―――――

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