第42話『中国の歴史』陳舜臣

「日出る処の天子、日没する処の天子に書を致す、恙きや」


 推古天皇の摂政だった聖徳太子が中国に宛ててしたためた国書は、時の皇帝を激怒させた。日本から見て西に位置する中国を「日没処」と表現したことが無礼だと腹を立てたのです。


 国書はいわゆる遣隋使が、隋の皇帝・煬帝に届けたものですが、朝貢――周辺の小国が大国に貢物を送ること――の使者であるはずの遣隋使から、このような国書を受け取った煬帝はおどろき、腹を立てたことと思います。


 外交センスがないのではなく、聖徳太子はあえてこういう言葉を使って日本(倭)と中国(隋)との外交関係が対等であると示した――と教科書には書かれてますがホントでしょうか。そういえば、昨年の首相による「存立危機事態」発言というのがありました。中国政府を激怒させ、経済に悪影響が広がりつつありますが、これも外交センスがないのではなく、首相の深慮遠謀が隠された発言なのでしょうか。


 ……などと、政治向きのことともかく、わたしたちにとって中国は、アメリカやヨーロッパなどとは比べ物にならないくらい重要な国です。海を挟んで隣にある大国――日本という国が生まれ以来、ずっと大国であり続けてきた国――であり、政治的にも文化的にも大きな影響を受けてきました。衣服、食事、住居、文字、学問、道徳など、日本人は中国からあらゆるものを輸入し、模倣して自分たちのものとしてきました。明治維新から150年、西洋の文化を模倣しようとしてきましたが、日本はいまも中国文明のくびき――といっていいのか――から脱してはいないのです。


 ☆


 わたしが『中国の歴史』を読んむことになったきっかけはゲームです、たぶん。当時、夢中になって遊んでいた光栄(いまのコーエーテクモゲームス)の歴史シミュレーションゲームは中国の歴史を主に扱っていました。「三国志」、「水滸伝」、「蒼き狼と白き雌鹿」といったゲームたちがそれ。


 ゲーム好きの人にはあるあるだと思うのですが、あるゲームジャンルが好きになると、その周辺情報を集めたくなる。そうして集めた情報も含めたゲームの世界観がますます好きになるというプラスのスパイラルが生まれるのです。わたしにとって中国の歴史に関する知識は、歴史シミュレーションゲームの楽しさを深化させるために必要な情報だったのです。


 わたしは小説が好きだったので、書店の小説が並べられた書棚の前で周辺情報となる本を物色していたところ、見つけたのが陳舜臣『小説十八史略』でした。これは、古代から宋代(南宋)までの中国の歴史をまとめた読み物で、とても読みやすくてかつ面白い本です。中国歴史の入門書として最適だと思いますし、もっともおすすめできる陳舜臣の著作です。


 ただ、原典の十八史略そのものが、中国歴代十八の正史を要約した書物で、特定の時代を詳しく知ろうとすると物足りない。『小説十八史略』もそれぞれのエピソード自体はおもしろいのだけれど、歴史の流れを把握するには情報が少ないのです。


 ――もっと中国の歴史について詳しく知りたいな。


 わたしのような読者のために書かれた本が『中国の歴史』です。著者は『小説十八史略』を書いた陳舜臣。『小説十八史略』に物足りない人に刺さる中国歴史の解説本です。古代から現代までの中国の通史を小説家・陳舜臣がわかりやすく解説、学術書はともかく一般向けの中国通史としてもっとも理解しやすいのではないかと思います。


 前半にも書きましたが、この国はずっと昔から中国の影響を受け――というか積極的に中国を模倣してみずからの国づくりに生かしてきた歴史があります。中国を理解することはこの国を理解することにつながるし、わたしたち自身の来し方を知る手がかりになると思うのです。『中国の歴史』一度読んでみては?



 陳舜臣『中国の歴史』(講談社文庫)

 中国の歴史を全七巻にわたって陳舜臣が解説する通史解説本です。内容は堅苦しいといえなくもありませんが、著者が小説家ということもあり、政治や経済の制度面から歴史をみるというより、歴史を彩った人物に焦点を当てた書き振りなので教科書よりもよほど読みやすいです。どんな人たちが中国の歴史を動かしてきたのか知るのに最適な一冊、いや七冊。


 陳舜臣ちんしゅんしん(1924-2015)は、兵庫県出身の小説家。代表作は『小説十八史略』、『阿片戦争』、『秘本三国志』など。中国史関連の著作が多く、中国史の著述家として知られているが、乱歩賞、直木賞を受賞したエンタメ小説家でもある。個人的には同郷の作家として尊敬していたが、10年前に亡くなってしまった。


 次回は、ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』を取り上げます。

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わたしをつくった百の物語 藤光 @gigan_280614

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