第2話 目覚めたら顎のラインがスッキリしてました。
……生きてる?
目が覚めて最初に感じたのは、妙な軽さだった。
身体が、やたら軽い。そしてなんか視界がおかしい。世界が歪んで見える。巨大な葉っぱが天井のように迫ってくる。
「なにこれ……」
立ち上がろうと手をつく──つもりだった。
が、「手」がない。
代わりにバッサァッと何かを振り切る感触がして、目の前の草がごっそり吹き飛んだ。
「え……今、なにしたの?」
動揺しながら、もう一方の手を見ようとする。が、またしても「バッサァアアア!」
隣の茂みが粉砕された。
「え、え、ちょっと待って……腕……これ……」
ようやく気づいた。
──それは手じゃなかった。鎌カマだった。
尖った刃のような、緑色の関節肢。
私の両手は、左右ともに……いや、両カマだった。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!」
叫び声が上がる。いや、正確には「ギッギギ……!」という、虫の鳴き声。
地面に転がって、仰向けになった私は、自分の胴体と脚も目にした。
細い。長い。節が多い。
そして背中には──羽根。
「嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ!!」
草の奥から「おーい、大丈夫かー?」という意識の波が飛んできた。
声ではない。思考に直接入ってくるような感じ。
そして、現れたのは──カマキリだった。
しかも、顔が近い。
目が多い。ギョロっとしてる。三角形の頭に、くねくね動く触角。超ドアップ。
「……っっ!! ち、近づかないでっっっ!!!」
私は本能的にカマを振った。
バサァアアアアア!!!
カマキリごと後ろの草木をなぎ倒す。
「うおっ!? お前、マジかよ!? いきなり危ねーな!」
怒鳴るような意識が飛んできて、そのカマキリは怒って去っていった。
……今の、たぶん心配してくれたんだ。
私のこと、助けようとして。
でも……無理! 顔がキモイ! 複眼が無理!
足元に崩れ落ちる。鎌を抱えたが、硬くて全然落ち着かない。
「なんで……私が……カマキリ……?」
どうして、あんな虫の中でも最上級に嫌なやつに……。
ふらふらと歩いて川辺へ向かう。自分の姿を確かめたくなった。
そして──水に映った姿を見て、私は確信した。
「カマキリじゃん……完ッ全に、カマキリじゃん……!!!」
複眼の三角フェイス、鋭利な鎌、ぐねぐねした腹部、触角……
これは、もう、“人間の目線から見たカマキリ”そのものだった。
「うっ……うえぇぇぇ……無理ぃぃぃ……!」
水辺で、カマで顔を覆ってうずくまった私は、
そのまま草の影でひっそりと震えていた。
──これは夢だ、そうに違いない。
でも、気配も、空気も、草の匂いも、全部が現実の質感を持っていた。
悪夢は、始まったばかりだった。
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