第12話 弱点は、いずれ個性になる

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(僕は、自分のことを主体性がない人間だと思ってた。小さなころから、自分で決めるってことが少なかった。どこかに遊びに行くのも、学校で何かを決める時も、友達の意見から選ぶのがせいぜいだった。


 両親には恵まれてたと思う。こんな僕だったけど、ちゃんとした社会人になれたのは、その導きが正しかったからだと思う。もう少し長生きしてくれれば、もっといい両親だったんだけど。二人は僕が社会人になって2年目に、交通事故で亡くなってしまったんだ。


 それからの僕は会社では指示待ち人間だったけど、指示に従うことは苦痛じゃなかったから、それなりにやれてたし。


 会社での付き合いに加えて草野球もやってたりと、人付き合い自体は出来てたし。自分の意見が無くても、なんなら無い方が楽に生きていける社会。


 日本という社会は、僕に向いていたんだと思う。でも、世界が変わった。あの神のような存在のことも、悪戯とか言ってたけど。


 実は直感では本当なんだろうな、と感じてた。でも、そんな世界でどうしたらいいか、僕は決められなかった。避難するということすら、決められなった。


 どうしようかずっと悩んでいた時に、最上さんが帰ってくるのが見えた。こんな状況でわざわざ自宅に帰って来るのは、自宅をどこより安全に備えてた最上さんならではだよね。


 それで思ったんだ。全ベットしようって。なにかと僕を弟のようにかわいがってくれていた近所の兄さん。それが最上さんの印象だった。


でも、頼りがいがあって、あの時、声を掛けた時の最上さんは、今まで以上に、頼れそうな気がして。その直感にベットすることにしたんだ。


この人に付いていこうって。それで遥香さんと雫さんとも出会って。4人で何とかしていこうと思って。仕事柄色々出来たし、人よりも力はあったし。役に立てるだろうと思ってたら、僕だけ力が無くて。そりゃそうだと思った。悔しくもなかった。


だって意志の力でしょ?自分の意思っていうのが弱い僕だもん、そりゃー、ないよね。でもちょっとだけ悲しかったのは。皆の役にたてないかもしれないってこと。

だから、今日は、今まで生きてきて、一番うれしい日、なのかもしれない)

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家に帰って来るなり海斗は「眠い」と言って仮眠を取っている。眠いと言った海斗に遥香がすぐ寝るように言ったので、海斗は素直に横になった。そしてすぐに意識を手放した。


コレは推測だが、恐らく初めて意志の力を使った時は疲れやすいっていうか魔力の消費が激しいんだろう。俺も雫も仮眠したしな。


そうなると、遥香は……初日にあっという間に寝入ったな。


白いのが意志の力について喋ったのが二日目だったから勘違いしていたが。もしかすると電気が使えなくなったあの瞬間から、意志の力ってのは使えたのかもしれない。


駅の異変にいち早く気付き、暗闇のなか俺の手を引いてくれたあの時すでに……


ま、この辺は本人もよく分かってないかもしれないし、考えても無駄なことだな。問題もないし。


あとはまぁ、海斗が起きたら能力の検証と戦略の見直しだ。期待してるぜ?海斗。


「ねぇ雅人?考え込むふりして逃げようと思っていないかしら?今日のMVPは海斗だと思うのよ。可哀そうに疲れて寝てるわ。起きて来た海斗に、美味しいものを食べさせてあげられるかもしれないのよ?早くなさい」


「準備出来てますよ―雅人さん。私の魔力も十分に残ってますし、今のうちに試した方がいいですよ。いつかやらなきゃなんですし」


「そうよ、それにコレが上手くいったら、最悪ダンジョンは後回しにも出来るかもしれないのよ?十分な成果になるわ」


「……分かった。そうだよな。そうなんだよなぁ……」


「腹を括りなさい雅人。リーダーでしょ?」


リーダー、うん。リーダーなんだよね俺。実際に指示も一番出してるし。装備のこととかでも思ってたことが実行出来てるのはありがたい。


それに意思統一も図りやすいしな。ただ、こんな時にしかリーダーって呼ばないのはどうかと思うぜ?


「はい、雅人さん。一応、よく噛んで食べて下さいね?」


実に美味そうな、良く焼けた肉が香ばしい匂いとともに運ばれてくる。炭もまだまだあるしアウトドアグッズは充実してるのだよ我が家は。


別にBBQをやろうってんじゃない。だが、肉である。いくら雪が降ってもおかしくないと思えるほどの冷え込みであっても。異変から、すなわち電気が使えなくなってから一週間が経過している。異変前の精肉は流石に喰えないだろう。


なんか熟成?とかしてるといけるんだっけ?よく分からん。よく分からんが、もう現実逃避はやめよう。目の前の肉を、食べる、か。


赤猪肉である。


遥香さんの目で危険ではないと判断され、最悪食中毒でも雫さんの治癒の力がある。安全であろう肉である。


だが仮に!仮にだ!安全性が保障されていたとして、喰いたいと思うか?魔物の肉だぞ?まぁ魔物って言っても見た目普通に動物だけど。


ちょっと目が赤かったりするだけで自然界にもそういうのいるもんね。アルビノだっけ?それでも、勇気がいるよなぁ。俺は食わず嫌いとかないし、なんならゲテモノは普通にイケる方だ。嫌いな人もいるだろうから具体的な戦績は控えるが、大体のもんは食える。


そんな俺が躊躇してるんだ。こいつらにやらせるわけにもいかんよな、この実験は。一応リーダーだし。


ああもういい加減、余計なこと考えるだけ時間の無駄だ。喰うぞ!


