第20話 君は雲隠れ

ラジオの次の日、スマホを見るとネットニュースに昨日のラジオの事が話題のニュースに上がっていた。

『福原恋夏、突如ラジオ放送中に泣き出す。』

大きな見出しに書かれた文字。なんだか無機質でそれでいて面白半分に書かれたように感じて、胸がいたんだ。


仕事場に着くと、優香が駆け寄ってきた。

「恋夏〜!!大丈夫だった!?昨日!」

「大丈夫大丈夫、ちょっと感極まっちゃって…」

「そんな感じじゃないでしょーに!!無理しないでいいのよ?」

「んー、無理してないっての。」

優香の熱い抱擁から抜け出して自分のデスクに行く、優香は呆気にとられて立ち尽くしていた。

「福原さーん!今日の原稿、目通しといてね。」

「はい、分かりました。」

「あの、昨日大丈夫?ネットニュースにもなってたし…」

「平気です!なんでもないですよ。」

心配してくれるのは嬉しいけど、あんまり気にしないで欲しいなぁ。

あっという間に仕事の時間になり、今日も変わらずいつも通りの仕事をした。


仕事を終えて、デスクに戻ると優香が待っていた。

「昨日のこと、ちゃんと教えてよね。」

「えー、別になんでもないよ。」

「ユウ、ってさ、もしかしてあんたが好きって言ってた人…じゃないの?」

「っ!なんで…」

「だって、昨日のラジオで恋夏、ユウっていう名前に反応してたじゃん。」

「……。」

図星になって、何も言えなくなる。優香は威張ることもなく淡々と言った。

「恋夏、ゆうくんは今もあんたのことが好きなんだよ。」

「……だから?…憂にはもう会えないよ。」

「…恋夏、そんなふうに考えんな。もう会えない?抜かせ。信じてみなよ、ゆうくんをさ。」

「優香…ありがとう…。」

優香に身を寄せて泣いた。優香は少し驚いてたけど、すぐ理解して私を抱きしめた。


それからずっと、憂のことを考えていた、仕事中も、休憩中もずっと。

気がつけば、もう定時になっていて、空も真っ暗になっていた。

「優香ー、帰ろー?」

「あー、ごめんっ!恋夏!まだ仕事終わんないからちょっと残業するわ。」

「……んー、わかった。じゃあ、一人で帰るね。残業がんば!」

「うん、ありがとう。ごめんね、恋夏!明日は一緒に帰ろうな!」

「そんなこと言ってないで、手を動かしなっ!今からでも間に合うかもでしょ?」

「うー、スパルタ!鬼!」

「ふふふっ、頑張ってね〜。また明日〜。」

「結局置いてくのかよー!」


仕事の帰り道、家で寂しく食べるのも嫌だからつい、最寄り駅の近くにあるラーメン屋に立ち寄った。

お店の中に入り、カウンター席に着く。

「塩ラーメンひとつ下さい。」

「あいよっ!」

入ってきた時はカウンター席にはあんまり人はいなかったけど、私の右隣以外は埋まってしまった。

あれはほんとに憂、だったのかな…。

ぼーっと考え事をしていたらまた1人お店に入ってきて、私の右隣のカウンター席にやってきた。カバンを床に置いて、席に座りかけながら注文していた。

「醤油ラーメンひとつお願いします。」

「あいよぉ!」

隣にも人が来ちゃったな…。

一応身バレ防止のために伊達メガネはつけている。けど、近くで見られたらさすがにバレちゃうかもしれないな…。

「塩ラーメン一丁!」

掛け声とともにゴトッと音を立てて、私の前に塩ラーメンが置かれた。

「ありがとうございます。」

湯気を立てるラーメンを見つめながら割り箸を割る。

「あ…。」

ぼーっとしてたから力加減を間違えて割れ目が傾いてしまった。気を取り直して、手を合わせてから、ラーメンに手をつける。

「いただきます。」

伊達メガネを付けたままだと、メガネが曇って困る。

ほんの少しだけなら外してもバレないかな。ドキドキしながらメガネを外す。メガネをカウンターに置いた時、隣の男の人が声を漏らした。

「え、」

ドキッとして思わず顔を上げた。顔を上げた先には驚いた顔をした男性がいた。優しそうな顔をした男の人は、私の顔を見るなりおずおずと小さな声で聞いた。

「あの、恋夏さん…ですか?」

「え…はい…。?」

そう言うと安心したように顔を緩め、笑みを浮かべた。

「よかったー。あの、この間の恋夏こいなつラジオ、ありがとうございました。」

「えっと…?」

「あ、すみません。急に、この間の恋夏こいなつラジオにユウという名前で応募した者です。」

え…うそ……。

「いつも楽しくご拝聴させていただいてます。この間のラジオでまさか俺のやつを読み上げてもらえるとは思ってなくて、びっくりしました。」

「そう、だったんですね。ありがとう、ございます。」

声が震えないよう、必死に堪えながら相槌を打つ。

「……あ、すみません!ラーメン伸びちゃいますよね。そんな時に話しかけてすみません。」

「いえ……そう言ってもらえて嬉しかったです。」

そう言って、ラーメンを食べ始める。涙が零れて、少し塩味が濃くなったように感じた。


食べ終わってお勘定を終わらせて、店を出る。夜だから、少し涼しくなって過ごしやすい。店の出入口の横に立ち、ある人を待つ。


しばらく待っていると、店のドアが開いた。

「あ、ユウさん。」

「恋夏さん…!?俺を待っててくれてたんですか?!」

「はい。」

「あの、もう少し話しませんか?」

そう言って2人、隣合って歩く。いつかの夏のように。


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曇のち、涙。 あみねここ @Aminekko

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