第19話 君は慈雨
カチ、カチ、カチ……
静かな部屋に時計の音が反響する。いつもの時刻になると、スマホでラジオを流すのがルーティンだ。今日もいつもの時刻になった。
『来る夏!恋は春だけじゃない!夏でもあるんだ!夏恋ラジオー!』
『こんばんはー、
『こんばんはー、初めまして、乾真希です。今夜はよろしくお願いします。』
『よろしくお願いしますー!』
『【恋夏】では、今夜も皆様から応募していただいたおハガキを読ませていただきましょーう!』
『【真希】わー!恋夏さん、今夜のテーマはなんでしょう?』
『【恋夏】ずばり!"私の切ない恋"です!今夜もたくさんのご応募ありがとうございますー』
『【真希】ありがとうございます。』
『【恋夏】さて、第1通目、読み上げていきましょう。こちらはれるりんさんからのお便りでございます。』
『こんばんは、初めまして、福原恋夏さん、乾真希さん。』
『【恋夏】はじめましてー。』
『【真希】初めまして。』
『私は私は今、高校二年生なのですが、ある先輩に恋をしてしまいました。在り来りなのですが、私の恋した先輩は好きな人がいました。私と先輩は、幼稚園の頃から家が隣で、いわゆる幼なじみでした。私が恋心を自覚したのは中学三年生の春、高校生1年生の先輩は、部活に勉強で以前より忙しく一緒にいられる時間が少なくなっていました。だから、私は先輩のいる高校に進むことにしました。そこは難関校でしたが先輩のためなら、と私は必死に勉強しなんとか入学を果たしました。そして、先輩のいる部活にマネージャーとして入り、一緒にいられる時間を増やしました。ですが、高校一年生の夏、先輩は先輩と同学年のマネージャーの子のことが好きだと私に帰り道に打ち明けました。そのとき、そのまま倒れ込んでしまうかと思いました。必死に身を奮い立たせて、先輩を激励しました。それから、先輩とは今まで通りの関係でいます。先輩もまだ、好きな人に告白はしていません。恋夏さん、真希さん、私は一体どうすればいいでしょうか。』
『【恋夏】…ということでございます。』
『【真希】いやー…青春ですね!』
『【恋夏】切なすぎますねー…。』
『【真希】ですねー…。私は先輩の恋を応援すべきだと思います。あ、これは参考程度に聞いといてくださいね。』
『【恋夏】私の意見も参考程度でお願いしますね。私もわかります、好きなのに言えない気持ち。でも、その人のことが本当に好きならば、そっと背中を押すことが一番大切なのではないでしょうか?』
『【恋夏】さて!それでは二通目に移りましょう!』
『こんばんは、はじめまして…』
『【恋夏】時間の流れは早いもので、こちらが本日の最後になります。第六通目!行きましょう!』
『【真希】お願いします!』
『【恋夏】はい!それでは読み上げます。こちらは、ユウ…さん!ユウさんからのお便りです!』
『はじめまして、こんばんは。恋夏さん、真希さん。』
『【恋夏】はじめ…まして。』
『【真希】初めまして〜。』
『私は高校生の夏に事故に遭いました。その事故の後遺症でその夏にあったことをすべて忘れてしまいました。その時のことは今も思い出せないままです。ですが一つだけ鮮明に覚えているものがあって、その夏に誰かに恋をしていた…』
『【恋夏】っ…!!』
アナウンサーの恋夏さんは突然読むのを中断した。
『【真希】恋夏さんっ…!?』
真希さんの声が響いたあと、沈黙が訪れ、すすり泣きする声がかすかに響いた。
『【恋夏】すみませんっ…真希さん、続き読み上げてもらってもいいですか…?』
『【真希】え…わ、わかりました』
真希さんは困惑しつつも、咳払いを一つし、読み上げを交代した。
『その夏に誰かに恋をしていたことだけ。ですがその夏の手がかりが一切ないわけでもないのです。その夏に色んなところに出かけたらしく、水族館で買ったキーホルダーや、遊園地の記念品、夏の縁日で買ったものなど、たくさん夏の思い出は保存しています。いつか思い出すことが出来るんじゃないかと。ですが未だ思い出せていません。それに事故のとき当時使っていたスマホも壊れてしまって、写真や過去のやり取りも復元は不可能だったため、その人のことを思い出す手がかりがないまま時が流れていきました。ですが、ある時母の部屋を覗くと、その夏に撮ったであろう写真が写真立てに飾られていたのです。その写真を見たとき、もしかしてと思い、母に尋ねてみました。ですが母はただの友だちだと言うことしか答えてくれませんでした。そのため、今もその夏のことを思い出せないままです。
長くなりましたが、最後にあの夏に出会った人がこのラジオを聞いていることを願い、このことを伝えたいです。「あの夏に出会ってくれたことを記憶を失った今も、感謝しています。あの夏のことは何一つわかりませんが、幸せでした。君は私が出会った人の中で一番、素敵な人でした。ありがとう。」』
『【真希】…素敵な恋のお話ありがとうございました。』
『【恋夏】ありがとう…ございました。』
恋夏さんは鼻声になりながら声を乗せた。
『【真希】恋夏さん、大丈夫ですか?』
『【恋夏】はい、ご心配おかけしました。』
『【恋夏】今夜も素敵なお話が沢山でしたね!』
『【真希】えぇ!本当に、皆様素晴らしいお話ありがとうございました。』
『【恋夏】それでは、今夜の
『【真希】こちらこそ、素敵なラジオに参加させていただいてありがとうございました。』
『【恋夏】それでは、聞いてくださった皆様、応募していただいた皆様ありがとうございました。それではまた、次の
『【恋夏】【真希】さようなら〜!』
そうして今夜のラジオも幕を閉じた。
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