それぞれの暁
第18話 私は中空
本番10秒前、9、8、···
「おはようございます、あけぼのニュースのお時間です。」
「早速ですが、本日の天気はいかがでしょうか、恋夏ちゃーん」
「はーい、おはようございます。福原恋夏です。今朝は神様のご機嫌が悪いようで曇りのお天気となっております、では本日一日の天気を見ていきましょう」
「暫くは朝の気分を引きずるようで、曇り空が続くようです。曇りのち涙···ではなく雨が降ることがあり折り畳み傘を持っていると安心です。ですが、夕方18時頃には機嫌がよくなり、夜は晴れるでしょう」
「それでは······」
「ふぅー、おつかれー。恋夏、今日もいい仕事したねぇ。」
「お疲れ様、優香。ありがとう。今日も頑張ったー!」
あれから10年の月日が経ち、私はお天気キャスターという仕事に就いた。そして、私はやっと親友と呼べる友だちを作ることが出来た。それがアナウンサーで同期の優香だ。
「お互い大変だよねぇ、生放送多くてさー」
「噛んだら終わりだからさいっつも張り詰めて放送終わった時いっつも虚無になるんだよねー。」
「あー、たしかに。恋夏ってそういうとこあるから見てて楽しいわー。」
「もー、優香のくせにー。」
「どういうツッコミなのそれ笑」
「あははははっ」
優香と仲良く談笑していたら、誰かがやってきた。
「恋夏ちゃーん、今日お昼どう?」
「え…っと、」
「あ!抜け駆けは許さねぇぞ!恋夏ちゃん、俺とは?」
「あ!待て待て!俺とお昼行こうよ!恋夏ちゃん!」
「あ、えと…」
困り果てている私の後ろで、優香が怒りを抑えている表情を浮かべていた。
「ゆ、優香…?」
私が声をかけると優香がぱっと貼り付けた笑みに変わった。
「恋夏ー、今日はあそこ行くって約束してたでしょー?ほら、あたしが前おすすめしたとこ。」
「あー…そ、そっか、そういえばそうだったね。」
「ってことだから、恋夏は今日もあなた達とは食べませーん。」
そう言って周りの男の人たちを一蹴した。
優香が前おすすめしてくれたのはある定食屋さんで、昔ながらの内装が落ち着くいい所だった。その定食屋さんに着いて、2人テーブル席に座った。
「ここはさ、天ぷら定食がウリのとこなんだよね。だからきっと恋夏も気に入る!」
「ありがと、わざわざ私が喜ぶとこ探してくれて」
「……別に…そーいう訳じゃないしっ。」
優香はちょっと子供っぽいとこがある。図星だと否定したがる。だから私はいつも弄んで楽しんでる。
優香は切り替えて新たな話題を切り出した。
「はー、それにしてもほんとモテるよねぇ、恋夏。」
「んー、でもモテても困りもんだよ…。」
「たしかにねぇ、好きな人がいるんだもんねっ!」
「…うん、まぁ…。」
あのことを思い出してすこし、ブルーな気分になった。その様子を優香は察したように言った。
「好きな人で思い出したけどさー、恋夏あたしに話しかけようと思った理由がさ、"初恋の人に名前が似てるから"だったよねー!ほんと笑えるー!」
「もー、またその話してる。笑」
私が決まってその話題を出されると笑ってしまうのを分かっているからなのか単に思いついただけなのか分からないけど、優香はそんな気遣いをしてくれる人だ。正直モテない理由はあまりないと思う。
「それにしてもさー、恋夏に群がりやがって、アイツら…あたしの方にも来てもいいと思うんだよなぁ、なんで来ないんだか。美女二人並んでるんだからどっちも行けばいーでしょーに。」
「ふふっ」
「そういう口の悪さが近寄り難くなってんじゃねーの?」
2人話してたら後ろの席から声が聞こえた。
「あっ!柚留?!」
優香はびっくりした声を出して後ろの席を見た。そこには同じアナウンサーの相馬柚留さんがいた。
「相馬さん!?なんでここに…。」
「もしかしてストーカー?ありえな…」
「おいコラ、あのね、たまたま入った店に君らがいただけだっつーの。」
「はいはい、言い訳見苦しいわ。」
「嘘じゃないっての!」
「ふふふっ…。」
私は密かにこの二人の間には愛がある気がしてならない。だから私は優香はモテる必要なんかないんじゃないかと思っている。
「食事の席くらい落ち着けよ、優香」
「いちいち鼻につくヤローだわ。」
私が微笑ましく眺めていたら優香が呆れ顔で聞いてきた。
「で?恋夏はさっきから何ニヤニヤしてんのさ?」
「ニヤニヤって…!いやね、なんかいいパートナーだなぁって。」
「「はぁ?そんなのこっちから願い下げだ!」」
「おぉ、息ぴったり…!」
「「合わせるな!!」」
「ふふふっ、ふふっふふふ…。」
2人息ぴったりすぎてツボに入りそうになった。
「もー、恋夏ー…。」
いつも押しの強い優香が相馬さんに対してはタジタジでその様子もとても微笑ましい。
そんな二人を見ていると、私の心に空いた隙間に暖かい風が舞い込むような気がして、心が温まるような、肌寒くなって寂しさを感じるような気がして、少し切なくなる。
それでも、これは私が望んだことだから、後悔はしていない。私は今、幸せだと思う。
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