第14話 幸せが飛んでくる

シロは高い木の上から、動物園の広場を見下ろしていた。いつもなら、ただの風景にしか感じなかったけれど、今日は何かが違って見えた。


「やっぱり、僕はシロクマらしくないんだろうな…」


シロは、ユキとの最初の会話を思い出していた。あの時、「シロクマは泳げるものなのよ」「君は普通のシロクマじゃないわ」と。


でも、それが本当だろうか?シロはまだ答えを見つけられなかった。シロクマとして生まれたけれど、僕が感じる“シロクマらしさ”って何だろう?


そんなとき、下からランの声が聞こえた。


「おい、シロ!」


シロは木の枝をつたってゆっくり下りていった。ランが待っている場所に着くと、ランは何か真剣な顔をしていた。


「なんだい、ラン?」


ランはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと口を開いた。


「シロ、お前が悩んでるの、俺もわかるよ。」


シロはびっくりしてランを


「でも俺の名前、蘭の花からとったって話し覚えてるか?」


シロはうなずいた。何度も聞いたことがある。


「“幸せが飛んでくる”って、あの花言葉だよね。」


ランは少し照れたように笑った。


「そう、それ。それを聞いて、俺は名前を大事に思えるようになったんだ。」


シロはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと答えた。


「僕も…僕の名前に意味があるのかな?シロクマらしくないって思ってたけど、もしかして僕にも、僕なりの“らしさ”があるのかな?」


ランは頷いた。


「絶対あるさ。お前の“シロ”って名前だって、ただの色の名前じゃないだろ?それぞれに意味があるんだよ。お前の“シロ”には、きっとお前だけの“らしさ”があるんだ。」


シロはじっとランの目を見つめた。ランの言葉が少しずつ胸に染みていく。


「それって…僕、どうすればいいんだろう?」


ランはにっこり笑って言った。


「お前が悩む必要なんてないよ。お前の“シロ”はお前しかできないんだから、無理に誰かと比べたりしないで、自分のペースで進んでいけばいいんだよ。」


シロはじっと空を見上げた。自分らしさを探しながら、少しずつ歩んでいくことが、きっと大事だと思った。


「ありがとう、ラン。なんだか、少し楽になったよ。」


ランはにこっと笑って、シロの肩を軽く叩いた。


「お前、ちゃんとお前のままで幸せになるさ。俺も、そう信じてる。」


シロはその言葉を胸に、再び空を見上げた。青空は広がり、何もかもが新しく見えた。


「僕も…僕なりの幸せを探してみるよ。」


その日から、シロは自分の“シロクマらしさ”を少しずつ解放していった。泳げなくても、高い木に登れる自分を誇りに思ったし、自分にしかできないことをして、他の動物たちとも仲良くなった。


シロは、やっと自分の“シロクマらしさ”を見つけた気がした。それは、誰かに合わせることでも、無理に変わることでもなく、ただ自分を大切にすることだった。


そして、シロは改めて心の中で誓った。自分にしかできない幸せを、これからも見つけていこうと。

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