第11話 ダンジョン

駅、だったところとでも言おうか。すでに電車は走っていないわけだし、機能は失っているわけで。ホームはそのままの姿で残っているし入り口も、記憶にある通りではあるのだが。上り階段も以前のままだ。だた―


「なあ、この駅に地下ってあったっけか?なかったよな?それとも最近出来たのか駅地下?おじさんそういうの疎くてさ」


「現実逃避はやめなさい雅人。仮に駅地下があったとしたら、こんなにもセンスのない下り階段を作った業者は訴えられるわ」


「裁判所は機能してるのかね?今日はここで帰りたくなるな。明らかに不穏じゃん?」


見慣れた駅の入り口にはぽっかりと大穴が空いていた。そして石造りというか石そのものの階段が見える。


光量が足りないのかその下まではよく見えないが、明確にここから先がダンジョンですよと主張しているかのような存在感だ。


「幸いというかなんというか駅の極周辺には人影がないんですね。最初に電気が使えなくなったのは21時くらいでしたっけ?そこまで大きな駅じゃないからその時間だとそこまで人はいなかったのかもしれませんね」


「俺と遥香はあそこの踏切の前で異変を迎えたんだ。それでちょうどその踏切のところで電車が動かなくなってな。乗車してた客はそこそこいただろう。そして窓を開けて脱出しようとしている人たちがいたことまでは知ってる。その後どうなったかは、さっき遠目に見えたアレが答えなんだろうな」


雫の言う通り駅そのもの、そしてその周辺にはそこまで人影……動く動かないは別にしてだが。人の気配はなかった。


そうなれば次からはルート次第で精神的なダメージを抑えて自宅からダンジョンまで通うことは出来る。出来るが……


「少しでも中を見ておいた方がいいと僕は思うな。こんな世界じゃなきゃ誰かに任せて配信してもらうのを待ったり、Wikiの充実を待ったりするけどさ。今はネットなんてないし、次来るときに今以上に消耗してない保証もないと思うんだ」


そう、海斗の言う通りでもある。今日が順調だっただけで次回はたどり着くのにもっと消耗するかもしれない。


魔物の動向は当たるも八卦だが、人の動向は当たる公算が高い。善人ならいいが悪人に遭遇することだって考えられるしな。


それに、そこらの悪人相手に負けるとは思わないが人と争うのはメンタルにくる。


善人だったら?申し訳ないが足手纏いになる可能性の方が高そうだ。協力し合って楽になるのかもしれないが、期待は出来ない。


それならば、少しくらい中を覗いておく方が良い気もする。


「考えても答えは出ないでしょ?ダンジョンのことなんて未知の世界なんだから。だったら、行く。基本方針は、そのはずよ」


そうだった。俺たちの共通の指針は、進むか保留か迷ったら進む。だったな。引くとなれば引く優先だが。


今は行くか引くかじゃなくて行くか後で来るか。つまり保留との選択を悩んでいるわけだもんな。海斗も賛成寄りだし。


「私も、行くべきと思います。自分で言うのもなんですが、私の疲労が少ない時が現状のベストコンデションだと思うんです。今日はほとんど治癒能力使ってませんし」


決まりだな。ゴー!だ。いざとなって俺が一番慎重派だったとはな。歳のせいとは思いたくないところだ。


俺が先頭で遥香が二番手。雫が続いてしんがりが海斗。事前に決めておいたダンジョン用の隊列をとって階段を下っていくことにしたのだった。


――――――――◇◇―――――――――――――――――


「遥香、どうだ?ダンジョン内の様子は?何か、視えるか?」


「ダメね。予想はしてたけど、ダンジョンに入ってからは全部赤、としか見えない。見るだけ無駄ね。皆の魔力は見えるけど。雫の魔力が減ったら退却かしらね」


「暗いのは致命的だよね。明かりはあるけど頼りないしね。投石がめちゃくちゃ難しくなるのが痛いよね」


索敵が封じられるのも痛いんだよな。これは思った以上にダンジョンはキツイか?今のところ分かれ道がないのが救いだが。


一応遥香がマッピングしてくれているがコレに関しては全員素人だったしな。遥香の力が使えないのは予想してたが痛い。


街の様子がある程度分かってもダンジョンに関してはココにダンジョンがあります。しか分からなかったわけだから。


敵には遭遇していない。これで四六時中的が襲ってくるようなところだったら一から戦略を練らないといけなかったが。


広さはそうだな、大きなショッピングモールを歩いているような感じか。左右の壁の間には数十人は並べそうな一本道だ。


アイツは「深い」ところで待っていると言っていた。そのまんま受け取るなら地下に降りていくことも考えていたが……


「私は、暗視的な感じっていったらいいのかしら?そのお手製カンテラの光量では見えないような先まで見えてるけど。皆も視力が上がってる感じはあったじゃない?私はその影響と思ってたけど、さっきの海斗の発言から考えたら私だけが異常に見えているのかも。先頭、変わりましょうか?」


「いや、訓練でも流石に近接の動きは俺の方が良かっただろ?たいした訓練じゃなかったにしてもだ。俺のすぐ後ろで指示だししてくれた方がいいと思う。少なくとも今日はこのままでいこう。帰ったらゆっくり考えよう」


