5 ますます不安になってきたぞ

 バズり始めたお昼ご飯ポストののち、パソコンのモニター越しにみー先輩がにやっと笑った。


「いいじゃんいいじゃーん。前任者、とにかくつまんないポストしかできなかったからさ、新しい公式さんが面白くてネットニュースになってるよー」


 はて、ネットニュース。

 そんなちゃんとしたメディアがこんな無法地帯みたいなボヤイターを見ているものなのだろうか。とても疑問に思ったがいっぺんボヤイターを閉じ、パソコンの隅でチカチカしているおすすめニュースのタブを開く。


「ライヴダンジョン社の新しい『ボヤイター公式さん』、交代直後からハイテンション! 前任者との温度差にネットがざわつく」


 見事にネットニュースにされているではないか。

 というかパソコンの隅でチカチカしているおすすめニュースのタブ、かなり有益な情報がどんどん流れてくるな????

 有名配信者の話題とか、ダンジョンと関係はないけれどスポーツニュースとか、手軽な料理法とか、新作映画の話題とか。バカにして無視していたがときどき見てみよう。


 その日もきっちり定時まで勤めた。いくつか各種公式のポストをリポストしたり、おもしろいリプライをリポストしたりしているうちに夕方だ。なるほど、これがボヤ廃。


「ねーながっち、ホントに歓迎会しなくていーの? あーしら飲む機会あれば飲みたい民なんだけど」


「いえ……みー先輩もえがそー先輩もいい人だから、前の職場のパワハラ飲み会みたいにはならないって分かってはいるんですけど、それでも職場の飲み会と言われると胃が痛くなって」


「そっかー。じゃあ無理に誘っちゃダメだねー。おつかれさんしたー」


「……乙でした。フフッ……」


 そういうわけで解散となった。残業がない! すばらしい!

 しかし残業がない代わりに職場が家から遠い。帰るころには残業より遅くなっている。急ぎ駅にむかい列車に飛び乗る。

 早く帰ってぽてとをヨシヨシしたい。きょうもギャン吠えされるのだろうか。

 家に帰ってくるとすりガラスのところにぽてとはおらず、きっと俺に愛想を尽かしたんだろうな、と思ってションボリする。ドアを開けると、ぽてとは玄関マットの上でぐうぐう寝ていた。


「……ただいま、ぽてと」


「ウウーグルルルルー……」


 小型犬らしからぬ寝言を言って、ぽてとは眠い顔で起き上がった。しっぽをパタパタ振っている。きっと嬉しいのだ。俺も嬉しくなって撫でようとしたら「ギャンッ」と吠えられた。解せぬ。


「おにーちゃんおかえりー」


「ただいま。学校はどうなってる?」


 妹が現れたのできょう学校でなにが起こっているのか尋ねると、どうやら妹は学校で先生がたに「ダンジョン配信者になる」と宣言し、たいそう心配されたらしい。しかし数年前に妹の学校では、妹のように受験に失敗した結果人気配信者になった人がいるのだそうだ。


「なんと! ノギちゃんは学校も先輩だったのです!」


「の、ノギちゃんってあのダンジョンフォーカスの?」


「そう! カラスマスクのノギちゃん! ぜったいお近づきになって後輩として可愛がってもらうんだあ」


 きょう兄さんはノギちゃんと会ってカード交換したもんね、と言いたかったがこれは妹には内緒だ。職場がライヴダンジョン社だと妹にバレたら「あたしを守るとかおにーちゃん過保護。超キモい」と言われて、流しの三角コーナーを見るような目で見られかねない。


「先輩ならさん付けで呼ぼうな」


「ノギちゃんさん、って呼べばいいの?」


「ノギさん、だ」


 とにかく家に上がる。妹は風呂に入るようだ。

 叔父さんの作った夕飯がテーブルに並んでいる。カニカマサラダと菜の花のおひたし。サバの味噌煮。


「お疲れ様。仕事どうだった?」


「ぼちぼちですねえ……すっかりボヤ廃です」


「そうか。そうだね……昔のツイッターは本当に無限に眺められるSNSだったなあ。いっぺんXとかいう得体の知れないものに変わったときはげっそりするような改悪が連発したけど、ボヤイターになってからまたずっと眺められるようになったからね。人類は誤ちを正してよい方向に進んでいる」


 ビールをゴキュゴキュ痛飲しながら、叔父さんに最近はどうか尋ねてみる。


「いまはそれなりに楽しい仕事をやってるよ。昔ダンジョンが発見される前にダンジョン配信ラノベが流行ったのを思い出して、そこに着想を得たSFを書きたい、って編集者さんに相談したらとりあえずプロットくださいってなってる」


「そうですかー……俺もがんばろ」


「その意気その意気」


 そんな話をしていたら妹が中学のジャージで現れた。洒落っ気のカケラもない。


「おにーちゃん、ボヤイターってどうやって見ればいいの? なんか文字ばっかりでつまんない。その文字もちょっとしか書けないし」


「そういうのは叔父さんに聞け。俺よりずっと詳しい。なんでまたボヤイターを?」


「配信者はボヤイターで情報発信しろって、学校の図書室にあった『ダンジョン配信者になるには』って本に書いてあった。叔父さん、インステじゃだめなの?」


「インステは時系列順に並ばないからねえ。Xだったころも時系列順ではなかったなあ。ボヤイターは災害時のインフラとして使えるからって日本人が猛プッシュして時系列順に戻ったんだよ」


「じけいれつ……?」


 わからんのか妹よ。ますます不安になってきたぞ。

 そう思っていると叔父さんは「案ずるより産むが易し」と言ってビールを煽った。俺もビールを煽って、難しいことはなるべく考えないことにした。(つづく)

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