6 時の流れは早いもので
さて、飲んで寝て起きたら朝になった。早く起きたので風呂を浴びて、上がってきたら叔父さんが朝食の支度をしていた。
叔父さんは料理が趣味だ。凝ったものを作るというよりシンプルなものを極めるのが好きである。高校まではずっと弁当も作ってもらった。
「やあ、おはよう」
「おはようございます」
「きょうも頑張って1日踏ん張ろう。朝ごはん、じきにできるよ」
というわけでありがたく座ってテレビをつける。朝の情報番組が流れている。ぽてとが部屋の隅の布団からムクリと起きて俺を見て「キャンキャン!!」と吠えた。
「どうしたぽてと。かわいいなお前」
「ウー」
もののけ姫のモロの君のごとく鼻のあたりにしわを寄せてぽてとが唸る。
こいつ、チワワのくせに怖い顔するな……。とにかく味噌汁と卵焼きと納豆ご飯の朝食を食べ、身支度をして家を出た。ぽてとは玄関までついてきて、大きな目をうるうるさせていた。チワワのこの表情はズルいと思う。思わずスマホで写真を撮ってしまった。帰ってきたら吠えられるのだが。
◇◇◇◇
出社すると、もうえがそー先輩が写真をたくさん撮ってきていた。てっきり遅刻したかと思ったがそうではなく、人気配信者クランの公式が早朝からの探索配信を予告していたため撮りに行ってきたという。
「……きょうも……採れたてピチピチ……」
写真を選ぶ。人気配信者クランの写真だからどれを選んでもそれなりに喜んでもらえるのだろうが、知識がないので、俺のあとから出社してきて暇そうにスマホをいじっていたみー先輩に声をかけた。
「あー、この子ら『赤い閃光』ってクランだね。特に人気なのがこのタトゥーバリバリのアカミチくん。リーダーだよ。でもアカミチくんはアンチも多いからなあ……」
「アンチって……なんでです?」
「ご覧の通りタトゥービッチリなのを隠そうともしないから、一部の自称『良識ある大人』からは嫌われてるみたい。おっさんたちには若くてかっこいい男の子が活躍してるのが憎いってだけだとあーしは思うよー」
なるほど。このタトゥーだらけの男性配信者はアカミチさんというのか。アンチに噛まれたら痛そうなので別の配信者を選ぶ。ピンク髪のポニーテールという、ギャルゲーに出てきそうなビジュアルの女の子の写真を拡大する。
「この子は奏音ちゃん。以前所属していたクランが解散して、しょうがなく『赤い閃光』に入った感じ。前はバリバリの前衛だったけど『赤い閃光』に所属してからはあんまり目立ててないんだよねー」
なるほど。
目立たない配信者に光を当てるのも公式さんのお仕事ではあるまいか、と思い、きょうの昼の「#きょうのダンジョンオフショット」は奏音さんでいくことにした。
さて、昼ご飯にカロリー軒のチャーハンを食べて、どれくらいバズったかなーとパソコンを起動してボヤイターを開く。
「朝早くからお疲れ様です…… #きょうのダンジョンオフショット」という、奏音さんの画像を載せたポストは、やっぱりブワーッといいねとリポストと引用リポストがついていた。リプライと引用リポストを確認する。
『公式さん優しい……』
『奏音ちゃんはもっと注目されていいと思うの』
『アカミチが目立ちすぎるんだよ』
『アカミチ、奏音ちゃんを無駄遣いしてんだよな』
『アカミチマジありえない』
わ、わぁ……。
このままではリプライ欄がアカミチさんアンチのワクワク遊園地になるかもしれない。すっかり万単位でバズっているから見たくない人にも見えてしまうかもしれない。
恐ろしい。それを隣でプロテインバーをかじっているえがそー先輩に相談する。
「……万バズしたら……おまじないするといい……なにか適当な画像を添付して……セルフでリプライすれば……関連性のないリプライが見えにくくなるから……」
なるほど。
スマホのメールからぽてとの画像をパソコンのメールボックスに送信し、それを添付してリプライする。
「おまじないです なんとかなれーッ!!」
それもあっという間にバズってしまった。なんとかなったのだ。
『公式さん犬派!?』
『かわいい!! いまどき珍しい古典的なチワワだ!!』
『消費者金融のコマーシャルに出てそう』
『テレビ老人会やめい』
なんのことかわからないのでちょっと調べると、平成の時代に消費者金融のコマーシャルにチワワが出演して、チワワが大ブームになったことがあったらしい。
とにかく無事、アンチの遊園地になるのを回避した。そしてその日のネットニュースには、『ライヴダンジョン社のボヤイター公式さん、驚きの犬派! かわいい昔ながらのチワワに注目あつまる』の見出しが踊ったのだった。
帰り道、電車に揺られつつふと「ああ……妹がライヴダンジョン公式ボヤイターをフォローしてたら、ぽてとをアップしたのがきっかけで身バレするな……」と思った。
まあそれはそれでいいと思った。いつかはバレるからだ。そう思って、電車から降りて改札を抜け、歩いているうちになんとか家にたどり着いた。
「ただいまー」
「おかえりおにーちゃん。見て見て!!」
妹はインステの画面を見せてきた。ダンジョンゲートに個人ロッカーを登録してもらい、アルバイトで稼いだお小遣いで初期装備スターターパックを購入したのだという。なかなか似合っている。
「ボヤイターはやってないのか?」
「んー、インストールしたけど使い方正直よくわかんない」
「そうか」
安堵する。
◇◇◇◇
さて、時の流れは早いもので、もう3月となった。
俺は相変わらず、ライヴダンジョン社のボヤイター公式さんとして頑張っている。
そして妹の高校の卒業式が行われ、妹はライヴダンジョンの配信サービスに「さやかチャンネル」なるチャンネルを作り、配信活動を始めた。(つづく)
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