街での探索とダンジョンは訳が違うな。なにせ街の様子は、基本今までと同じ風景に電気が使えなくなり、魔物が少し現れるくらい。


ダンジョンは今までなんてないわけだ。と、そこで気配?いや物音が聞こえる。暗さもあってか距離感が掴めないが、いったん止まれ、だな。


俺は止まれのサインを出して周囲を伺う。全員、集中していつでも動けるようにしている。声は出さない。危険しかないからな。


遥香が俺の背中をトントンと数回、タイミングをずらしながら叩く。モールス信号的なサインだ。遥香には見えたようだ。恐らくだが前方にいるのは黒狼。2体か。


少なくともサイズ感はそれくらいの敵と思われる存在が2体。距離は?遥香の目視で200mか。こっちは明かりを持ってる。向こうからは見えてるだろう。


明かりが近づいてきた、程度の認識だろう。認識するだけの知能があればだが。


黒狼から知性を感じたことがないんだよな。ただ突っ込んでくるだけ。初回の遭遇時も近くに数体いたはずなんだが連携もしてこなかったし。


ダンジョン内で動きは、変わるのか?


「みんな、僕が何とか出来るかも、しれない。コレって直感が大事。なんだよね?」


かすかに聞き取れる声量で海斗が話した内容は、驚くべき内容ではあったが、今更それに驚くのもアレか。


「海斗、任せる。その後は流れになるが、想定のうちにあったからな。確かに一回はこの状況で戦闘しとくのもアリだろ」


「合図は僕が。出来れば一発で決めたいけどね。ここまでに敵と遭遇しなかったことが逆に悪かったのかな?」


軽くおどける海斗だが、いいも悪いもないんだろうと思うよ。あるがままを受け入れていくしかないんだからな。


それになりより、この場面で目覚めてくれたのは僥倖だぜ。それとも、これも何かの力、なのか。


上手くいけばこの状況を一発で越えられるかもしれん。試してみようぜ?


そして暫く息を整え、数あるポケットから比較的大きめの石を選択した海斗が振りかぶり……投石!


「ギャッ!」「ウォオオン!」


海斗の投じた石は恐らくど真ん中ストライクだったんだろう。そしてもう一匹がこちらに向かって突進してくる!


だがそれはもう怖くないぜ?俺は腰を落とし盾を構える。元は車のドアなんだが。改造して準備しておいたからな。鉄板+タイヤのゴムは早々破れまい。


黒狼の突進は比較的厚いと思われる病院の自動ドアをぶち抜くほどの勢いがある。


それでも、今の俺なら十分に受け止められる……はずだ!


「クッ!!、だが、止めたぞ!?」


多少、後退はしてしまったものの衝撃のみで盾も持ってくれた!あとは海斗、頼むぜ!?


「ふんっ!!」


俺のすぐ隣で特製くぎ……もうこん棒でいいよな。こん棒を振り下ろす海斗。


先ほどの戦闘で黒狼を吹き飛ばした一振りを、まともに上から下への振り下ろしで喰らわした形になった!


耐えられるはずもなく一撃で頭を砕かれた黒狼をその場に放置し駆け出す海斗!投石のダメージから復帰していない黒狼へと止めを刺したのはあっというまだった。


「多分、意志の力ってやつなんだと思う。検証もしたいかな。この後は、どうしよっか?出来れば帰りたいかも。思ったより、疲れるねコレ」


戻ってきた海斗の表情は晴れやかで――


気にしていないとしつつもどこかで気にしてたんだろう、意志の力がないことを。でもこれで皆目覚めたわけだ。やったな、海斗。


それなら戦略も練り直した方がいいかもしれないな。ダンジョン内での戦闘も可能だったという収穫もあったし。


遥香と雫も同意のようだな。


俺たちは新たな力に目覚めた海斗の説明を聞きながら一度拠点である俺の自宅へ戻るのだった――


――――――――◇◇―――――――――――――――――


「おいっ!もういい加減に食料が底を尽きるぞっ!?どうする?次は誰が調達に行く?そうだな、お前だ。お前が行ってこい。なに?嫌だ?文句言うなよ、いいから行けっ!運が良きゃ帰ってこれるさ。無傷でな。それともここで、確実な痛みを味わう方がいいか?」


「ひ、ひぃっ!や、やめて!わ、分かりました。行きます!行きますからっ」


気の弱そうな男が、強面の男に言われてしぶしぶと外へ向かって歩き出していく。周囲を警戒しながら、びくびくと。


「帰ってきますかね?あいつ」


「知らねぇよ。ダメなら次は……あいつだな」


強面の視線にさっと目を逸らす男の表情は、悲壮感に溢れている。

小型スーパーの商品棚はまばらだったり、この非常時に意味をなさない商品でいっぱいだったり。そして10人程度のグループでは、強面の男、取り巻きの男女、遠巻きに怯えている男女と小規模ながらカーストが出来ている。


(ここもそろそろ限界か。どこかもう少し食料が残っていて、使えそうなやつがいて、強そうなやつのいないところを探さねぇと。どこか、どっかねぇかな?)


小集団では、異変に気付いているものもいる。しかし、具体的な行動にはまだ移せていない。彼らは、いよいよ物資が空になるまで、行動することはなさそうだ。


どちらにしても、向かう先は、破滅であるとしか思えないのであるが。



少数でいることを選択したものたちもまだ、動かない――

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