俺は異を決してその肉を口に運び、数度咀嚼を、って普通に美味いな。柔らかいし。イノシシ肉はもっと癖あったぞ?赤くないイノシシな。


「あ、普通に美味い。いやマジで。なかなか食えないと思ってた肉だったからか?いや、元の世界でもコレ普通に美味い方だな、うん、イケる」


半信半疑で眺めてくる遥香と雫だが、その後普通に皿の上の肉を平らげる俺を見て味については理解した様子だ。


あとは暫く体に異常が出なければ、完全に問題ないと判断されるだろう。最も、遥香の目は腐敗等も見抜いていたわけだけど。


事前に、冷蔵庫内の食品で試していたからな。寝込みはしないが腹を下すレベルなら黄色(赤は流石に試してない)判定らしい。


そして腹の具合が悪くなっても雫が治療できるということも試してある。俺たち大人だからね。最低限のことは試してから実験するのよ。


黒狼も別に毒は無いと思われるんだが、そもそも狼肉ってまずいっていうしな。で、猪ならと今回試したわけだ。


それにこれは何も俺たちが肉を喰いたいからというだけでもない。正直、なんなら野菜の方が今後しばらくは貴重かもしれないくらいだし。


食料のことは当然に先のことも考えていたんだ。それで野菜類は家庭菜園的なこともやってたとはいえ4人分なんてとても賄えない。


悪いと思いつつ周辺の庭も利用させてもらっているが肥料の確保も難しい中で今後の課題の一つである。


で、肉の方は自然が増えれば増えるほど狩猟が現実味を帯びる。身体能力も上がってるしな。穀物は……野菜と一緒に、生き残った農家さんに期待だ。


ただ、穀物は相当に持つからな。生米の略奪なんかはしばらく先だろうし年単位での余裕があるだろう。


そして今回の実験の持つ最大の意味は。避難所等にいる人への食肉提供の可能性という面が強い。まず、魔物の肉が食用になるという情報そのものが価値を持つだろうし。今後は大所帯と交渉する機会もあるだろう。手札は多いに越したことは無い。


ダンジョン攻略も一部その目的もある。最大の目的は水だがな。雨水なんかも貯めてるし雫の力もあるから割となんとかなるんだが。


それは俺たちという4人のグループに限った話だ。


今後、ハーバー・ボッシュ以前の農業に戻る場合、狩猟手段は多い方がいい。水は言わずもがな。


それに世界人口10億まで減少したというが。そもそも科学の無い世界で80億の人口を喰わせるだけの食料の生産は元々不可能だっただろう。


世界人口しか分からん現状、日本の人口が何人なのかは分からんが。それでも同胞を救う方法はある程度持ってたいと思うのも人情だろ?


こうして自由に行動できる方が、将来的に多くの人の利益にもなるって側面もあるんだぜ?今の4人での行動には。


まぁ本音を言えばこっちの方が俺たち自身が安全なんじゃないか?っていう理由が一番なんだが。後は直感。直感が今はこのスタイルの方が良いと告げているんだ。


理性でもだが。突然出現した少数の超能力者と大勢の一般人。軋轢が生じる恐れは大だし、その軋轢が何を産むか、俺は現状リスクの方がデカいと思うね。


そうこう考えているうちに海斗が起きて来た。


そして女性陣に勧められ、意志の力を行使したことによる空腹感もあり、海斗も赤猪肉を堪能した。


「海斗は今日のMVPだったからね。私たちのことは気にせずにたんとお食べなさい。安全性は雅人が確認してくれているわ」


そして俺と海斗の反応を十分に観察してから、遥香と雫も赤猪肉を食べるのだった。いつの時代も女は強し。神話の時代でも、らしいな。


そんなやり取りの後で海斗から能力のことを聞いて、そして検証をして、戦略を練り直し。


食卓が少し豊かになってから二日後に、俺たちは二度目のダンジョンアタックを決行することにした。


青の集団はまだ動かない。タイムアップがいつか、少々の焦りととともに――



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「どうしよう。もうそろそろ限界だ。嫌だけど。嫌だけど避難所に行かないと、いけないのかな……」


比較的物資をため込んでいて。それでいて集団を嫌うタイプの自宅に籠った青年は。流石に限界を迎えて避難を考え始める。

逼迫した避難所に、後から入って来る邪魔者の運命など考えたくはないが――


「魔物ってなんとかなるもんだね。暫くはどうにかなるかもなー。一カ月?いや半年くらい持つかも?お酒に酔わないってのは水の心配が少ないからなー。どうせ死ぬなら死ぬほど飲みたいって願ったのがこうなるとはね」


力に気付いているものもいる。こっちは市役所とは逆に、一人であるが故のバイアスが掛かっているのだが。崩壊した世界。今までなかった力に目覚めたらしい自分。もしかして自分は主人公なのでは?と。ある意味で市役所よりは真実に近づいてはいるのだが。一人でいるリスクには考えが及ばない。だって自分はきっと主人公だから。

彼が生き残るかどうかは、運次第。それこそ神のみぞ知るばかりなのだ。


一人を選択したものもまた、動かない――

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